世に起こることはあざなえる縄の如く,因果関係があり,そして必然性がある.

2009年に起こった金融崩壊も突然として,そして予想外に起こったわけではない.

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この話は今を去ること20年前にはじまる。

1989年11月9日,東ドイツ政府は東ドイツ市民に対して旅行の自由化を行った.つまり「ベルリンの壁の崩壊」である.これをキッカケとして第二次世界大戦後,世界を支配していた「東西冷戦状態」は一気に崩れた。

経済活動というのは不安定な政治体制の元では,その羽を広げられない.だから西側諸国のビジネスは,ベルリンの壁が崩壊するまで,どちらかというと「自国主義」であり,国内にとどまっていた.

しかし東西冷戦が終わると経済は一気にグローバル化した.つまり行動を制限する大きな枠が外されたのだ.

それと同時に1990年代はアメリカでIT技術が飛躍的に進歩した.いくら経済活動をグローバル化しようとしても,外国にお金を送るのに1ヶ月もかかってはどうにもならないが,それが瞬時にできるようになったのだ.

何かが大きく変わるとき,それまで制限されていたものが無くなるだけではダメなこともある.それと共に技術や規制などが変わらなければ条件が整わない場合もあるのだ.

このことだけなら,金融危機は起こっていない.経済が拡大し決済が速くなり,やや不安定になるだけで終わっただろう.しかし,ベルリンの壁の崩壊とIT技術の進歩と共に世界は大きく変化しようとしていた.

その一つが「EU」である.EU,つまり欧州共同体というもの自体はかなり前から計画が進んでいたが,徐々にその形を整えつつあった.EUができると言うことはアメリカにとっては強敵の出現であり,それに対して対抗措置が必要だ.

それが「アメリカ大陸の経済を一体化する政策」NAFTAなどであった.

アメリカ合衆国を中心として隣接するカナダやメキシコの間の障壁を限りなく低くし,それ以外のアメリカ大陸の国との経済交流を盛んにする.

それを進めるには繁栄するアメリカ国内への移民を認める必要があり,大量の移民がアメリカに流れ込む.

移民の人たちがなぜアメリカに移住するかというと「貧乏」だからだ.貧乏な生活を少しでも豊かにしようとアメリカに移住するのだから,簡単に言うと「貧乏の人が増える」と言うことになる.

貧乏な人が増える特にはその対策を取らなければならない.その第一は「住宅を整えること」である.

2000年になるとアメリカはITバブルが崩壊し,産業の未来が見えにくくなってきた.ITバブルが崩壊したのはITが不要になったのではなく,調子に乗って増産しすぎたからだ.

行き場の無くなったドルは「貧乏な人に住宅を」という政策の方に進む.そしてアメリカという広い国は電車がないので,住宅を買うと言うことは自動車を買うと言うことでもある.

そこで,住宅ローン.それもお金の無い人のためのローン,サブプライムローンが成立し,さらにはオートローンもついてきた.

でもあまりの膨大な借金なので,お金を出す側が慎重になる.なんといっても,サブプライムローンという借金は恐ろしいもので,まったく収入がない,それでもローンを組む.そのローンも3年後,10年後になるほど返済額が高くなるというものだ.

なぜ,こんなローンが成立するかというと「土地は無限に上がるから」という前提があるからだ.それだけが前提で,ローンを借りた人が出世すると言うことではない.

そこで証券化というのを考えた.個人のローンの危険を引き受けるのは,その人の信用能力などを調査しなければならないから,大変だが,膨大な借金証文が何か分からない一つの証券になると,その証券全体の信用は個人とは切り離されるから安全に見える。

それに「格付け会社」を作って,信用性が高いという仮想の格付けをすれば舞台は整う。

この複雑で安全そうな証券をアメリカとヨーロッパの銀行やお金持ちが買い続けた.1兆円の土地が2兆円になると,投資した人は全員が儲かる.何も変わっていないのに,値上がり分だけで,全員が儲かる仕組みなのだ.

ヨーロッパでは,イギリス,オランダ,スペイン,そしてアイスランドなどの小国も入って「金融国家」を設立しようとした.つまり「幻想国家」を目指したのである.もちろん「額に汗する国家」以外に国家はないが,ながらく軍事力で世界を支配してきた植民地国にはそんな概念はない.

もし,土地は有限で,人口は増え続ければ,この現象が続いただろうが,移民が減ったり,少し不景気になったりすれば,土地の値段が下がり,お金が動かなくなり,みんなが金融市場から撤退し,大恐慌になるのは事の必然である.

2007年の秋に兆候が現れ,2008年の春にはアメリカの財務当局が警告を出す.その後にあのノンビリした洞爺湖サミットが開かれている。

サミットではすでに起こることが分かっている金融崩壊をいかに表面化させないこと,それが世界の首脳のずるがしこいところであり,福田政権が取った道だった。

知っている人だけが危機を回避する,その時間的余裕を持たせるために,サミットの会場を「エコ」でつつみ,地球温暖化を表面に出し,マスメディアはそれに乗った.

洞爺湖サミット前後で,商売から撤退したり,証券を売った多くの人を私は知っている.

そして,2008年の秋になるといよいよリーマンブラザーズが崩壊する.政府の首脳部は誰も驚かない.すでに処置をした後だからだ.なにも情報を与えられない国民は右往左往する.なんのためにNHKの受信料をはらっているのか!

世界最大の自動車会社GMは倒産する。

ベルリンの壁の崩壊,IT技術の進歩,EUの活動,アメリカ経済圏の成立,移民の増加,住宅と自動車の需要,サブプライムローンの増大,証券化,ヨーロッパ金融国家思想,そして崩壊へとつながる。

さて,今後はどうなるだろう.

まず,将来を考えるためにはNHKを見ないことだ.隠蔽する工作が常に行われている情報ほど怖いものは無い.

1) 金融崩壊は,アメリカがドルを刷れば良いから近年中に解決する。

2) ヨーロッパはフランス,ドイツ以外は被害を受け,東ヨーロッパはイギリスなどの崩壊の影響を受ける.それに好調なときにはよいが不調になると主権国家の集まりであるEUはうまくいかない。ユーロは下落する。

3) 日本は実に情けない国で,証券は買っていなかったが,アメリカに自動車と家電をうってドルを貰い,そのドルをアメリカ人に返してまた買って貰うということをしていたので,生産に打撃があった.でも実質的にはなにも打撃を受けていない.

4) 生き残れば,そのまままた生産できる。

問題はアメリカだ.

アメリカはドルがあるから,印刷すれば経済は復活する。でも,新技術や新産業がなければ,ドルはまた架空の投資先に進み,金融は再び崩壊する。

私はアメリカが打ち出したグリーン・ニューディールを見て,新技術が無いのに驚いていた.これまでのアメリカは,鉄鋼,自動車,ITなど常に新技術と新ビジネスで繁栄し,世界を引っ張ってきた.

日本はタダそのおこぼれを貰ってきただけである.

でも,今回のアメリカの政策には新技術が無い.無ければそれは幻であり,まもなく金融は二度目の崩壊をする.

(平成21528日 執筆)