このところ大相撲はやっかい続きだが、野球賭博と暴力団のことで大きくもめている。
NHKの杉山元記者やマスコミは一斉に相撲協会を批判している。でも、この問題は奥がふかく,単に「暴力団と関係があるなんて、なんだ!」と正義ぶったから解決するというような簡単な問題ではない。
政治と金のことと同じように,本気で改善しようとしたら、「難しい問題は,簡単に表面的な批判をしても解決しない」という原理をよくかみしめる必要がありそうだ。
ここでは、私が自然科学を専門としているので、この問題を自然科学と倫理ということから考えてみたいと思う。
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まず、第一に、NHKの報道姿勢だ。
NHKは長く相撲放送を担当し、杉山元記者のように相撲界の奥の奥まで知っている。仮に「相撲と暴力団」というのが興業を通じて昔から深い関係にあったとしたら、NHKはなぜそれを「知っていて報道しない」という姿勢を取ったのか。
事態が大きくなるまで知らない顔をしていて、それから報道するというのでは汚い。
毎日新聞は社説で厳しいことを言ったが、毎日新聞の相撲担当の記者は、これまで相撲界が暴力団と何らかの関係にあることを知らなかったのか?
NHKも毎日新聞の報道機関である。もし知っていて報道しなかったのなら、当時は「それでよい」と判断したということであり、相撲界と同罪ではないか。
これがまず第一の視点である。
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第二の視点は、暴力団とつきあいのあった親方が処分されたが、相撲協会は自らをどうするのか?
相撲協会はこれまで暴力団とのつきあいは無かったのか。相撲と暴力団は歴史的なこともあって、ある程度の関係にあることは「世間周知」ではないか。
事実に目をふさいで根本的な解決を期待することはできない。
相撲協会が本当に暴力団との関係を切るつもりなら、過去のことを説明し、どうしたら暴力団なしに相撲をやっていけるのかを明らかにすべきだろう。
この問題はある一人の親方の問題ではないと思う。
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暴力団は社会で一定の役割を果たしている。その一つを示すと,「トラブルを未然に防ぐ」ということだ。
ストーカー事件でハッキリしたが、警察というのは「事件が起こらないと予備的には治安を維持できない」という制約がある。
つまり、「犯罪をおかしそうな人」がいても、「犯しそうだ」というだけでは拘束できない。犯してから初めて逮捕できる。
そうなると、危険な人、起こりそうな犯罪などに対して暴力団に期待することになる。これが一つの問題である。
また、借金を返してくれないと言うようなときに,日本の裁判があまりにも遅いので、裁判を起こしているうちに、お金を貸した方が倒産するようなことがある。
この場合も「借金取り」に暴力団が社会的な役割を果たす。
つまり、「日本社会における未解決の不合理なこと」が暴力団の社会的意義をもたらしている。暴力団がいる一つの理由は「我々のサボリ」でもある。
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さらに根本的には「暴力が正義」という現在の人間社会の基本的な概念が、暴力団の存在を必然的なものにしている。
社会というある集団の現象は、その社会を構成している個別の物体(人間)の性質の「分布」を表す。
つまり、人間の心の中に暴力を認め、暴力に価値を見いだす限り、人間の集団には暴力団が発生する。
これは物理学の法則でもある。
特定の暴力団を排除しても,自分の心の中にある暴力礼賛の意識が無くならない限り,また同じ数の暴力団が発生する。
私が繰り返し書いているように、「アメリカの方がイランより暴力が強いから、ブッシュ大統領はウソを構えて、フセイン大統領を殺すことができる」ということを日本全体が認めている。
NHKや新聞はさらに積極的にアメリカを認めている。この報道態度は暴力団追放と真っ向から相反する。
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人間は正義ぶることはできる。そして、一瞬だけ正義ぶってあとはそれを忘れることもできる。その代わり,根本的なことはまったく解決しない。
今回のことはNHKのマッチポンプと思う。つまり、相撲界が暴力団と関係していることを知っていながら、報道せず、それによって相撲界が汚染されていくのを見ていて、大きくなると叩く。それで正義を主張し,視聴率を稼ぐのだ。
その意味では相撲界が被害者とも言える。
(平成22年6月14日 執筆)