メドウスが1970年頃に書いた「成長の限界」は、第2次世界大戦が終わって不安定な東西冷戦のもと、急速に経済成長する時代に住む人にピッタリの新しい概念でした。
それまで、「地球は大きい。無限に大きい」と考えてきたのに、1950年代から公害という環境破壊がおき、ロンドンスモッグでは4000人から1万人が死亡しました。
日本でも水俣病、四日市喘息と続き、アメリカのロサンジェルスのスモッグも世界的に有名になりました。その他にもベトナム戦争、都市のスラム問題などが起き、経済成長の中でも不安定な日々が続いたのです.
そこに、メドウスが、
「これまで無限に成長できると考えていた方がおかしい.地球は有限だからこのまま成長を続けていると21世紀の初めには人類に文明は崩壊する」
と警告したのです.
メドウスの論は単に思いつきで生まれたのではなく、1960年代から国連が資源の行く末、環境破壊に危惧を持ち、検討を始め、その一環として当時、ようやく実用化の域に達したコンピュータを駆使した計算を応用していました。
国連、マサチューセッツ工科大学、メドウス博士、地球方程式、コンピュータのシミュレーション、資源枯渇、食糧危機、環境破壊、文明崩壊、天罰・・・すべてのキーワードが当時の不安な社会に生きる人たちにピタッと来たのです。
私もすっかり「これほど消費が増えたら、確かに地球はもたないだろうな」と単純に考えてしまいました。
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「このまま成長を続けていたら、40年後には大崩壊が来る」
という「予言」が超一流の科学者から出されたのですから、世界は驚き、「石油ショック」やその他の多くのことが起こりました。
日本では「トイレットペーパーがスーパーから姿を消す」という、非常にレベルの低い社会的な騒動に発展したのです。
もしかすると40年後に石油が枯渇し始め、それによって樹木からとる紙が不足して、その結果、トイレットペーパーが60年後には少しショートするかも知れませんでした。
でも、だからといって明日のトイレットペーパーを買いあさるというのはどういう現象だったのでしょうか? 冷静に考えると実に滑稽ですが、当時から日本のマスコミが国民に伝える情報はかなり怪しかったことが判ります.
でも、すでにメドウスの警告から40年が経ち、トイレットペーパーどころか、石油も石炭も豊富にあり、環境も改善され、食糧も4倍に増えています.
なぜ、メドウスの予想はこれほど大きく「間違った」のでしょうか?それとも「間違った」のは時期の問題だけで、40年が80年になったのか、400年になったのか、それとも本当に間違っていたのか、今のところ十分な研究はされていません.
多くの人が、メドウスの基本的な考えは正しく、単に枯渇する時期を間違ったと思っています.
このメドウスの考えの延長線上に、リサイクル、ダイオキシン、地球温暖化、自然エネルギーなどがあります。つまり、見かけ上はメドウスの「間違った」見通しを「正しい」としてエネルギー、資源、そして環境問題が考えられているのです.
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ひとたび、ある先入観が生まれるとそれを払拭するのは並大抵ではありません。特に、メドウスの警告が、その内容において悲観的であり、贖罪的であり、インテリ風であること、その形式において白人コンプレックスにピッタリであることで、さらに先入観は強固になったものと思われます.
私たちは悲観的な見通しを作った人が白人(メドウス、日本人は明治以来、白人を先生にしてきたので、アメリカが・・・ドイツが・・・というと無批判に信じる傾向がある)であるということをあまり意識せず、「成長」には「限界」があるのか、それをもう少し腰を落ち着け、慎重に考えないと未来を見ることは出来ないでしょう。
(平成23年6月19日 午前9時 執筆)