かなり前から病院を中心として「耐性菌」というものがでてきて、時には複数の患者さんが死に至ることもある.なにしろ病院というところは「死ななくてすむところ」と思っていたら、入院したら死んだというのだから、なんとなく釈然としない。

人間は生物だから誰かに攻撃されて死ぬ.普通の動物の死亡原因の80%が捕獲死・・つまり他の動物に食べられてしまうこと・・・という研究もある。人間はその点では幸福だが、いずれにしても、

第一原因が細菌やウィルスで体の中で増殖して、食べられてしまう、

第二原因がライオンのような動物にやられる、

第三原因が台風や日照りなどの自然の攻撃で死ぬ、

そして、第一から第三までで死ぬことができなければ自殺因子、つまりガンが命を終わらせてくれる.

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ところで20世紀の半ばに抗生物質というのができた。細菌の細胞膜を作らせないようにする化学物質だ。

細菌は1匹や2匹が体に入ってもどうってことはない。それが増殖して何億匹にもなると危ない。そこで細菌が体の中で増殖しようとしても細胞膜(家のようなもの)を作れないようにする。そうすると増えない。

これがペニシリンで、それまでも細菌を攻撃する抗菌剤はあったが、ペニシリンの威力は素晴らしかった。

今では「抗生物質の使いすぎ」などと言われているが、抗生物質のおかげで命を取り留めた人は何億人といるし、平均寿命は10年は伸びただろう.

その点ではペニシリンを発見したフレミングは人類の恩人だ。

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生物というのは、いつでも「戦い」である。それは抗生物質が無くても、人間の体が防御するから、細菌に攻撃される毎に細菌も人間も進化して行く.

つまり、細菌は攻撃されると工夫して体の形を変えてくるので、また攻撃してくる。人間も新たな方法で反撃する.その連続が「生命の働きそのもの」なのである。

ある「外来種」が来て、それが「在来種」を危機に追いやり、時には絶滅させる。その「在来種を採るのを職業としていた人」は失業する.

そこで、在来種は進化し、仕事をしていた人は頭を巡らせて次の仕事に就く.在来種が絶滅したり、仕事を失ったりするのが「悪いのか、良いのか」は分からないが、それが自然というものである。

それが最近、はやりの言葉でいえば、「生態系」なのである。

人間も自然の一部であり、この話題で言えば、細菌も抗生物質ができなくても人間の防御と対抗して次々と姿を変える.

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ところで、細菌は人間より小さいので、時間が早く進む.これは物理原則だが、だいたい20分に一回ぐらい分裂して新しい個体になるので、1時間なら1ヶが8ヶになるだけだが、4時間も経つと4000ヶ、1日だと実に{1兆ヶの1億倍}にもなる。

とてつもない数だ。これではさすがの人間もやられてしまう.

また増殖していく内に、「少し性質の違うもの」が出てくる.その時に「抗生物質や人間の体の中にある防御機構(なにか細菌にとって都合の悪い物)があると、それに強い物が生き残り、それが増える.

だから「防御するということは、細菌を強くすること」である。

これが重要だ。

「人間が生き残ろうと、防御すると相手は強くなる」

ということだ。

病院には抵抗力がある人と手術直後のような人がいる。抵抗力のある人の中で抗生物質やその人自身に反撃されて強くなった細菌は、より抵抗力の無い人に移り、そこで増殖する.その細菌は「抵抗力のある人の中にいるときに襲われた抗生物質や体の抵抗力」ではやられないようになっているので、これが「多剤耐性菌」となる。

最近、話題になっている緑膿菌などはもともとは弱い菌だから、命の別状はないのだが、病院に入っている人には辛いこともある。

防御しなければ死ぬ.防御すればより強い敵が現れる.それが生態系である。

この生態系に人間が手を加えても、加えなくても、結果は同じである.加えなければそのまま死ぬ人が増え、加えればより強い細菌が出てきたときに死ぬ.

生命はそうして進化してきた。

(平成221018日 執筆)