世俗的な事のために自らの学問を屈して,いかがわしい報告や論文が蔓延する世の中.薫風のように素晴らしい論文に接した.
論文をお書きになったのは北海道大学の藤井義明教授,論文のタイトルは「気候変動に及ぼす大気圏内核爆発の影響」である.
これこそが「科学」であり,「学問」である.(下のグラフは論文に掲載されているものである)
学者のグラフなので難しいが,内容は普通の人にも理解できると思う。横軸が西暦で1880年から2010年の期間を指している。縦軸は地球の平均気温である.
IPCCなどが「CO2が増えたから気温が上がっている」と言っているが,それだけでは観測値を十分に説明できない.それは,すでに19世紀初頭からCO2は増えているのに,1920年頃まで気温の変化が見られないこと,そしてなにより,1940年から1980年頃にかけて「CO2が増えているのに気温が低下している」という事実だ.
すでに1920年から1940年までグラフのAという線で示されているように気温は上昇している。この上昇の程度は1980年から現在に至るBという線と傾きがほぼ同じだから,20世紀の初めの気温上昇もかなりのものである.
現在の気温上昇が問題なら20世紀の初めのころにも異常現象が多く見られたはずだ.
これまでIPCCなどが火山の大爆発によって空気中に散った微少な粒子によって1940年から1980年までの世界の気温が低下したとしていた.でもタイミングが少し合わない.
この論文の主眼は,爆発によって大気中に飛散した粒子などを検証し,「原水爆実験」で大気中にできた粒子によって気温が下がったのではないかとの指摘を行っている。
この論文の内容の一部は,菱田昌孝先生の「地球の(温暖化寒冷化)現象の考え方」にもあるが,学問は常に疑い,常に新しい知識を求める。それが人間の活動を信じる科学の信念でもある。
「原水爆実験で温暖化が抑制される」という考え方もあることを知ることはとても大切である。また,学者は世俗的な価値判断と隔絶しているという点でも,多くの人が知って貰いたい内容だ。
政治家ならこういうだろう。
「まずいな.温暖化が原水爆実験と関係しているとなると,温暖化がダーティーなイメージになるから,公表しない方がよい」
でも学問は違う。学問は真実を追究するものであり,権力や政治とは一線を画している。だからこそ日本国憲法では「学問の自由は,これを保障する」と宣言しているのだ.
自由な学問の活動は,かならず日本国民の利益につながる。だから学問の自由が大切なのだ.
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私はこの論文に接し,一風のそよ風に身を置いた気がした.最近のように「何でも温暖化おじさん」が登場して,訳の分からないことに学問の衣をかぶせているのに嫌気をさしていたからだ.
そして,まっとうな学術論文はまた脳を刺激する・・・1980年から再び気温が上がってきたのは原水爆実験で大気中にできたチリが無くなったからだろうか・・・そうすると,その後,気温が上がり始めるときにグラフの青の矢印の先のA線のところに気温がジャンプするのではないか・・・もし青い矢印の根元から上がり始めるということになると別の抑制効果がいるような気がする・・・そしてA線とB線の傾きが同じというのも考えさせられる・・・CO2の排出量は1920年から1940年にかけてと,1980年から2010年では2倍以上違うだろうから・・・・・・
正しい科学の論文は脳を刺戟し,屈曲した科学は私の脳を腐らせる。でも,すでに学会もまた汚染されている。この素晴らしい論文が日の目を見ることを期待する。
(平成21年6月29日 執筆)