友人と熊本から鹿児島へトンネルだらけの高速道路を走る。かつて土がむき出しの凹凸のある壁は避難通路もある見事な作りだ。笹子トンネル事故を思い出して思わず天井を見あげてしまう。
「まだ消防団、やってるの?」
人間には災害がつきものだ。だから消防はなくてはならない。
「もちろん。真っ先に駆けつけるのは消防署じゃなくて消防団だから」
「そう、消防団が先なの?」
「だって、消防士は火の中に突撃する装備でくるから出動に時間がかかる。それまでは俺たちだから」
・・・
かつてヒューストンのヒルトンに泊まっている時、突如として火災警報が鳴り響き、目をこすりながらカーテンを開けると、なんと!何10台という消防車がホテルを取り囲んでいるではないか!
エレベータは動かず、36階のフロアーにはけたたましくサイレンが鳴り響き、真っ赤なラントが点滅する。非常口から一目散に駆け下りた。10階ぐらいおりたところだろうか、下から若い消防士が巨大なブーツを履いて駆け上がってきた。
「どこだ!火は見たか!(英語)」
「火は見なかった!私は36階から降りてきた!」
10人ほどの一団とすれ違うと一人遅れて上がってくる年配の指揮官とすれ違う。私はそこで気がついた。先頭を切って昇っていったあの男、年の頃25才ぐらいで背丈も高く精悍な若者だった。
「彼が上に行って、私が逃げる?! 彼は若いし、私は歳を取っているのに?!」
それからというもの、若い人が危険な目にあったり、私の雑用を頼んだりすることが恥ずかしくなった。なんで年配の私が逃げてきたところに、いくら消防士といえども行かなければならないのか?! それはいかにも不当だ。
・・・
アメリカでは消防士の殉死は年間100人にのぼり、そのうち半分はボランティアである。人間社会は哀しいものだ。多くの人が安全に暮らすために神は若干の犠牲を求める。日本の消防の殉死者は約20名。
11月27日、十和田の火災に急行した十和田市消防団・角田大介部長殉死。享年32。彼の命とその魂は臨月にあった子どもに引き継がれた。彼は天寿を全うし、彼は死んではいない。
(平成24年12月10日)