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(深みにはまってきましたが、行きがかりですから)

「喫煙率が2分の1になると肺がん死が10倍になる(男性)」、「喫煙率が変わらないのに肺がん死が10倍になる(女性)」というグラフを前にして、科学者はまず「タバコを吸うと肺がんが減るのだな」とか「タバコと肺がんはあまり関係が無いのだな」と思うことだという話を書きました。

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前のグラフは横軸が西暦で、1960年頃から2010年頃までの喫煙率と肺がん死の関係を示したものでしたが、それをもう一度、ここでは横軸を喫煙率、縦軸を肺がん死として1つのグラフにしたのがこれです(目盛り無し。傾向だけ)。

なにしろ、男性の場合、喫煙率が下がると肺がん死が増えるのですから、どうしてもこのようなグラフになり、これを見ると、「タバコを吸う人が少なくなると肺がん死が増えるのだな」と思ってしまいます。科学者でなくても同じかもしれません。

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その記事に寄せられた多くの方のお考えを受けて、第二弾を書きたくなりました。数年前「CO2が増えると地球が温暖化する」というグラフがでてきました。横軸にCO2濃度、縦軸に地球の気温のグラフで、ざっと言うとこのグラフのようになっています。

「このグラフを見て、科学者たるもの、まずはCO2が増えると地球が温暖化すると考えなければいけないのではないか? 武田はどう思ったのだ!」とお叱りを受けるでしょう。もっとも厳しい反論を自分で考えてみるのも科学者の大切なところです。

このグラフを見れば、私が「CO2は温暖化にあまり関係がない。温暖化の主原因は太陽活動と都市化だ」と言っていても、とりあえず「CO2かな?」と思わなければなりません。そこで、似たようなグラフを自分で書いてみることにしました。

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このグラフは横軸が「武田の年齢」、縦軸が「地球の気温」です。「おっ! 私の年齢が上がると地球が温暖化している。可笑しいな?さして体温が上がっていないし、自分一人の年齢で地球が温暖化したりするのだろうか? もしかすると私は神様かな??」と妄想に耽ります。

最初から種明かしをしますと、「CO2が増えると温暖化する」という最初のグラフにトリックがあるのです。それは「西暦とCO2」、「西暦と気温」という二つのグラフを一つにしたものだからです。最近になるほどCO2が高い、最近になるほど気温が高いという2つのことを一つのグラフにすると、関係があるように見えます。

これと同じように、最近になるほど武田が歳を取る、最近になるほど気温があがるというのを一つにしたのがこのグラフだからです。つまり、あることが「時間とともに変わる」という現象がある場合、それを一つのグラフにすると、どんなことでも言える事になります。

「喫煙率が下がると、温暖化する」というグラフもかけますし、その理由として「煙が多くなると、それが上空で太陽の光を吸収して温度が上がる」などと科学的ではないことを説明する事すらできます。

つまり、時が経つと変化するというようなものを扱う場合(他の場合も類似していますが)、関係ないものでも「相関関係」をグラフにすることができると言うことを示しています。これを科学者はどのように処理するのでしょうか?

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たとえば、地球温暖化の場合、第一に温暖化の原因と思われるものを考えます。「太陽、都市化、CO2」とします。そしてグラフを書いてみて、もし、このグラフのように「CO2が増えると、気温が下がる(仮想的)」、「都市化が進んでも気温は変わらない(仮想的)」、「太陽活動が盛んになると、気温が上がる」という3つのグラフがあった場合、「もしかしたら温暖化の原因は太陽かな? CO2は関係があるかもしれないが、もう少し調べよう」という事になります。

つまり、「関係がありそうな要因の内、肯定的なら一応、その時点で要因の候補に入れる。関係がないか、逆の場合は、やや否定的に見る」ということにします。

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タバコの場合はこの図のような傾向になります。肺がんの要因になりそうな、「喫煙率」、「大気の汚れ」、「ストレス」を取ると、このようになるからです。だからといってストレスが肺がんの原因になるかどうかは別で、「武田の年齢と気温の関係」と同じだからです。でも、「否定されるもの=喫煙率」はやや真剣に考えなければなりません。

つまり手順としては、
1)関係がありそうなものを取り出して、グラフを書き、
2)その中から肯定的な関係が見られたものを最初に検討し、
3)否定的な結果のものは少し後に検討する、
ということになります。

このようなことを考えると、肺がん死の大きな原因と推定される「喫煙率」と「肺がん死」の関係がまったく逆になっているという場合、私なら、もうすこし原因となるものを探して、それを検討しないと気が済まないということです。

国民の生活の自由と、喫煙の楽しみを奪い、国民の健康に大きな影響をもたらす「喫煙」という重大問題を、いつまでも逆の相関になっているタバコだけをやり玉に挙げているのか、不思議に思っています。誠実みのある医師がいないのか、それとも他の原因を研究したが相関性がなく、すでに否定されているが報道されていないのか、どちらかでしょう。

(平成2494日)