温暖化が進むと海水面が上昇して東京が水浸しになると言われていた。それは間違いだということを本に書き、すこしは海水面の上昇に関する報道が少なくなってきているが、それでもツバルの水没など一部の報道がまだ続いている。
専門家としてこの問題を社会に対してどのように説明するべきであろうか？専門家というのは諸般の事情をよく知っているので、それを踏まえてできるだけ自らの考えを押さえて一般の人が正しく理解できるように努力するのが筋だろう。
もちろん、専門家はそれぞれ「意見」を持っているが、それは「一般的に知らなければならないこと」を最初に言って、その後に「これから先は私の考えだが」と断るのが良いと私は思っている。
日本人が学問や専門というのを大切にしてくれることで私もずいぶん助けられた。学者の言うことはだいたい信じてもらえるし、第一、日頃、一般の人からぞんざいに取り扱われたことはない。
この日本人の素晴らしさ、「日本人の誠」を尊重したい。
ところが最近、講演をしていると「専門家の言われることがあまりに違うから、何を信じて良いか判らない」という苦情を聞くことが多い。
確かに、ダイオキシンにしろ、リサイクルにしても、また温暖化でも、これほど専門家の間で言うことが違うのだから、このままでは「しっかり学問をした人を尊敬する」という立派な日本人の誠が失われてしまう。
しかも場合によっては学者ともあろう人が「罵倒」するような言葉を使うことがある。それでは更に品格が落ちて、尊敬に値しないことになる。
そこで、今、一番、多く報道されている温暖化について、専門家はどのように考えているか、それをできるだけ中立的な形で書いてみたいと思う。この説明で私自身の「誠」が問われるかも知れないが。精一杯、誠実に書いてみたいと思う。
まず、第一話は「温暖化で水浸しになるか？」ということである。
これを専門家が一般の人に説明するには、最低でも、１）温暖化で海水面はどの程度上がるか？ ２）普段から海水面というのはどの程度、あがるのか？ ３）地盤沈下による影響はどの程度か？ そして、４）地質学、気象学、物理学などの学問的な意味や、政治的な背景の説明、の4つがいるだろう。
温暖化で海水面がどの程度あがるか？ということに関しては私たち専門家の間では一つの約束事がある。それは、
「温暖化という現象が複雑で、地球的規模なので、専門家はあまり個別の意見を言わず、国連にIPCCという機関を作って、そこの報告書を第一としよう」
ということだ。
もちろん、IPCCも政治的な色彩があるので、時に批判的に言うのはかまわないが、とりあえず一般の人にはIPCCの報告をそのまま伝え、その後、もし意見があればそれを述べるというのが「誠」だろうと思う。
IPCCの報告は1990年から4回行われているが、研究がもっとも進んだ時のものが2007年2月末に出た報告書で、日本では気象庁が4月に「完全訳」というのを出している。それを参考にするべきだろう。
その第一作業部会の報告の要点は次のようなものだ。
１） 現在の温暖化はどうやら人間が出す二酸化炭素が主要な原因らしい。
２） 温暖化によって海水面が少し上昇する。
３） 夏に暑い日が増え、冬に寒い日が減るだろう。
まず「海水面の上昇」について整理をしてみたい。ここで一般の人に注意してもらいたいのは、「海水面の上昇」と「陸が水浸しになる」というのはちがうということだ。
たとえ、海水面が上がっても、海岸線の地形や防御によっては海水が陸地に侵入はしてこない。もし海水面の高さだけできまるなら、オランダという国は海水面以下の土地が多いから多くの国土を失う。
つまり、陸が水浸しになるかどうかを考えるときには、
１） 海水面がどの程度、あがるか？
２） 陸の地盤は沈下したり隆起したりしていないか？
３） 潮位は何で決まっているか？
４） 海岸線の防御はどのようになっているか？
が因子として考えなければならないからである。
（以下、次号）
つづく
【脱線】
日本列島は北半球では唯一の「大きな温帯の島国」で、列島の両側には黒潮、親潮という2大海流が流れている。そして列島中央には背骨のように山脈が連なる。このような地形は日本に住んでいるとあまりありがたみが感じられないが、世界的にも特殊な環境であり、そこに日本独特の風土が形成されたと考えられる。
水道の水が飲めるのも世界で珍しく、四季があり、適切に雨が降り、時には台風が国土を洗う。四面が海だから気温は急激に変化せず、温暖化でも大丈夫である。また海流が激しいので少しぐらい海に捨てても海が汚れることはない（もちろん、捨ててはいけないが）。北海とは全く違う。
日本には資源がないという。それは石油、石炭、鉄鉱石などがないのであり、柔らかい太陽の光、温暖な気候、風、水、空気・・・自然の資源ならなんでもある。それを活かすのが「環境技術」ではないか？
