驟雨、それは突然として我が身を遅う不運である。
もう少しで我が家というところで、突然、バケツをひっくり返したような雨。全身はずぶ濡れである。
「ああ、しまった!もう少し早く飲み屋を出れば良かった!」
と悔やんでももう遅い。最初は小走りだったが、もうダメだ。
ブシュ、ブシュっと靴が音を立てる。
冷たい冬の雨の中をやけになって歩るく。ここまでくると、なんとなく歌を歌いたい気分だ。
やっとの思いで家にたどり着き、つま先立ちになって風呂場に行って水を張る。とにかく風呂だ。沸くまで20分はかかるだろう。寒さが全身を襲い、震えは止まらない・・・
やがて、私に幸福なときが訪れる。湯船に身を沈めて私は指先がジーンと、まるで音を立てるように暖まる幸せを感じる。
「ああ、こんな気持ちの良い風呂は何年ぶりだろうか? そうだな。最近、雨に降られることもなくなって人生も味気なくなったものだ。」
背広も靴も捨てた。それはそれで寂しい懐には打撃だったが、まだ幸せが続いていた。それから1ヶ月は「酷い目にあった、・・・」と友人との酒の肴に事欠くことはなかったからである。
不運、それは幸運である。貧乏、それは裕福である。病気、それは健康である。絶望、それは希望である。
幸運を望めば不運になる。裕福を狙えば貧乏になる。健康を気にすれば病気になる。そして希望が強ければ絶望する。
目標を持ってはいけない。その日、その日はそれ自体が人生であり、過ぎゆく瞬間しか人生はない。気楽なものだ。私の運命は神様が決めて下さる。私にできることと言えば、今日を一所懸命、生きるだけだから。
(平成20年3月22日 執筆)