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気が付いたら、私は足が2本、手が2本、目が二つあった・・・55千万年前に多細胞生物が誕生した時には目は1つから5つだったが、今では2つと決まっているが、その目もたしかに二つある・・・これほど複雑な体なのに、一応の形に仕上げてくれている。

 

そして寒い、暑い、ひもじい、おいしい、辛い、楽しい・・・なんでもわかるし、さらに勉強したり、スポーツを楽しんだりもできる。素晴らしいことだ。DNAという化合物が私の体の中にあり、それが母親の胎内にいるときに私を作ってくれた。よく無事でいたものだ。

 

このDNAというのは1万年前にできたものだという。その頃、日本は縄文時代だから、おそらくわらぶきの竪穴住宅に住み、小さい農業を営んだり、シカを追いかけたりしていたことだろう。だから、DNAに書き込まれた私の設計図は、かなり古い環境に適しているはずだ。「塩辛いものが好きだ。なぜ?」と聞くと、大昔、塩は貴重だったので、取れる時にはとるように舌ができていると説明された。それもこれもDNAが大昔の状態にあるからだろう。

 

体はDNAでできているけれど、意識は脳が関係する。「ミーム(meme)」というのがあるが、私たちは体の遺伝子(DNA)のほかに、文化的遺伝子(ミーム)を持っていて、約300年ほど前からの記憶を何らかの形で活用しているとされている。日本人が日本の古いものをあまり見たことがないのに「よいな」と思ったりするのがそれである。

 

さらに、「ミラー・ニューロン」というのも見つかっている。生まれたての私たちの頭は脳神経が未発達で、記憶も何もないとされているが、お母さんのしぐさや日本語を理解しやすいように神経があらかじめセットされているというのが最近の研究にあり、サルなどでは実験的にも証明されている。STAP論文でもわかるように、私たちの細胞はかなり後天的な刺激を受けて変化するし、まして数1000年にわたって日本列島で生活していれば、それに適合した体や、頭脳になることは容易に納得できる。

 

一般的に狭い面積の島に住む住民は背が低く、広い大陸の民族は背が高い。このことを「競争の激しさ」で説明することもできるし、物理学的に「容器のサイズとその中の物体のサイズの比例関係」で解説することも可能である。いずれにしても、ミームやミラーニューロンは「私たちは日本人である」という色彩をかなり持っていることは間違いない。

 

最後に「大脳皮質」がある。このメモリーは完全に後天的で、赤ちゃんの頃から学んだことによって作られていくとされている。つまり、母親が「あの人は敵よ」と教えてくれるものはDNAやミラーニューロンにあるが、高校生の時にひどい目にあったので、「あいつは敵だ」と知るのは大脳皮質だとされる。

 

DNAが私の基礎を作り、ミラーニューロンやミームが半後天的な私の気質を作っている。そして私自身の経験が大脳皮質に蓄積して、私の健康、体、考え、気質、人格を形成する。それでもお酒を飲むと大脳皮質の働きが弱まり、私は原始にもどる。脳の深部が働き出すのだ。そして、いやに女性が美しく見えたり、気が大きくなったりする。

 

心は複雑だなと思う。DNA、ミーム、ミラーニューロン、大脳皮質、脳の深部が絡んで、その時その日の私の「気分や健康」となる。それにしては、大脳皮質を除いて、「現代」にマッチしたものはない。私たちの精神的な苦しさ、悩み、肥満、不満、未来への不安・・・すべてはこのマッチングにあるのではないだろうか?

 

あまりに複雑な人間のしくみ、それが私たちの人生を支えているのだが、良いことばかりではない。複雑であるがゆえに、「幸福」になるには複雑さが大切だ。その一つが、日本の伝統と私たちの気分が一つのキーであると思う。

 

(平成2684日)