「正しいとはなにか」の第一回、第二回で「事実を正確に整理すること」、「思いがあっても、事実を曲げないこと」が「正しいこと」に到達する第一歩であることをかきました。また「良い人」は時に「悪いこと」をしがちであることも触れました。
ところで、「正しい」の基礎は「正しいデータ」ですが、一般の人でも事実と異なるデータで洗脳されるのは我慢できないと思いますが、私は科学者なので「誰がどのように言っている」と言うことより「データそのもの」をまずは参考にするので、さらにイライラは募ります。
先日、東大・赤川先生が高校生用に講義されたビデオを見ていたら、「少子化」の問題を説明しておられ、その中で「女性の就労率(労働力率)が高くなると女性が子どもを産むようになる」という国などが使っているデータに大幅なトリックがあることを示しておられました。
このグラフは講義の元となっている平成17年に男女共同参画局から出された「少子化と男女共同参画に関する社会環境の国際比較報告書」に掲載されているものです。
普通の人は「お役所のものである」、「正確そうに見えるグラフだ」ということでそのままこのデータを信じると思います。そして、このグラフから「女性が労働できる条件では、出生率も上がる」と思うでしょう。つまり「少子化を防ぐためには、女性が働きやすくすること」と考えるのは当然です。
しかし、それは「お役所の詐欺」のようなものだったのです。
このグラフはお役所が言っている「OECD諸国」のデータというのをそのままプロットしたもので、横軸の就労率と縦軸の出生率にはなんの関係もありません。同じデータでこのように違うのは、お役所のグラフはOECDの諸国の内、「結論を出すのに不都合な、トルコ、メキシコ、東ヨーロッパ諸国」のデータを抜いているからです。
なぜ、お役所が都合の悪いデータを抜いたか?についても先生がコメントしていて、単なるミス、確信犯的行動などと分析しておられますが、お役所の都合の悪いデータだけが抜かれているのはミスでは無いと思います。お役所は正直に説明してください。
さらに先生が整理すると驚くべき事がわかりました。お役所のデータはOECDに加盟している諸国ですが、もともとOECDに加盟しているかどうかはこの整理には関係が無く、所得の方が問題ですから、年収が1万ドル以上の国(49カ国)の状態をプロットするとこのグラフのようにまるで逆の傾向になります。これもネットから先生のグラフを切り取って引用させていただきました。
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私たちは一体、何のために税金を払っているのでしょうか? 環境省や厚生労働省がもっとも酷いのですが、男女共同参画のような内閣府のものも国民を騙すためのデータと言えます。
1)第一段階としてOECDの一部のデータだけを使用して間違った傾向を示す。
2)もともと、生活レベルや社会の発展段階との関係なので、所得でまとめるべきなのにOECDに限定している、
3)その結果、本当は「女性が就労しない方が子どもが多い」のに、その全く反対の結果「女性が就労した方が子どもが多い」という結論にしている、
4)つまり、自分たちの目的を達し、天下り先を増やし、御用学者に研究費を回す。
という結果をもたらしています。
専門家も情けないし、役人も魂があるのか疑問ですし、日本社会がこんなになってしまったことは本当に嘆かわしいと思います。しかし、嘆いてばかりではダメなので、このようなトリックの原因を探る必要があります。
まず、トリックを掛けた役人は「トリックを掛けることが正しい」と信じていることです。その理由は、
1)国のために女性の雇用機会を増やすのは大切だ、
2)少子化が怖いと言うことはすでに十分に社会に知られている、
3)だから、女性の就労率を上げると少子化が防ぐことができるというデータをねつ造すると、就労率が上がる、
4)国民はどうせバカで、政策は俺たち(官僚)が決めた方が良いのだから、世論操作は正当だ、
という論理です。この論理もある側面から見ると「正しい」のです。
それに加えて、政府側のマスコミが存在すると、「環境ホルモン感染症」をはやらせることができます。「環境ホルモン感染症」とは、多くのデータから恣意的に目的にあうデータだけを取り出すことで自分の主張を通すという専門家の疾病です。
15年ほど前に日本で「環境ホルモン」が話題になりました。「人工物質でオスがメスになる」というものですが、動物の世界では「オスとメスが入れ替わるのは良くあること」という科学的事実と、「一般の人はそれを知らない」という事を巧みに組み合わせて社会に錯覚をもたらすという方法でした。
多くのデータの内、自らの主張に都合のよいものだけを抜き出して人々をある思想に誘導すること、それは「環境ホルモン症候群」とも呼べる悪辣な犯罪ですが、これが見方によっては正しいことになり、中央官庁が利用したのが、女性就労率と少子化のグラフだったのです。
(平成25年3月12日)