「貿易」という問題を歴史的に考える、つまり他の国のものを自分の国で使おうと思ったら、1)モンゴルのように一つの国になる、2)植民地を持つ、3)ブロック経済圏を作りそこだけでうまくやる、4)生産品(物)を自由貿易する、という段階に進歩してきた。
そして社会が成熟し、第三次産業(サービス、ソフトなど)が主体となったのだから、自由貿易が拡大して、将来は「主権はあるが、貿易や通貨は共通」という方向に進むのだから、全体の歴史の流れとしてはTPPに反対する根拠がない。
特に、日本は戦後、「物の自由貿易」があったからこそ高度成長し、かつ世界の一流国になったのだから、自分だけが良いことだけを認めるといっても、なかなか多くの国がある中でむつかしいだろう。「自分の国が得をしたい」というのは良いが、それを「相手の国にも納得できる形」をとる必要がある。
日本国内のTPPに対する反対は、TPPには「日本が困ることがある」ということだ。一般的に「困る」と言われたことで、本当は困らないことと、本当に困ることにまずは分類する。
日本の産業の競争力がないから負ける(農業など)
日本のシステムの方が良いのに悪いものを押し付けられる(医療など)
遺伝子作物など健康面
秘密主義、ISD条項など「不条理」なものがある。
このうち、1)については「日本の農業は普通の産業ではない」という特殊な状態にあるが、どうしてそうなったか、農業の実態とはなにかについては次の機会に説明する予定だが、農業を保護して数10年、そろそろ外圧が必要で、国民全体からみると現在の農業にショックが来るのはやむを得ない。そこの人たちが被害を蒙らないようにする政治的配慮が必要なだけだ。
次に医療だが、日本の医療はアメリカに比べて素晴らしい競争力を持っているので、アメリカ式医療と日本式医療を併存させれば日本の医療の勝利は間違いなく、アメリカの医療制度が崩壊するだろう。
この状況変化は厚生労働省の行政の問題点も同時に浮き彫りにするから、日本国民いとってとても良い結果になると思う。トヨタの車が自由化したほうが強いのは、本質的に優れているからで、しょせん、自由貿易では強い産業を作る必要があるのは当然でもある。
だから、農業も医療もそれほど問題ではない。医療は特に30兆円を超えて今後の行き先が不透明だから、ここでアメリカとの競争に入ることは良いと思う。
このように整理すると、問題はTPPの秘密主義ということになる。国際的に何を議論しているのかわからない、ISD条項で訴訟が起こると世界銀行の調停機関は一審制で内容もはっきりしない。こんなことでは平等な条約とは言えない。
ところで、この点で日本の中に反対論が強すぎて、「なぜ、秘密主義なのか?」という理由について合理的な説明がまだない。「国際金融資本の陰謀」とか「オバマ大統領の資金稼ぎ」ということは言われるが、国際的な合意事項が「陰謀」や「資金稼ぎ」で説明され、納得されるはずもない。
「なぜ、秘密なのか?」を正々堂々、秘密なく公開で聞けばよい。「どこかで聞いた」ではなく「日本社会が簡単に知りうる状態で、アメリカの意図がわかる」ということにならないと、異論は続く。
TPPは現在のところ、日本が加入しないと意味のない(片務的・・・貿易協定なのにGDPでいえばアメリカだけ)ものだから、政府は日本人がはっきり理解できるように内容を明らかにするべきだ。「国民の理解を得たい」と言っているが、その実「理解を得る努力をしていない」のは歴然としている。このような古い日本の体質を壊すにはTPPなどは良いとも思われる。
でも私は原発事故で明らかになった「日本の指導層が平気でうそを言う」という中でTPPのような高度で複雑な問題を正しく議論できるのか? やや絶望的だ。「原発は安全、でも新潟に作るのは危険だから」とか、「1年1ミリという規則はない」、「温暖化している」というようなはっきりしたウソや矛盾がそのまま社会に通るのだから。
(平成25年11月18日)