物事がうまく行ったり、緊張もしないで肩も凝らない人生というものはどんなものだろうか?と若い頃、よく考えた。

 

 この世を見てみると、なんとなくギクシャクした人もいるし、スムースにものが運んで行く人もいる。いつもガリガリに緊張している奴もいれば、至ってのんびりしている奴もいる。

 

 もう、ずいぶん前のことだが、私が30代の頃、そんなタイプのいろいろな人が近くにおられて勉強になった。その人たちを参考にさせてもらっている内に「100発100中の武田」とか言われるようになったけれど、実はそれには先生がおられたのだ。

 

 「先生」と言っても学校に行っていたわけでもなく、その人が年上とか偉い人とかそういう意味ではなく、年下でも実力では自分が上でも、ともかくその人を見ているととても参考になるのだ。

 

 物事がスムースに行く極意はなんだろうか?

 

大切なのはどうやら「とりあえず目標を置かない」ということらしい。「とりあえず」というのは、大きな目標はあるのだが、毎日、毎日、大きな目標を意識している訳ではない。だいたいの方向が決まっているだけだ。

 

 でも、毎日、目の前にしなければならないことが来るのだが、そんな時にとかく「これは自分にとって何の役に立つのだろう」とか、「これをやってもあまり得にならないのではないか」と下らないことを考えてしまう。

 

 物事がスムースに進む人を見ていると、「やらなければならないことは、なにも考えずにやる」というように見えるし、少し抽象的に言えば「水が低きに流れる如く動く」と言ってもよいだろう。

 

 朝が来ればやることは決まっている。顔を洗い歯を磨き、ご飯を食べ服を整えて靴を履く。歩いて駅まで行き、電車に乗ってつり革につかまり会社にでる。

 

 なんということはない。辛いこともないし困難もない。

 

 でも、人間だからついつい、朝起きたら「ああ、今日も行くのか」とため息をついたり、水道の栓を捻っては「冷たい!」と不満を言ったり、電車に乗れば席が空いていないかと探す。

 

 スムースに行く人はそんなことは気にしないようだ。どうせ会社には行かなければならないし、冬になれば水道は冷たいし、電車だって立っても死ぬわけではない。第一、そんなことを考えるから疲れるということが判っておられる。

 

 話をわかりやすく、誰でも朝するようなことを例に挙げたが、実は仕事でも家庭生活でも、もっと複雑な商売でもみんな同じだ。

 

 今日、やるべきことをする。イヤとか辛いとか思いもしない。やらなければならないことは淡々とやる。そうしていくと仕事がドンドン、片付いていく。

 

 外から見るとその人は仕事が速いのだが、よくよく仕事の速さを見ていると普通の人と変わらない。強いて言えば「すぐ取り組むし、途中で休まない」からかもしれない。つまり環境や条件をあまり気にせずにやってしまうのだ。

 

 そのうち、その人は暇になる。確かに、人間のやることはそれほど多くないからであり、どうも多くないらしいとその人を見ていると納得できる。

 

つづく