こんがらがった温暖化を解きほぐすために,2つの整理を行う。一つは,すでに書いたが,「温暖化ということについて,専門家として発言できる人はいるのか」という事であり,二番目に「IPCCや京都議定書は考える時の軸になるのか」ということだ.

温暖化についてIPCCは次のように言っている。

1) これまでの100年で0.7℃程度上がった.

2) これからの100年で2.9℃程度上がる.

3) 第一の原因は人為的にでているCO2である.

4) 海水面も100年で35センチ上がる。

5) 気温上昇が2℃以上になると,被害が出始める(まだ,でていない)

6) 北極の氷が融けても海水面は変わらない。

7) 温暖化すると南極の氷はふえる。

8) ツバルは温暖化で沈んでいない。

9) 日本は当面,温暖化の被害は起こらない.

また京都議定書は,次のようになっている.

1) 京都議定書でCO2削減をしているのは日本とヨーロッパの一部だけである.

2) ヨーロッパは1990年基準という不平等条約で実質的な削減はほとんど無い.

3) 世界で日本だけがCO2を削減しようとしていると言える.

4) その日本も6%削減どころか,数%から10%近く増加している。

日本の専門家は3つに別れる。

1) IPCCと京都議定書を中心にしている人

2) IPCCと京都議定書を口実にしているが,実際には報告や現状を無視して,危機をあおっている人

3) IPCCの結論は間違っているとしている学者

である.

私(武田)の書籍を読んでいただいた人は理解できると思うが,実は(驚くべき事に)武田は1),つまり「IPCC,京都議定書派」なのだ.

繰りかえす,武田は「IPCC派」であり,私を懐疑派としている人たちこそが「IPCC懐疑派」なのである.実に巧みな方法でこの逆転を試みている。

たとえば,私がIPCCの事や京都議定書の事を解説している間に,いつの間にか「懐疑派」に分類するWikipediaがその一つだが,記述内容から見て社会的な立場も高く,見識があると思われる人なのに,匿名で批判するので,話し合うこともできない.

なんで,正義を唱えながら,自分の名前を名乗れないほど卑屈なのだろうか?

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温暖化自体が科学であり,将来のことだから,不明点は多くある。そこでIPCCについても若干の異論を紹介する必要がある.

1) 100年後では結果が良く分からないので,30年後で判断した方が良い.だから30年後に約1℃上昇ということで考えたい。

2) 原因はヒートアイランドがかなりの部分を占めるとの報告もあるので,都市の構造を変えたり,気温のはかり方を変えたりするのも大切だ.

3) IPCCはあまりに閉鎖的なので,少しオープンな議論をした方が良い.

4) 京都議定書の真実は伏せられているので,オープンにした方が良い.

5) 温暖化しない,もしくは寒冷化するという学者がいて,それぞれ立派な人なので,IPCCと並行して紹介した方が良い.

そのほかはIPCCと京都議定書とほぼ同一のことを紹介している。でも,あまりに2)の勢力が強いので,1)を紹介すると3)のグループに編入される。

でも,私はIPCCに雇われているのでもないので,自由な科学者として,若干の補正をするのは当然である.非難されるいわれはない.

ところで,IPCCや京都議定書を信じているような顔をして,その実,危機をあおり,なにかの利得を得ようとしている人たちは,1)の人を「懐疑派」と言い,批判をし,事実と違うことを宣伝し,自らを守ろうとしているように見える.

そんなことをしていると,日本社会は判断力を失ってIPCCが何を報告しているのか,京都議定書をどの国が守っているのかすら分からなくなっているように感じられる。

2)のグループの人に較べて,ご自分の研究から「IPCCの報告は間違っている」としている3)の学者の方のご意見の方が立派に見える。可哀相に,政府の方針と違うから,研究費は来ないし,「異端者」扱いされている人もいる。

でも,「数10年後には石油が不足するから,CO2は自然に減ってくる」というのも分かるような気がするし,「日本は南北に長いから,1℃ぐらい気温が上がっても,少し日本が南にずれるだけ(北海道と沖縄では20℃も違う)」というのも納得性がある.

それに,学者が違う見解に達することは多い.それを無視してはいけない.

IPCCの報告を尊重するようなことをいって,実は無視している人,その人たちはIPCCとは別にその判断の根拠を示すことを勧めたい。

たとえば,温暖化で日本が被害を受けるという。でもIPCCの報告には大陸の被害が強調され,日本のような海に囲まれている国の被害はほとんど書いていない.

IPCCに書いていないのに,被害を強調するということは,別の根拠があるはずであるが,そのグループの人たちは,1)や3)の人を批判するだけで,根拠を述べない(個人的な根拠ではなく,IPCCの報告書の何処に書いてあるかという根拠だ).

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まず,2)の人が,IPCCの報告書を紹介している人を「懐疑派」と呼ぶようなことを止めた方が良いだろう。

おそらく2)の人がかなり過激なのは,一部に「それで研究費や利権を取りたい」という人もいるだろうが,多くの良心的な人は「IPCCは政治的な制約があるから,自制しているが本当はもっと危険だ」と考えているからだろう.

それなら批判を止めてもっと積極的に,「自分はIPCC懐疑派だ」とし,みずからIPCCと違うスタンスをハッキリさせ,その考え方や理由を説明して貰った方が混乱は少なくてすむ。

私たち専門家は,政治家と違い,対立するために議論しているのではなく,一刻も速く,少しでも正確な温暖化の現象を捉えるためだから.

(平成2169日 執筆)