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311日夕刻、東北の大地震から1時間ぐらい経ったところで、津波が福島原発を襲い、正面からの津波は原発の前に高さ43メートルの建物があったので防いだのですが、おそらく南の防潮堤のない海岸線から迂回した海水で原発は水没したと考えられます。

原発が立っていたところの標高は8メートル程度でしたから、15メートルの津波で水没する事は間違いありません。つまり「津波に襲われて原発が壊れた」のではなく、「浸水して地下の電源が破壊された」というのが正しい表現です。そして停電し、原子炉が冷却ができなくなりました。

この時、発電所内はどのような状態だったかというと、電気が消えて暗い中をヘルメットについた懐中電灯で作業し、電源の回復を図ったと考えられます。しかし、わずかに公開されている記録によると、夜の9時頃には「冷却ができずに1日以内で爆発するか、大量の放射性物質が漏れる」ということがわかっていたのです。

この時、もし私が発電所長だったら、すぐ地元消防、福島県、付近の市町村に緊急連絡して爆発の可能性を伝えます。私は石油化学コンビナートや原子力施設で勤務し、または所長として責任を持っていました。

それは、今から30年ほど前ですが、それでも日本という国はシッカリしていて、自分が運転している施設が危険になったときには、上司や会社の了解無く地元消防などに連絡し、必要に応じて避難してもらうことになっていました。

日本が高度成長の時代でしたが、社会は健全で、「悪いことは悪い」という雰囲気がありました。石油化学コンビナートや原子力施設は「もし事故があれば地元に迷惑を掛けることがある」ということと、「地元に安全だと説明して納得してもらっている」という二つの事実があり、それを正面から見る勇気があった時代でした。

今は日本が沈滞し、そのような時には形式論が実態より重視されます. 「社内規則はどうなっているか」とか「法律で連絡することが定められているか」などを問題にする人の数が増えているのです.

毎日、穏やかに生活をしている家は、「安全であるけれど、火事も起こりうる」というものです。ある時に一階が火事になり、二階で子どもが勉強していたら、親はまず何をするでしょうか? 必死に大声で子どもに伝え、それから火事を消そうとし、それでもダメなら消防署に電話して自分も逃げるという順序でしょう.

これは自然の人間の行動で、この時に「この家の所有者は会社に出勤している父親だから、まず二階の子どもに避難を呼び掛ける前に、職場の父親の許可を得ないといけないとか、消防署に連絡すると失火の責任を取らされるから火事が本格的になる前には電話しないようにしよう」、などとは考えません.

細かい法令や規則の前に、人間としてするべき事があるからです。私がコンビナートは原子力施設で仕事をしていた頃、「社内規則がどうなっている」ということより「このコンビナートは市民の協力で運転しているのだから、危険が予想されたら真っ先に市民に知らせなければいけない」という常識がそのまま通っていたのです.

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311日夕刻、爆発か大量の放射性物質の漏洩がほぼ確実になった時、福島原発の幹部は本社に連絡していました。危険の判断は現場がもっとも早く正確に把握できますから、直ちに避難を呼び掛ける必要があったのです。

また、311日夕刻の時点では爆発の規模は定かでは無かったのですから、現実に漏洩した80京ベクレルを遙かに超える可能性もありました。つまり風下の人は寒い夜でしたが、すぐ避難を開始する必要があったのです。

結果としてはもっとも被曝した人が100ミリから200ミリシーベルトぐらいと予想されますが、風向きや爆発の状態によっては1シーベルトを超える可能性もあったのです。

日本で「事故を起こした工場」の責任者などが「英雄視」されることはありません。もちろん事故を起こした工場では、徹夜をし、危険を冒し、死ぬように頑張るのは常のことです. 雪印乳業事件の時に、社長が「私は一睡もしていない」と記者に言ったら、一斉にバッシングしました.

この厳しさは事故の再発や責任の所在ということで、日本の道徳観がシッカリしていたことを意味しています. それなのに福島原発事故では事故後の処理に入った人ではなく、事故を起こした東電や発電所の人を英雄するマスコミもありました。

そして、現在、大飯原発が再開されていますが、事故の可能性が出たときには、消防に連絡を取り、消防は住民を避難させるということはしません. 事故の教訓と日本の産業界の良き伝統は社会の歪みの中に埋没しています.

今からでも遅くないので、大飯原発の事故の時に、原発が連絡する消防署、消防の仕事、それに避難のためのバスなどを準備する必要があります。

(平成25119日)