旅行をしているといろんなことに遭遇するものだ。

伊丹空港から高速バスに乗って姫路に降りたのは12時をかなり回っていた。時計を見たら1240分ぐらいだったので、この時間になればレストランも空いているだろうと思ってバスを降りたところで整理をしていた係の人に聞いたら、大変親切に食事ができるところを数カ所、教えてくれた。

駅の自由通路を通り南側に出たところで食べたら良いという。姫路の人は親切だ。駅裏は駅裏だけれど良いという.

駅裏にでるとそこには、ラーメン屋さんが一つと、夜にはおそらく飲み屋になるだろうサラリーマン用の和食のレストランが二つあった。昼はラーメンを食べることが多いのだが、その時は人に会うので、口が臭うと失礼かと思って和食の方に行った。

最初のレストランはとても広いレストランで4人がけのテーブルが並んでいて、サラリーマンが食事をしている。テーブルは30もあっただろうか、大変な数のサラリーマンがいたが、時間が時間だったので席を立つ人も多く支払いのレジも混んでいた。

わたしは1人の女性の後に並んで2番目だった。

しばらく待っていると中から女性の店員が出てきて「混んでいるのでなかなかご案内できない」と言った。わたしの前の女性はそれでもそのまま立っていたが、女性の店員はわたくしの横にびっしりついて離れない.「待ちますから」と言っても「入れない」の一点張りだ。その間も、店の中から食事を終わったサラリーマンが次々と出てくる。

それでもその女性は「ご案内できない、ご案内できない」と繰り返すだけである。あまり言われるので、入っては困るということを言っているのかなと思って仕方なく外にでた。

姫路の用事が終わったら東京へでて、そのまま外国に行くこともあって大きな荷物を持っていたわたしはあまり歩きたくなかったので、隣にあるもう一つのこれも大きな和食レストランに入った。

「やれやれ」、私は心の中でそうつぶやいた。そのレストランには1人だけが座るカウンターの席があって5つほど席が空いていたからである。やっとここで座れると思って、女性の店員の案内で席に着こうとした。

その時だった。横の方から男性の店員が大きな声で「すいません、ご案内できません、ご案内できません」と叫んでいる。

あまりに声が大きいので食事を待っていたお客さんも一斉にこちらを見た。わたしは前の店で断られているので、疲れていたし不安だった。だから何とか空いている席までたどり着きたいと思ったが、その男性店員の声は異様に大きく、それを押し切ることはできなかった。

かくして重たい荷物を引きずりながら、わたくしは姫路駅の南の道路をさまよった.不思議なことに営業している食堂を見つけることはできなかった。

もう時間は1時頃になろうとした。1時半から宿泊するホテルで人と会う約束があった、仕方ないからそのホテルまで行って食事をするしかないとホテルでチェックインをして荷物を預けた.

そのホテルには中華レストランがあった。一流ホテルの中華レストランは独特の雰囲気があり、接待も丁寧で、レストランの中も広く快適である。

今度こそと思っていると、景色の良い4人がけのテーブルがいくつも空いているのに、案内の男性はそこを通り過ぎて、全く景色が見えない壁際に張り付いたような狭いテーブルに案内した。

「ここでよろしいでしょうか」と彼は言ったが、すでに午後の1時を越え、お腹も減っているし、待ち合わせまで時間がないので仕方なくそこのテーブルに着いた。

かき込むようにして食事をとり、1階の喫茶店に行くとすでに待ち合わせの人がおられた。若い人が「ここでは少しうるさいので中の方に行きましょう」と言って奥にあるホテルのレストランに入った。

窓際の席に着いてコーヒーを頼もうとしたら、女性の店員が来て、「ここはコーヒーだけでは利用できません」と言った。

わたくしも驚いたし、打ち合わせに来られた人も同じく驚いた顔をしていた。「お腹が一杯だから、食べろといってもな」と同行の人が小さな声を出していた。

町の小さな食堂であれば、コーヒーだけを飲むことを嫌がることもあるけれど、一流ホテルの1階のレストランでコーヒーだけではダメだと言われた経験はない。しかも時間は昼食が終わった頃の1時半。

でも、やむを得ないのでそこを出て、最初に利用しようとした喫茶店に戻った。打ち合わせが終わり、今日は変な事が続くなと思いながら部屋に入った。ちょうど時刻は2時前だった。

次の用事まで2時間程あるので、ニュージーランドの地震はどうなったのかと思ってテレビをつけようとしたら、何かテーブルの上に紙がある。「アンテナの切替工事のために1時から2時頃まではテレビを見ることができない」と書いてある!!

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姫路というのはこういうところなのか! 

レストランに入ったら2軒とも追い飛ばされる.駅前に食べるところがない。高級中華のレストランに行ったら、テーブルは空いているのに壁に向かって食べなければならない、ホテルのレストランでコーヒーを断られる、そして最後はテレビのアンテナだ。

第一、駅前にレストランを構えていて客を断れるのか!それも昼の1240分から1時の間だ! もう、姫路には来ない、冗談じゃない!!

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最近、老人の犯罪が増えている。今から50年ぐらい前は、2%ぐらいだった60才以上の犯罪は現在、10倍にもなっている。

老人の犯罪が多くなったのは老人の人口が増えたからもあるが、それ以上に老人が我慢しなくなったということ原因している.犯罪の理由は「腹が立ったから」が一番、多い.なぜ、老人は腹を立てるのだろうか? それは、今までの人生が長いので、「経験したことが正しく、経験しないことは間違っている」と勝手に判断してそれが我慢できないのだ。

実は、わたしが2軒のレストランに断られた時に腹が立ったのは、今まで長い人生でレストランに並んだことはあるが、大声で追い出された事はないからだ。

行列ができるラーメン屋というのはあるが、1時間でも2時間でもお客さんが待つなら待つに任せるというのが「常識」だと私の経験は言う.席が空いているのに追い飛ばされた事は経験にない。

2軒目のレストランを断られて、さらに駅の南を重たい荷物を持ってウロウロしている時、わけもなく姫路が憎くなったものだ。

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わたしはホテルのベッドに横たわって天井を見上げていた。

・・・今日はまあいい日だったのかもしれない、最近の生活は便利で我慢することは少なくなった。もともと食べたいと思って食事にありつけるのが不思議で、昼を食べ損なったからどうってことはない。

・・・このホテルはつぶれかかっているのだろう。あの中華レストランも一階のレストランも、もうホテルのレストランとして客を遇する余裕などないのだろうし、第一、私のような庶民がホテルのレストランで食事をしようということが身分不相応だろう。

随分、自分も傲慢になったものだ。昔なら人様のお世話になって細々と老後を送っている年代だ。それがこの年まで元気でなんのかんの言っていては罰当があたる。

「姫路に感謝」、そう思って私は天井を見ていると、いつの間にかウトウトと寝入ってしまった。

(平成23225日 執筆)