温暖化の調査をしていると,時々,かなりデータの解釈が難しくなることがある.もちろん,対象としているのが「地球全体」であり「100年間」という長さだから当然かも知れない.
特に,原理的,根源的な質問には鋭いものがある.たとえば「来年の長期予報も当たらないのに,なぜ100年後がわかるの?」といったものだ.
一応,答えることはできる.来年の長期予報は「揺らぎ」の大きい中で「偶然に起こること」をかなり正確に予想しなければならないが,100年後なら「平均的動き」を計算すればよいからと言える.
でも,時間のスパンが長いと,計算の小さな誤差が拡大される危険性も高い.また,学問が進めば,これまで大きな影響はないと考えてきた要因が実は大切なのだということもわかる.もともと学問とは不完全であることが前提で,その前提がなければ「研究」というのも質が変わってくるという難しいところがある.
ところで「海水面が上がると何が起こるか?」ということだが,数10メートル上がるのと,1センチ上がるのとでは考える視点が違うので,まずはIPCCの第四次報告(気象庁訳17ページ)を見ると,100年後に18センチから59センチとあり,中央値は約40センチだから,30年で12センチと言うところだ.
IPCCは100年を基準にしているが,私は人間の寿命や石油の不足などから30年を一つの尺度にしている.つまり,何かの対策を採れば,その結果をある程度,観測できる方が良いからだ.
100年後ではなかなか難しいので,30年後ぐらいに一度,見直してみるのが良いと私は思っている.そうすると30年後に上がる高さは12センチぐらいだから,これが環境にどのような影響を与えるのかを調べている.
まず実績だが,日本沿岸の北海道から宮崎までの5検潮所の平均海水面変化を気象庁が発表している.そのグラフを示す.
これによると,海水面が低かったのは1900年頃と,1960年代で,高いのは1950年頃と2000年ふきんだ.高いときと低いときの差は約8センチから10センチである.
でも1950年でも2000年にも,「海水面が上がったので,被害が生じた」というような報告はない.この原因は一年間の海水面の変化が約3メートル程度あり,また人口の多い都市部では地下水のくみ上げなどによる地盤沈下が目立つからだろう.
また,世界ではカナダのように一日に15メートルも上下するところもあり,場所による変動が大きいからでもあろう.つまり,海水面というのは,季節でも場所でも,低気圧でも,そして毎日の潮の満ち引きでも,メートル単位で変わるので,数10センチで困ったことは,少なくとも日本ではなかったと思われる.
でも,ツバルやベネチアが水没するというニュースで「温暖化で海水面が上がったから」というコメントがつく場合が多い.
また,なかなか難しいのはIPCCは,次のような図を出していることだ.
この図も気象庁の翻訳したときのものをそのまま掲載しているので,横軸がみえないが一番左が1840年,右が2020年だ.日本の平均値は上がり下がりがあるのに,世界の平均は単調に増加している.
測定値の始まりの点は1870年だからアメリカで南北戦争が終わった頃,日本では江戸時代から明治になった頃だ.おそらく,潮位計のデータではなく,地質的なデータから推定したものと思われる.
異なったデータがあること自体はそれほど問題ではない.世界の平均を取るか,地域的な値か,また測定方法や平均の取り方なども違うからだ.
今,私が興味をもっているのは,日本の過去に10センチぐらい海水面が上下したときに,過去にどのような環境変化があったかということだ.
「海水面が上がったら大変だ」ということを「意見」や「感情」として言いたい気持ちはわかるが,科学はいろいろな面から検証し,それまでの間違いを修正していくものだから.
(平成20年12月6日 執筆)