インドで大規模なテロ事件が起こり、日本の中でも「テロを力で封じ込めろ」という議論が盛んにでている。特に新聞の論調が「テロは憎むべきもの」ということで統一しており、「テロを実施する側の論理」に対する配慮が見られない。

アメリカはイラクに軍事侵攻したが、その理由は「イラクに大量破壊兵器があった」ということであり、戦端を拓くに当たって国連の同意を得ていない。

アメリカ軍の攻撃は主としてイラク軍および軍事施設であったが、相当数の民間人が犠牲になったのも確かである。

また、第二次世界大戦以前ならともかく、現在の世界では「他国の政権が気に入らない」という理由で戦端を拓くことは国際法上も違反である。

従って、アメリカによるイラク侵攻は「テロ」であるが、日本のマスメディアはそのような認識ではない。白人の行為は正しいが、有色人種の行為は許されないという東京裁判と同じ考えに立脚している。

「テロ」の大きな原因が世界の「格差」であることは明らかである。世界の5分の1程度の人口を占める先進国が世界の富の5分の4を占めているといわれ、アメリカの金融破綻で救済の対象となるトップの給料は30億円にものぼり、これはテロを試みる人たちの1万人分を上回る。

アメリカの軍事力、先進国の経済力で極端に追い込まれた人たちは、どうしたら自らの希望を達成することができるのだろうか?フランス革命はなぜバスティーユ攻撃から暴力的に始まらなければならなかったのだろうか?

人間に能力差がある以上、ある程度の格差があってもやむを得ないが、1万倍の格差が「合理的である」とか「倫理的である」と主張することはできない。地球上の資源や富がある一定限度で押さえられているのだから、その不当性は言うまでもない。

「この世界が歪んでいることは確かだが、テロは許せない」という論理は先進国側の論理であり、「歪んでいるのは、力で弱いものを屈服させているからだ。テロを最初に仕掛けているのは先進国だ」という論理に対抗できないと私は思う。

テロを撲滅するには、まずアメリカがイラクとアフガニスタンから撤退することであるが、これは他国のことなので、少なくとも日本にマスメディアが自由な立場で、そういうスタンスを取るのが第一歩だろう。

次に、世界の先進国が至急、G8を開き、自らの利害だけを考えずに、世界の格差を縮小する具体的な方法を決めなければならないだろう。

格差が縮小方向に進み、どの国も自国で自国のことを決めることができるようになったら、テロはすべて無くなることが難しくても、相当、減少すると考えられるからだ。

また、正当な反撃として許されるテロ(アメリカ軍のイラク侵攻に対する駐留アメリカ軍へのテロ)が存在すると、それは今回のようなインドのテロに発展し、さらに日本国内にもそれは及ぶだろう。

正当な議論が認められないと、弱いものはテロに訴えざるを得ないという原理原則は、フランス革命以来のものだからである。

(平成201130日 執筆)