インフルエンザの勉強もそろそろ終わりに近づいてきた。というのは、少なくとも2008年から流行してきた「新型インフルエンザ」の流行が第一段階を終わろうとしているからである。
日本では秋の流行時期に、札幌市で少し早くスタートした。そしてそれは次の図でわかるように12月初旬にほぼ終焉したのである。
インフルエンザの流行は他の病気と同じように、「流行が無限に広がる」ということはない。患者が増えれば増えるほど、患者に接する人の数が増えるから、札幌市の人口になるまで無限に患者が増えそうに思うが、現実にはそうではない。
インフルエンザの場合、例年は10人に1人ぐらいが感染すると、それで収まる。10人に1人が感染して発病しているうちに、免疫ができたり、最初から免疫を持っていたり、運が良かったりして発病を免れている間に、流行が収まるのである。
不思議なモノである。発病しない人は抵抗力が強かったり、すぐ免疫ができたりするのだろうが、新型インフルエンザのように理論的には免疫は期待できないのに、やはり同じぐらい流行すると収まる。
ところで、札幌の後、流行が南下して日本全体に広がった。それもようやく山場を超えつつあるようだ。
札幌に比べて日本全体で見ると、これまでの季節性インフルエンザと同じ程度の患者ですんだことと、全体としてみれば札幌より患者数の動きが鈍かったことがあげられる。
これは理論的にも説明しうる。ある物体の集合体が大きくなると基本的にはその集合体を形成するものの数の「ルート」によるので、札幌市と日本全体の人口に比率にルートを掛けた速度だけ、日本全体の方が動きがゆっくりになることが期待されるからである。
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ところで、今度の新型インフルエンザを振り返ってみると、数々の誤解があった。
1) 新型はすべてとても怖いモノだと錯覚した。免疫はないし、毒性も強いように感じられたが、実際に体験してみると、免疫がないのに流行の程度はそれほど変化はなく、また毒性も季節性の普通のインフルエンザとほぼ同じだった。
2) パンデミックという言葉がはやり、ステージ6に入りとんでもないことが起こると思ったが、よくよく定義を見ると単に「国際的に流行する」ということであって、その流行が普通より激しいとか、症状がひどいということと無関係であることがわかった。つまり、毎年、インフルエンザはパンデミックなのである。
3) 弱毒性と強毒性を比較すると、弱毒性は症状が緩いので、感染者が普通に生活することによって感染者数を増やし、逆に強毒性の場合、患者が動けないので、家族などが注意すれば、接触回数を減らすことができるということも学んだ。
今後、新しいインフルエンザが発生した場合、
1) まずは普通の季節性インフルエンザと同じようなものであると思い、
2) 万が一、強毒性のインフルエンザが流行したら、患者を隔離する方法をとり、
3) 弱毒性であっても流行を押さえる社会的方法をとる、
ということで、新型インフルエンザに対して人間社会が冷静に対応できるように考えられる。
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マスメディアは今度のインフルエンザでかなり騒いだので、一段落したら、パンデミックなどの定義で不勉強だったことや、今回のインフルエンザがなぜ普通の季節性インフルエンザの域を出なかったのかなど、冷静で優れた解説番組を組むことが大切だろう。
すでに知られている「鳥インフルエンザ」、つまりH5N1の致死率は60-100%と言われ、かなり強敵の可能性も強い。何事もそうであるが、正しく詳細なデータが提供されることが大切で、いたずらに「怯えさせる」という今までのやり方はかえって混乱を招くだろう。
(平成21年12月13日 執筆)