世の中には当たり前のように見えて実に不思議なことが多いものである。マイナス40℃の氷を暖めてマイナス20℃にする時、氷を暖めるので氷の一部が融けるような気がするが、不思議なことに氷は0℃(融点)にならないと融けない。これは奇妙な現象などで小学校で融点を学ぶが、日本人のほとんどが温暖化騒動で「氷は温度が上がったら融ける」という宣伝に引っかかった。

 

地球は平らと思っていた頃、朝、東から昇った太陽は西に沈む。西に沈んだのだから次の日は西から昇るように思うのだが、不思議なことに毎日太陽は東から昇る。いったい、いつの間に西から東に行ったのだろう? その回答は「太陽は毎朝、東の土から出来て、西に沈み土に戻る」というものだった。人間は最初に間違う(地球は平ら)と、結論も間違う(太陽は土から出来る)ものであることがわかる。

 

・・・かくのごとく人間の知恵ははかない・・・

 

お寺の鐘を叩くと、その鐘の音は不思議なことに四方八方に広がり、決して戻ることはない。なぜ鐘の音は再び鐘に帰ってこないのだろうか? なぜ川を流れるものは絶えず上流から下流に流れ、とどまることを知らないのだろうか?

 

今の人間はお金のことばかり考えているけれど、昔は自然との距離が近かったから、自然の中に実に不思議なことが多いのに気がついていた。その一つが「諸行無常」だ。人間は誕生し、成長し、全盛期を迎え、やがて衰えて死ぬ。それは人間ばかりではなく、他の生物も、川も山も何もかも誕生して成長し、やがて死を迎える。なんで「ジッとして」いなのだろうか?

 

この世にはジッとしているものはない。どれもこれも変化する。樹木を見ると元気よく新芽をだしているのだから、そのまま10年ぐらいは変わらなくても良いのに、慌ただしく紅葉し、落葉する。なんと気ぜわしく、もったいないのだろうか?

 

人間社会も科学も何の意味があるのかわからないが、「進歩、革新、新しいこと」とうるさい。科学が人間を幸福にしてくれることなど無い。もし科学が幸福にしてくれるということと、科学が進歩するということを組み合わせると、人類は絶滅の直前にしか幸福にならない。なぜなら、人類が絶滅の寸前がもっとも科学が進歩してるときであるし、その人類から見ると1000年前の人は科学技術が遅れていたために「不幸」であると言うことになるからだ。

 

なぜ、進歩も変化も無駄であることを知っていて、進歩や変化を求めるのだろうか? なぜ、あらゆるこの世のものは諸行無常なのであろうか? それは今から147億年前、ビッグバンという事件によって時間が出来たからだ。そしてその時間は過去から未来にしか流れないので、その時間の流れに遅れまいとすべてのものは変化してやまない。

 

実はこの世に生まれたものはすべて「ジッとしていること」はできない。鐘の音は「その場にとどまっている」ことは不可能で、どちらかに行かなければならない。つまり鐘の音はお寺の中に留まっているということ自体が宇宙の力を受けて不可能なのだ。

 

人間も必ず歳を取る。どんなに若く見える人でもいつまでも赤ちゃんのような肌を持っている人はいないし、90才になれば体の自由は若い頃のように効かない。生物は日々、体を入れ替えることが出来るのだから、変わらなくても良いように見えるが、そうはいかないのだ。

 

「エントロピー増大の原理」と言っても良いし、「時間は止まらない」と表現してもよい。平家物語(仏教)のように「諸行無常」でも良い。とにかく止まっていられない!という一大欠点が私たちを悩ましているのだ。

 

毎日を止まるとストレスがたまる。毎日、過度に動くと辛い。私たちは宇宙の動きに従って、「適切な変化」を強いられている。しかし、それはとても良いことでもある。私は「昨日も晴れ」と書くことがあるが、過去は流れていくので、悪いことは思い出さないですむ。昨日がどんなに土砂降りでも「晴れ」と思えば、二度と再び昨日は来ないので、土砂降りは晴れになる。

 

あまり長い間の変化も予想すると頭が痛くなる。だから、今日一日ぐらいが良い。それが私の「今日も朝」だ。私の人生は昨日で終わったかと思ったら、今日も朝が来た。それなら今日一日ぐらいはまた頑張るか!という具合である。長期的目的はたてない。変化は変幻自在であって、どうなるか予想もつかない。30年前は携帯電話もなければ、ほとんどクーラーすらなかった。地球が温暖化するなどということは全くなく、私の知り合いは「寒冷化に強い作物」の研究をしていた。

 

進歩は良くもあり、悪いくもある。変化はせざるを得ないが、良いとばかりは限らない。でもそれが人間、生き物、そしてこの宇宙に住むものの定めだ。

 

20年前、私は川にも山にも、誕生があり、成長、繁栄があり、衰退と死があるのに気がつき、愕然としたことがある。人間だけではない。それが私たちに時の大切さ、今の大切さを教えてくれる。

 

 

 

(平成2452日)

 

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