尖閣ビデオの公開のことで、テレビや新聞は盛んに「公務員の守秘義務」を言っています。

そして、「組織に所属する人は、「組織を守るため」とか「上司の言うことに従う」ことが大切だから、秘密を漏らしたのは問題だ」という意見も多いようです.

でも、それはあまりに短絡的過ぎて、間違っていると言っても良いでしょう.

先日、ある大きな新聞の特集を読んだのですが、「この問題の本当に大事なこと」を誰も書かれていないこと、テレビでも深い議論がないことから、ここで書いておきたいと思います.

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ある市で市長が少し頭がおかしくなり、市庁内で3人の「殺人」を犯したとします.そして市長は市の役員を呼んで「この市の名誉のために人が殺されたことを言うな」と厳命します.

なんと言っても「市長」ですから、「上司の命令」です。そして市庁内で殺人があったと言うことになると、「市の損害になる」事も確かです.

つまり「市長が市庁内で殺人をした」ということを市役所の職員が「漏らす」ことは、「公務員が上司の命令に背き、市に損害を与える」事になります。

でも、この例で「殺人を警察に通報すべきではない」とか、「事実を隠すべきだ」という人はいないでしょう.通報された警察も「内部告発だから、秘密にしよう」とか、マスコミも「市の損害になるから報道しない」などと判断することもないと思います.

なぜ、「市長の市庁内の殺人」は「上司の命令に背き、市に損害を与える」ことが許されるのでしょうか?

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私たち「日本国民」は「組織に所属している人」の前に「日本国民」です。

社会通念で「もっと大切なこと」や、法律で「より上位の法律」がありますから、「市の損害より、殺人を隠すことによる日本社会の損害」の方が大きいし、「公務員の守秘義務より、刑法」の方が上位にあるので、上位の概念に従うからです.

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この例は、少し極端な例ではありますが、「公務員の守秘義務」とか「会社の上司の命令」などが「万能」・・・あらゆる場合に適合することではないことを示しています.

だから、尖閣ビデオのことでも、「公務員だから秘密を漏らしてはいけない」とか、「日本国に損害を与える」という理由だけでは「不法な行為」とか「不適切な判断」とは言えないのです.

当然ですが、「尖閣ビデオの公開」ということが「市長の市庁舎内の殺人」に匹敵するぐらいのもの・・・「憲法の知る権利の侵犯」とか、「政治家の権力の乱用」とか、あるいは「情報公開法違反」というのに相当するのか、またそれとの軽重で「日本に損害を与えたのか」などの議論が必要でしょう.

東京都知事と大阪府知事の発言の真意は本人に良く聞かないと分かりませんが、

東京都知事「愛国者だから良い」

大阪府知事「政治家の命令は聞かなければならない」

はいずれも言葉足らずだったでしょう.

この問題は少し奥が深いので、今回はこの程度にして、次にもう少し今回の事件に類似の例を示したいと思います.

(平成221114日 執筆)