少し古い映画だが、日本人の多くが知っている、壺井栄原作、木下圭介監督、高峰秀子主演の映画で、瀬戸内海に浮かぶ小豆島の小学校を舞台に、戦争で揺れる先生と生徒の物語だ。
多くの名作がそうであるように、筋は比較的、すっきりしていても、そこで表現しているものが深い。私が受け取ったこの映画は「なにもなければ幸福な人生を送ることができる島の人が、戦争というほとんど自分たちに関係のないことによって人生が大きく変わる」というメッセージを発しているように見えた。
それは現在の原発問題とダブる。危険な原発を大した理由もなく作る。作ることを決めた人は東京にいて、東京の電気を福島で作る。「原発は安全ですか?」と聞くと「安全です」と答え、「ではなんで東京に作らないのですか?」と聞くと「危険だから」と答える人たちだ。
戦争も同じだった。「戦争しなければならないほど危険ですか?」と聞くと、「危険です」と答え、「あなたは戦場に行きますか?」という問いには「行きません」と答える。
自分が危険でなく、他人だけが危険なら、自分の得になるようにしたい、理屈はいくらでもつく・・・そんな中でもともと日本の美しい自然の中で幸福に人生を送ることができる人が不幸になる。
人間は「良いと思うことは悪い結果になる」という思考にひずみを持った存在だ。個別が正しくても全体は間違っているし、個別が正しくても時間がたつと間違っていることがわかる。それをするのが人間だが、それでも個別の正しさを頑張り、不幸になる。まるで不幸な社会を作って個人の幸福を奪うために必死になっているというように見えるのだ。
木下圭介監督の抒情あふれるカメラワークと、高峰秀子の卓越した演技力が名画を世にだし、それが多くの人に感動を与える。できればこの映画の本質を理解して原発も利権争いもやめてほしいものだ。
(平成25年11月17日)