下の図に示したように「被曝は足し算」ですし、その中で「医療被曝」はかなりの部分を占めます.原発事故が起こらなければ医療被曝はお医者さんにお任せしておけば良いのですが、どうしても原発の被曝が11ミリを超えるようなところは、できるだけ医療被曝を減らすようにしなければならないでしょう.

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このブログに前に出した「被曝の4階建て」の図はそれぞれの被曝の幅が少し厳密ではなかったので、今回は自然被曝1.5ミリ、医療被曝2.2ミリ、核実験被曝0.3ミリ、そして原発被曝1.0ミリの寸法を数値に合わせています.

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先日、ランセットという世界で最も権威のある医学雑誌で「CTスキャンを3回から7回程度受けると脳腫瘍や白血病が3倍程度に増える」という論文が出ました.脳腫瘍の方が少ない被曝量(CTスキャン回数)で発症するようです.

この指摘は、2004年にでた同じランセットの論文(日本の医療被曝でガンの発生が多い)に次ぐ医療被曝の警告です.今回の報告は子どもの調査によるもので、大人も含めると少し感度が下がるかも知れません。

また自然被曝や医療被曝などを単純にミリシーベルトだけで比較することは出来ませんが、おおざっぱに言って日常的な被曝でもっとも多いのは医療被曝です.

「医療」は「良いこと」なので「医療被曝」も「良いこと」ということはありません.被曝の原因が良いことでも悪いことでも、被曝による人体への影響は同じです.その点では、「医療被曝は適正なのか?」は常に医師側でも関心を持つ必要があります.

一方、被曝側は、「原発での被曝が多いときには医療被曝を減らす」という方法があることもわかります.できるだけお子さんの健康に気を配り、医療被曝を受けないように生活することは自衛の一つになります.

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ところで、医療被曝が減らない原因は二つあります.
一つは、検査や治療で患者さんや一般人を被曝させる医師は、その後の診断をしていない例が多いということです。よく「被曝は健康に問題は無い」と言っておられる医師で、被曝させた人の健康を追跡している医師はほとんどいません.

医療に放射線を使いたいから安全と言うという不誠実な人も見られます.つまり被曝による障害は確率的に起こるので、自分の患者さん100人は大丈夫だったというだけではダメなのです.むしろ「検査や治療のために必要だから被曝させるが、その後は追跡調査をしていない。患者もどこかに行ってしまうから」というのが普通なのです.

その点では電子化の時代ですから、個人別カルテをすべての病院で共有するなどのことで、医療の質を画期的にあげるなどが考えられます。

もう一つは「放射線を使うと儲かる」という現実的な問題です.放射線治療は検査も簡単で、点数も高く、患者も検査をすると安心するので儲かるし、便利です.しかも機械の値段が高いので業者との癒着も問題です.

医師がお金と無関係に人の健康だけを考えてくれると良いのですが、すべてはお金の世の中ですから、被曝と健康の関係がよくわかっていない現在では「被曝させても病気になることは少ないが、確実に儲かる」ということになると、その誘惑に勝てない医師も出てくるのです.

とくに日本の医療被曝が欧米の3倍程度というランセット論文について日本の医師はもっと謙虚にその影響について検討する必要があるでしょう。何かにつけてアメリカが、ヨーロッパがという日本の医療界が、被曝になると欧米より格段に高くても「問題ない」という姿勢に疑いを持つのは私だけではないと思います.

この際、日本の医師はもう一度、被曝と医療について深く考え、研究する必要があると思います。

また政府は国民を被曝から守ってくれません。このような時は医師という社会的に大切な職業から見ると、福島原発事故で被曝量が増えているので、患者さんがそれ以上の被曝をしないように配慮していただきたいと思います.

 

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(平成24613日)