この環境教育を,レジ袋のような身近なものから始めようと思いましたが,子供は将来ですから,全体を見てからということで,最初は少し難しくなりました.
19世紀が石炭の時代なら,20世紀は石油の時代でした.石炭というのは大昔の植物の死骸なので,まず第一に固体ですし,燃やすと灰や煤煙が多く出ます.
それに比べると石油は,地下から掘り出した時には真っ黒でドロドロしています.小さな油田に行きますと,周辺は漏れた原油で真っ黒になっています.
それを,工場で「精製(きれいな成分だけにすること)」ができますので,私たちが目にする時には「灯油」のようにとても綺麗で使いやすいものになります.
ところで,20世紀の初めに,技術が進んで石油が使えるようになり,世界は大きく進歩しました.そして,早くも1920年代には中東をはじめとした世界の多くの場所に油田があることがわかり,爆発的に「石油の時代」が始まったのです.
身の回りを見てみましょう.
まず,ペットボトルやシャツ,そしてシャンプーは石油から作られるものです.大昔は動物や植物から作ったものばかりでしたが,今では多くのものが石油からの製品にかわりました.
テレビや掃除機,そして自動車の内装まで,大きなものもプラスチックが使われています。
自動車が石油から作られるガソリンで動くのはみんな知っていますし,灯油ストーブももちろん石油を精製して得られる燃料です.
そればかりではなく,
たとえば「お米」を考えてみましょう.お米は,田んぼに稲の苗を植えて,それが太陽の光で育つのですから,お米は太陽の恵みでできるように思います.でも現代はそこが違うのです.
次の図を見てください.
このグラフは1955年から1990年まで,つまり日本が高度成長を遂げながら石油を大量に消費する社会に変わっていく時の農業の姿です。
1955年にはお米を1キログラム作るのにわずか1000キロカロリーの分しか石油を使っていなかったのですが,1990年には実に5倍になっています.
内容は,化学肥料とトラクターなどの機械に使うのが多く,それで90%を占めています.このことは,農業をする人にとっては重労働から解放されたので,とても良いことですし,一人の人が耕す田畑の面積も大きく増えたのです。
その反面,日本のお米も「石油で作る」という状態になったのです.
つまり,もう一度,グラフを見てみると,日本の農業があまり石油を使っていなかった頃,1キログラムの稲を栽培するのに1000キロカロリー使っていました.
そのエネルギーの多くは「肥料」という形で使われていましたが,もっと能率的に稲を育てるために,農薬,機械などをふんだんに使うようになり,最近では6000キロカロリーも使うようになったのです.
このエネルギーが全部,石油と言うことではありませんが,その多くは石油か,石油を使って作られたものです.
もし,1000キロカロリーの化学肥料も使わなければ,稲の収穫量はとても少なくなります.化学肥料自体は本来はあまり畑には良くないのですが,能率良く作物を育てるということだけを考えれば,仕方の無いことでした.
そして,農業の専門家の方の計算では,もし石油を全く使わずに太陽の光だけで稲を育てると,現在の10分の1ぐらいの収穫量になってしまうとも言われます.
つまり,太陽の光で育つはずの稲も,意外なことに,今では「石油で育っている」と言っても良いのです.
また,現在の日本の穀類自給率,つまり日本人がどのぐらい日本でとれる穀類(お米,麦,トウモロコシ)を食べているかという調査では,たった27%です.つまり73%は外国から運んでくるので,それらを船で運んでくるときにも,膨大な石油(重油など)を使います.
ですから,食べ物まで実は石油でできているといっても過言ではありません,それが現代の社会なのです.だから石油がなくなったら大変なことなのですが,それが無くなりそうなのです.
石油のことをまず勉強しておかないと,環境を理解する時にあらぬ方向に行ってしまいます.
つまり,石油が無くなると,まずガソリンで動く自動車もプラスチックも無くなりますが,それ以上に,食料が海外から入ってこなくなったら,日本人に餓死する人が出るかも知れません.
日本の食糧の問題はこのシリーズの後の方で整理をしますが,ここでは,私たちの生活は「石油漬け」になっていて,「石油が無くなったら,暖房に困ったり,自動車のガソリンが高くなる」だけではないことをまず知っておきましょう。