レストランや料理屋で食事をする。その時の雰囲気もあり体調もあるのだけれど、時に味が薄いと感じることがある。

そんな時、「お醤油はありますか?」と聞くと、しばしば「お味がついています」とツンとした答えが返ってくる。

店員がこのような返事をするお店の傾向は決まっていて、私の独断と偏見になるかも知れないが、「髙い、洒落て作られている」などだ。

「お味はついています」という返事は、すこし言葉を正確に表現すると「俺たちが付けた味に文句があるのか!」ということだ。

世には高血圧であまり塩辛いものを食べられない人もいる。反対にやや味の濃いものが好きな方もいる。体調やその日の仕事にもよる。汗をかくような仕事をしたときにはすこし塩辛い味とアルコール度の高い酒を体が欲しがる

だから、刺身にどのぐらいのわさびとお醤油を使うかはその人の健康、体調、性格、前の食事で何を食べたか、その日の仕事や遊びによって変わるので、もしそのレストランが「お味をついています」というなら、玄関に「本日のお味」というのを出して、「本日は、血圧上138、下92、年齢男性53歳、女性46歳、デスクワークをして、昼食は天丼を食べた人にあわせてお味を付けています」と表示するべきだろう。

いやはや・・・

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お客のために料理を出しているのか、それとも料理人のための料理なのか、錯覚しているのではないかと思う。

そういえば、デザインという点で、料理屋の机、部屋、照明、食器、箸、お盆、机の上にあるその他の小さなもの、などが調和している時も殆ど無い。

時に、何となく「このお皿はなかなかですね」と水を向けると、女将さんが蕩々と「***行ったときに、素晴らしい!と思って買ってきたのよ」と得意げに言う。でも、この料理屋はサラリーマンが夕刻、会社のストレスも抱えながら職場の人や時にお客さんと一杯、飲むところだ。

でも、その皿はまったくそのような趣はない。厳しいデザインが施されている。これでは雑然とした机の上のなにか異物のように感じられる。

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コーヒーの美味しいところ、それは入れてくれるコーヒーが美味しいのであって、その店の主人の好みに合わせて、ミルクも砂糖も主人の好みに合わせてすでに混ぜてあるというのでは味気ない。

私は「塩気」というよりお醤油の香りが好きで、牛肉でも目玉焼きでも、お醤油を使いたい。でも、「当店では目玉焼きにはお塩を使って頂くことになっています」と冷たく言われることがある。

「受け手のために」というのは案外、難しい。それは料理ばかりではなく、全ての面で言えるような気がする。

(平成22511日 執筆)

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