「政党が抗議しそうなこと」を報道する覚悟も力もすでにテレビも新聞もない。その典型的な例が2014年(昨年)の12月の選挙だ。
この時、自民党はマスコミに対して3つの作戦を組んだ。民主主義下の政党としてやるべきだったかどうかは別にして、実際に自民党がやったことは確かだ。
1) 消費税の減免措置に「報道」を入れるとくことで、日本新聞協会(テレビも含む)に打診する(会合がもたれた)。・・・アメ
2) 選挙前に「選挙の前は報道の中立性に特に留意すること」という申し入れを行う。・・・ムチ
3) 公約で本当の争点であった「安保法案」を掲げず、アベノミクスと消費税を選挙の争点にした(経済選挙の見かけを作る戦術)。
選挙に戦術があってもかまわないので、3)は普通なら認められる範囲だ。でも、1)のアメと2)のムチとの総合作戦で、マスコミは金縛りに遭った。2014年の総選挙の前には「政治報道、政治討論」などは極めて少なくなったので、私はあるテレビ局の人に聞いたら、「やりにくいんですよ」と言っていた。
安保法案、消費税、アベノミクスのいずれも大きな選挙の争点だったが、もともと安保法案は、民主党、公明党、維新の会、みんなの党が自分の党の政策にもしていたので、自民党としては無理矢理、公約として出す必要は無く、また憲法論争、集団的自衛権などは戦争と関わり、議論が紛糾すると考えた。これは戦術としては正しく、2015年の安保法案の騒動を見れば納得できる。
しかし、これではマスコミは何のためにあるのだろうか? ある政党が選挙戦術としてある政策に議論が及ばないようにしても、それが国民にとって大きな関心事なら、特に意識して取り上げる必要がある。
2015年に衆議院で可決された後、マスコミの多くは「安保法制反対」の立場をとって紙面を作った。特に朝日新聞などの「煽り新聞」はそれが目立った。それではなぜ、朝日新聞は2014年の選挙の前に安保法案を争点にしなかったのだろうか?
すでに2014年7月1日には閣議で「憲法を改正せずに集団的自衛権の法案を次の国会に出す」と言うことが決まっていたのだから、選挙の時こそ争点にすべきなのである。
朝日新聞の考えは次のようだったと考えられる。
1) 自民党が勝つ情勢だったから、消費税の減免措置を認めてもらうには自民党が不利になる報道はできない。
2) 安保法案は国会に上程され、可決までに世論が反対に傾いたら、それを煽れば良い。その方が部数が伸びる。
3) 民主主義的に言えば、選挙の争点にすべきだが、日本の新聞は「正当な役割」を果たすと必ず国民から目を背けられる(国際連盟脱退などの例がある)。
「報道の自由を実現する」という理想に燃えたテレビや新聞を期待することはできない。それは日本人が「煽りに弱い国民」である限り、仕方が無いので、自分で政党の方向を考えることだ。ネットの一部は役に立つ。
(平成27年10月6日)