(この記事は、私自身が「対立から合意へ」と言っているのに対立をあおる内容があったので、修正しました。音声も変えました。)
「安くて安全な電気」があれば、原発をどうするかという議論はなくなる。それがないから、政府は「安くて安全に電気を作る方法がないから、国民は安全か、高いかを選べ」と言うので論争が絶えないように思う。
だから、真剣に考えなければならないし、対立をあおるために、もしウソを言っているなら日本のためにならない。対立を減らして合意に至るためには、まず「思想」から入るのではなく、「事実の共有」から始めたい。
まず政府が2013年12月(つい最近)に計算値を発表している。それは資源エネルギー庁の委員会の報告を見てみよう。
このグラフは資源エネルギー庁が発表した電力料金の試算で、少し政治的な部分もあるけれど、2013年12月19日に発表されたもので、労作だから、まずはこの計算から見てみることにする。
政府の公式な文書と言うのはある部署が自由に出せるものではない。関係先に差しさわりの無いように配慮しなければならない。だからどうしても「純学問的」ではなく、政治的な意味合いが入る。
このグラフを作った学者にしても、「御用学者」と言われるのは不本意だろう。本当は学問的に計算したいのだが、それでは日本社会の合意に至らないという気持ちがあり、最大限、学問的にするが、それ以上はできないということになる。つまり「ウソにならない程度に本当のことを書く」というわけだ。
このグラフの場合も、まずパッと見ると、棒グラフの上に赤で囲った数字が目立つ。本来はグラフなのだから、縦軸の数字を見ればわかるので赤で囲った数字はいらないのだが、普通の人はグラフをいちいち見るより、数字を見て判断するので追記されている。 また、原発の場合は安いほうが8.9円(すべてキロワットあたり)で、高いほうの計算値は書いていない。
これに対して石炭は10.3円から10.6円、LNG火力は10.9円から11.4円となっている。このように報告されると、つい「原発は安いほうの値段しか書いていないので、比較するときには安いほうでしか比較できないので、安いほうで比較する」ということになり、原発8.9円、石炭10.3円、LNG10.9円で「原発が一番安い」ということになる。
それなら資源エネルギー庁の計画と政府が国民に呼びかけている「原発がなければ日本経済が破たんする」というのと一部、合致するので、トラブルが起きない。
ところがよくよくグラフを見ると。石炭とLNGは燃料費が相場によって変わるので、その変動を考えて0.3円から0.5円の幅を持たせているが、原発の場合はウランの値段も原発を建設するための資本費にも幅を持たせていない。
(どんどん、専門的になっていくけれど、大切なことなので、さらに突っ込んで整理してみる)
原発は建設や維持に大きなお金がかかり、その時のコンクリートの値段などに大きく影響される。コンクリートの原料となるセメントは石炭など焼いて作るので、石炭の値段が変われば建設費や維持費が大幅に変わる。つまり、セメントを作るときに大量の化石燃料を使い、運搬にまた油を大量に使うので、そこでCO2を大量に出す。
つまり、原発は建設や維持にお金がかかり(その時にCO2を大量に出すし、価格変動も大きい)、燃料費(ウラン代金)は比較的安い。それに対して、石炭火力やLNG火力は建設や維持にはあまりお金がかからないが燃料費が高い。でも、それは「方法が違うから、コスト構成も違う」ということで、このことは、方法によってCO2の排出量に差が出るか出ないかとか、価格の変動があるかどうかとは直接的な関係はない。
つまり、「エネルギーの専門家でなければ、発電所は建設すれば終わり」と思うので、運転時の変動しか書いていないということだ。これは一貫した日本政府の方法で、私が原子力委員会の開発部会の委員だった頃、委員会の「原発はCO2を出さない」という資源エネルギー庁のレポートが提出された。私が、「原発はCO2を出さないというのは間違っている。建設や維持にCO2を出す」と指摘したら、「国際的にも原発はCO2を出さないことになっている」と説明された。
国の委員会で専門家しかいないところでも、「建前」が優先する。これは日本という大きな国の政治を進めるには、「本当のこと」だけではうまくいかないという確信が指導部にあるように見える。
つまり、当時はまだ福島原発事故の前で原発を推進するというのが国の政策だったから、そのためには「原発はCO2を出さない」ということにしておかないとまずいということで資源エネルギー庁も政府の方針に従っていた。国際的にも建設時に使うセメントや鉄鋼を製造する時のCO2は計算しないということになっていた。
少し長くなり内容も難しいので、ここで一段落するけれど、国から発表されるデータは「政府が悪い意図を持っていなくても、国民が読むときには注意が必要」と言うことがわかる。原発を建設するときに発生するCO2を頭に入れて、少しずつこの計算値を検討してみたい。
資源エネルギー庁が国民の議論が大切な時期にレポートを出したことは評価しなければならない。
(平成26年2月26日)