「元気がない」と親しいビジネスマンが嘆いていた。
「僕は将来、なにをすればよいのでしょうか?」と工学部の学生は悩む。
「結婚しても幸せになるとは限らないし・・・」と女性は迷う。
そして、日本はこれほど良い国土と風土に恵まれ、安全で繁栄しているのに、世界ではダントツに自殺率が高い。なぜだろうか? 理由は様々だが、私は仮に5つあげてみたい。
1) 不必要な格差が大きい、
2) 乞食が多くなった、
3) 偉い人がウソをつく、
4) 歳をとって弱ったり、いざというときに助けてくれない、
5) 「環境」でさんざん、脅された。
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「人間、そんなに差があってよかですか?」と水俣病で苦しむ子供をもつ親が、当時の会社の社長に迫った。 まず、この漁村の親の言葉に戻りたい。
「人間、そんなに差があって、よかですか?」
確かに、プロ野球のスター選手は魅力的だ。その人を見に多くの人が球場に足を運ぶのだから、年俸10億円というような高額の年俸も妥当だと思われている。
でも、そうだろうか? 彼がスターになるのはランナーがいてホームランを打つからであり、見方の投手や野手がしっかり守るからだ。緊迫したゲームは敵味方のすべての選手が演出するものであり、その中でこそスターが映える。
つまり、お膳立てをした選手もまた功労者なのだ。
そして、その選手を見に来た多くのファンは、低い賃金の中から高い入場料を払い、ひとときの楽しみを得る。その人たちにとって10億円はあまりにも跳び離れたお金であり、ファンは「お金を払う奴隷」のようにも見える。
「そんなにいただいたらファンの人に申し訳ない」というスーパースターが現れて欲しい。
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ある科学者が発明に対して8億円を得た。私の周辺の技術者は総じて批判的だったが、それは「一つの技術が完成するまで、どのぐらい多くの人の手がかかるか」を技術者は知っているのだ。
その中には徹夜をして指示された粉末を焼いた人もいるだろう。最初の営業では冷たい雨の中をぬれながらお客さんのところに行った営業マンも参加している。過度に「陰の人」を強調する必要もないが、無視することはできない。
8億円は8000万円でも高い。せいぜい、3000万円ぐらいが天井だろう。
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長く科学の仕事をしていると、「ほぼ同時期に同じ発明がでる」ということがある。内容の似た特許が同じ月にでるのは普通で、同日になることすら見られる。また科学的な大きな発明や発見も、時期が同じになることが多いようだ。
そんなとき、トルストイを思い出す。
「人間は歴史の子である」
アインシュタインが相対性原理を発表したのは1905年。彼が発表しなければ相対性原理の発見は10年ほど遅れただろうけれど、おそらくは同じような学問体系になったと思う。
つまり、発明発見はある人に栄光を与えるが、それはあくまで「タッチの差」であり、彼に発明発見させたのは、その前にお膳立てをした科学者・技術者がいたからである。
科学もまた歴史の子である。
だからといって、たとえば、その研究者がもらった8億円をそれまで無機化学や焼成技術、顕微鏡などに貢献した人に分けることはできない。でもそういうものであることを科学者は知っておく必要がある。
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やたらと威張っている経営者が多い。
贅沢な社長室に座り、美人の秘書がかしずき、会議室は常にあいていてもっとも見晴らしの良いところにある。
社員は昼休みに電灯を消されて、愛妻弁当を食べながら新聞を読むこともできない。社長はなじみの寿司屋に行って、ごまをすられながら寿司をほおばる。
社長!「同じ人間、そんなに差があって、よかですか?」
社長はお金の表を見て銀行に行く、部長は戦略を練る、課長は日々の指示を出す。そして平社員は雨の中をかけずり回る・・・誰も彼もが社長と同じように会社の収益を考え、努力する。だから日本の会社は収益性が良い。
私の経験では、社長と平社員の貢献度は、1.6:1.0ぐらいだ。だから、今のように社員300万円、社長3,000万円は間違っていて、社員1000万円、社長1600万円なら妥当である。
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人間、うぬぼれと利己的心が強い。それ自体はそれほど悪くないが、その結果、「俺は偉い、おれはお金が欲しい」ということになり、プロ野球選手は年俸10億円を取り、技術者は8億円をもらい、社長は3000万円で遊ぶ。
自分が社長であれば、重役は社長になる機会を逸している。自分がスター選手なら他の選手が2軍にいる。偉い人というのは存在自体がうっとうしく、迷惑なのだ。だから、せめてできることは格差を少なくすることである。
日本の総生産高は1年に500兆円もある。
もし格差を小さくしたら、多くの人がもっともっと余裕のある生活ができる。それ一つではダメだが、社会が少し明るくなるだろう。
でも議員さんが一番、収入が多く、10億円の贈与も気がつかないようでは日本の格差は拡がるだろう。
(平成21年12月21日 執筆)