これまでこのブログを10年ほど書いてきましたが、その中でもっとも読者の方の反撃が厳しかったのが「タバコ」の問題です。日本人の40%がまだ喫煙しているというのに、タバコのことを話そうとすると、猛烈なバッシングを受けるのですから、これも異常な社会現象の一つでしょう。
タバコを忌避する人には2種類があって、一つは日本人を健康にしなければならないという強い使命感を持った医師で、この人たちは他人が「不健康」な生活をするのに異常なほどの嫌悪感を持っています。
私の知っている医師で、大きな病院に勤めていて「タバコを吸っているような人は健康に注意をしていないのだから、診察は断る」と言っている先生がいます。そこまでになると、職業倫理としてもやり過ぎと思います。
もともと医師というのは戦場でも負傷兵を治療しますが、「戦争など、人殺しをやる人の治療はしない」というのではなく、「医師は患者がどんな状態であっても、治療する」というのが医師の大切な倫理なのです。
もう一つは、「煙が臭い」、「タバコを吸う人は図々しい」ということで喫煙を嫌っている人たちです。確かに日本人はきれい好きで臭いのない国で生活をしていますし、タバコの臭いはタバコを吸う人が少なくなればなるほど敏感になりますから、気持ちはわかります。
また、タバコを吸う人は確かに図々しく見える人が多いようです.特に人混みでタバコを吸って、プーッと息を吐いているときなど実に図々しい人に見えるし、こちらがタバコも吸わずに仕事をしているのに、「タバコを吸わないと続かない」などと言って仕事中にサボってタバコを吸っている集団を見るとイヤな気がしない方がおかしいと思います.
でも、それだけでは社会的にタバコを排斥する理由にはなりにくいと思います。臭いについては人によって違いがありますし、体質的に臭いのきつい人もいて、うっかりすると差別になります.現在の日本のようにタバコを吸うところが限定されていて、日常的にはそれほどたばこ臭いところが無いのですから、問題は無いように思います。
また、「図々しい」というのは人の感じですから、これも排斥しようとすると危険でしょう.日本国憲法で保証された基本的人権とは、過度に人に迷惑をかけなければその人の自由な人生を保証しているのです。多くの人が一緒に住んでいる日本、この素晴らしい規定の精神も尊重したいものです。
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ところで、タバコの問題を「知」として取り扱う場合、喫煙が吸う人の健康に関わるかという問題と、タバコを社会から追放しなければならないほどの毒物かという疑問の二つがあります。喫煙と吸う本人の健康の問題については少し前に整理して、まだ未完成ですが、ここでは「副流煙」を取り上げます.
副流煙の人体への害を最初に証明したと言われる有名な平山論文を読んでみましたが、すでに多くの人が指摘しているようにこの論文で「副流煙が肺がんの元になる」ということはまったく言えません.ただ、平山先生が意欲的なご研究をされたことに敬意を表します.
この論文を読むと、タバコを吸う人と長年、一緒にいると脳腫瘍になる可能性が高いことは判りました。しかし、この脳腫瘍が一緒に暮らしてきた方のタバコの煙によるものか、別のものが原因かはわかりません。先日のブログに書きましたが、私が学生に注意すること「なにかが原因ではないかと考えて、それで整理をするとほとんどのものが何らかの関係があることになる」という原理原則があるからです.
肺がんは脳腫瘍よりかなり少なく(タバコを吸わない人と一緒に住んでいる場合に比較してですが)、副流煙での影響は肺より脳に強いようです。実験結果を忠実に整理して「肺より脳」と言いますと、「そんなことはない。タバコが脳に影響があるはずがないじゃないか」という反論があるのですが、それならもともと「実験や調査」をする必要はありません。
人間の脳は不完全なので、実験や調査を行います。その時には、「自分はタバコを吸う人と一緒に住んでいたら肺に影響を受けるとおもうが、(それは自分の浅はかな考えなので自然に聞いてみるという意味で)実験や調査をしよう」ということですから、意外な結果がでるのが大切なのです。
その他の資料にも目を通しましたが、現在のところ科学の心を持った人はこの問題に近づかない方が良いように感じました。というのは、どれもこれも非常に感情が高ぶった論文や調査、論評が多く、先入観や最初から「タバコの副流煙は肺に悪いに決まっている」という前提で行われているからです。まるで「魔女狩りとその対抗勢力」のような状態です.
ことは人の健康、子供の健康に関することですから、もう少し冷静に議論できないのでしょうか? データは不十分で先入観に満ちていますし、あまりに攻撃が激しいので、反論もまた科学とは言えない状態にあります.
私たちがもし「知」というものを尊重するなら、それは相手を誹謗することでも、自分の得になることでもありません。あくまでも人間の「知」を信じて、お互いに憎しむことなく、少しでも前進することです。
日本に住む誇るべき民族:アイヌは平和を愛し、戦争をしなかった民族ですが、人間が戦争をしないというのはかなり大変なことで、それを達成するためにアイヌはタバコを愛しました。ケンカをしそうになると相手にタバコを勧め、一服して争いを収めたのです.
人間には体の栄養とともに、頭脳の情報を整理するための栄養が必要です.多くのタバコを吸うかたの随筆を読むと、タバコが情報整理の栄養になっていることを否定することは難しいように思います.
人間は理解しがたいものであり、体は複雑で、人は多種多様です.その中で、このタバコというものをどのように考えるのか、それを冷静に進めることで人間の「知」を一つ高める方向に行けばと願うところです.
(平成24年2月9日)