太陽電池と聞くと懐かしく、苦々しく思い出すことがある。
今からもう10年ほど前のことだろうか? 文藝春秋(本誌といって月刊の方)に太陽電池のことを書かせていただいたことがある。
内容は「太陽電池は、省エネルギーにならない。設置に必要なお金(資源)を回収するのに20年以上かかる」という内容だった。
私としてはマジメに計算をして、20年から30年という結果が出ていたので、その研究の結果をそのまま書いたのだった。
忘れもしない、その文藝春秋が本屋に並んだその日の午前10時頃。
家に電話がかかってきた。なぜ、10時に家にいたのか、すでにそれを思い出すことが出来ないが、電話の先はテレビ朝日の人気番組「ニュースステーション」のディレクターだった。
「先生、困るじゃないですか。この前のニュースステーションで久米宏が「太陽電池のペイバックタイム(投資したお金をどのぐらいで回収できるか)は3ヶ月」と放送したばかりですよ。それなのに20年以上かかるなんて、書かれたら困るんですよ」
私はいささかビックリして、
「20年は私の計算ですから、そちらの計算と違っても仕方がないですが、間違ってはいません。もし問題なら番組で説明します」
と返事した。その電話はそれで終わった。
偶然だろうが、それからあまりお呼びが来なくなった。
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それから10年・・・
2009年になって太陽電池の補助金が出て、太陽電池でできる電力を普通の電力費の2倍で買い取ることになった。
補助金が半分ほどでれば、ペイバックタイムは“10年ほど”になると経産省が発表している。私はその計算にも少し疑問があるが、とりあえず、そうしておく。
10年前の私の計算との差は(【】は私の計算)、
1) 10年間の技術進歩【私は10年前】
2) 太陽電池に補助金を使う【補助金はなし】
3) 電気を2倍で買い取る【電気は普通の電気代で売る】
という前提に差がある。それでも10年もかかるのだから、私が計算したときには20年は間違いなかっただろう。
今では経産省と私の計算はだいたい、一致している。
当時、テレビ朝日のニュースステーションにデータを提出したのは誰か判らないが、御用学者か国立研究所だろう。もしかすると太陽電池の生産会社かも知れない。
それを信用したニュースステーションもニュースステーションであるが、データを出した人はどのようにごまかしたか、私には判っていた。
それは次のような手口である。
どこからか、シリコン材料や変圧器など一式を買ってきて、それを組み立てる時だけの電力量を計算し、それが3ヶ月で回収できるという計算だ。
今でも、同じようなことをしている。「電気自動車は走行中はCO2を出しません」というがそれで、自動車を作るときのCO2や、発電の時にでるCO2のことは言わない。目的のためにはウソは平気なのだ。
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思いかえせば「正確に計算したり調査すると罵倒される」という10年だった。
リサイクルでも、10年前に「リサイクルするとよけいにお金がかかる」という本を書いたら、あるテレビのコメンテーターに「売名したいどこかの大学教授のことなど知りたくはない」と言われた。
プラスチックがリサイクルされていない(焼却している)という調査結果を出したら、「データのねつ造だ」と叩かれる。
10年前、「武田はウソを言っている。リサイクルは資源の節約になる」と罵倒した学者が、先日「ゴミはリサイクルせずに焼却するのがもっとも良い」と講演したことを私のかつての学生がメールしてきた。
その学者は、10年前はリサイクルを勧めて国の委員になり、今、また焼却を勧めて講演して歩いている。なかなかのものだ。
そして、今度の太陽電池だ。
当時のニュースステーションのディレクターは、今、何を思っているのだろうか?
おそらくは忘れている。その人はその時、その時に自分の都合の良いように生きているだけだ。動物らしいと言えば動物らしいが、白けてしまう。
「悪い奴ほどよく眠る」とはよく言ったものだ。
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リサイクルと言い、太陽電池と言い、学問で計算して言うと罵倒され、10年後には罵倒していた当人がかつて私が言っていたことを堂々と話しているのを聞くと、「これが社会というものかな」と思う。
ひがんでもいないし、恨みにも思っていないが、正しいことを言った人を評価せず、「みんなと同じことを言った人」を評価する日本社会。それは人類に共通したことだろうか?
せめてニュースステーションからはお詫びの電話が欲しい。
(平成21年11月3日 執筆)