政府は緊急の経済対策で大型の予算を立てた.収入(国家の収入は歳入というのが普通だが)は不景気で不足するから,大幅な赤字国債を発行する.
なぜ,こんなに大量のお金を使って緊急の経済対策をするかというと「国民が困っているから」と言う.でも,発行される大量の国債を買うのは,実は国民である.
国民の多くの人あまりに複雑になった経済システムを理解できないので,自分が銀行に預けたお金の2分の1が国債にまわり,それは結果的に消費税などでとられる(つまり,自分で預けたお金はそのまま無くなる)ということは気がつかない.
今回も,その手口である.
「国民がお金で困っているから,国民からお金を取る」というのが今度の緊急経済対策である.実に奇妙だ.
でも,これは政府が悪いのではなく,国民が悪い.政府が悪いとすると説明責任を果たしていないことだけだ.
この対策を発表した官房長官が誠意のある人なら,次のように言うだろう.
「この不景気を解消するには,国民がどんどんお金を使って消費することですが,お金を持っている国民は消費しないので,代わりに政府が消費します.」
でも,本来は国民が使ったほうが良い.自分のお金だからということもあるが,民間ならお金を使えば何かの成果がでるが,政府が使うと再生産には結びつきにくい.捨て金になる率が高いということだ.
「国債のお金は国民が払う」という単純なことでも,この複雑な社会では分からなくなる.「国債を発行して,大型予算を組む」ということは,国民にとっては本来は自分が使うことができるお金を,政府が代わりに使うことになり,官僚は新たな天下り先ができ,官僚や政治家と密着している企業はお金をたんまりもらえる.
そして,NHKは視聴者の国民の方を向いていないから,政府予算を形式的に解説するだけだ.そして,「今度の政府予算は,大金に困っているという国民からお金をとって政府が使うものだ」という解説はしない.
もっと,深い原因は日本国民にお金を使う元気が無いことだ.もし,不況になってもお金はあるのだから(政府が国債を発行するだけのお金は国民が持っているのだから),自分で新しい仕事をすればよい.
でも,現在の日本の国民は,節約とか年金などとさんざん脅されて,新しいことをする元気が無い.不安になって貯蓄ばかりしている.その貯蓄を使う人は政府しかいない.
しかし,そんな錯覚をさせるのは,政府の大型予算を聞くと,「俺もおこぼれに預かれないかな」と考え,ますます自分で仕事をする意欲を失うこともある.その点で報道の仕方は重要である.
環境の重要性を強調して節約させ,年金を不安定にして貯蓄をさせるのは,日本政府の一貫した政策の底流だが,それは「税金をもらって暮らしている人(議員,官僚など)が,税金を減らそうとは思わない」という原理原則に沿っているだけである.
日本国は日本国民で作られている.だから,結局のところ「お金は持っているが,自分が使わずに政府に使ってもらう」というのは国民の選択の結果である.
(平成20年12月21日 執筆)