いつの世でも男は哀しいものである.
ガガンボモドキという小さな昆虫がいる.身の丈は小さくても,その思いはでかい.そしてどこに頭があるのか?と訝(いぶか)るほど頭は小さいけれど,才覚はある。
その冷静なガガンボモドキのオスもときどき,急にメスに会いたくなる。無性に会いたい.それは本能の呼び声なのだろう.本能には,あの清き魂も簡単に屈してしまう。
ところが,一方,ガガンボモドキのメスはお金に辛い.どこかのマダムのようにお金が一緒でないと相手にしてくれないのだ.そしてガガンボモドキの世界では通貨は「幼虫」である.
「会いたい」という一心で,オスは獲物を捕まえる。そして,そのプレゼントをもって,オスは甘い匂いを発する.これもまたメスと会うためにはどうしても必要なのだ.
この甘い匂いは「プレゼントがあるよ」というシグナルだから,外車で乗り付けるようなもので,メスはそれに乗る.まずは第一段階,成功だ。
ガガンボモドキのメスもブランド志向だから,オスが差し出すプレゼントの品定めをする.ブランド品でなければ(小さければ)見向きもしないで飛び立ってしまう.
でも,大きい獲物をプレゼントすると,メスはその獲物にとりついて無我夢中で食べるので,その隙に後ろに回り,素早く目的を達成する.
それだけなら人間社会と同じだ.ところがガガンボモドキはさらに頭が切れる。
メスのほうは,プレゼントは食べたいが,かといってオスの希望には添いたくない.別のオスからもプレゼントをもらいたいと思っているので,安売りはできないのだ.
そこで,素早くプレゼントを食べ,オスが目的を達成しない前に,さっと飛び去る.つまり「食い逃げ」だが,こんなことは人間社会にもあるかも知れない.
・・・・・・・・・
人間の男より,鋭いのはガガンボモドキのオスのほうだ.大きな獲物を手に入れたオスは,それをメスにプレゼントする.メスはあまりに立派なプレゼント・・・1億円はするかな・・・にすっかり気を許して,ゆっくり食べようとする.
その隙にオスは素早く目的を達成し,メスがプレゼントを口にしようとした瞬間に,あげたはずのプレゼントをひったくって,飛び立つ.
しばらくすると,あのオス.つまりメスを油断させてプレゼントを回収したオス,が別のメスにまたプレゼントをあげようとしているではないか!
いやはや,人間だけかと思ったら,こんなに小さな昆虫の世界も女と男の駆け引きは同じだ.
女がトコトン男からお金を巻き上げることもあれば,男が女をだますこともある.
この世はなかなか面白い。