最初に答えを言ってしまえば「樹木は二酸化炭素を吸収しない」というのが正しいだろうね。ただ、質問を分けて少しずつ答えていこう。
たとえば、君が庭に種をまいて一本の木を育てたとしよう。種をまくとやがて芽を出して双葉になり、少しずつ木が成長していくね。
生物の時間に習ったと思うけれど、植物は空気中の二酸化炭素と地下からの水を原料として使って太陽の光をエネルギー源として光合成をするんだ。そして「自分の体と自分が生きていく栄養」を作りだす。
自分の体を大きくしていくために何か作らなければならないのは判るね。そして自分自身も生きていかなければならないから、丁度、僕たちがご飯を食べるのと一緒だけれど、植物の場合は自分で食物を作って、自分で食べるのだ。
つまり、植物は2種類の目的で二酸化炭素を使う。
1) 自分の体を作るため
2) 自分の栄養を作るため
この二つの中で、二番目は自分が生きるための食糧だから、体に貯めておかないですぐ使ってしまう。植物だって呼吸もするし、生活をしているのだから食事をして、僕たちが二酸化炭素を出すように、吐き出すんだ。
だから、二酸化炭素を吸収することを考えるときには、2)はまずは関係がないからはずしておこう。
さて、樹木が自分の体を作るために二酸化炭素を吸収するけれど、大人になって体が大きくならなくなったら二酸化炭素は吸収しない。つまり成長した樹木はほとんど二酸化炭素を吸収しないことが判る。
そして、さらに歳をとるとついに枯れて死んでしまう。そうすると土の中から微生物が出てきて死んだ木を分解する。その時には若いころ吸収した二酸化炭素と同じ量の二酸化炭素がでる。
それが自然というものだよ。難しい言葉で言えば「定常状態」という野だけれど、環境の分野では「自然の持続性」と言ったりもする。
これまでの説明で判ったと思うが、樹木は二酸化炭素を吸収したり、放出したりしない。つまり、増えも減りもしないのだ。樹木が誕生して死に、分解して土に戻る。太古の昔から自然はそうしてきたんだね。
それじゃ、樹木が枯れるまで待っていないで、材木として使ったらどうなるかに話を進めてみよう。
でも先に進む前に、勉強のために「マスバランス」という考え方を身につけておこう。
この世の中は何もないところから突然、何かができたり、目の前にあるものが突然消えたりはしない。そのことを「質量保存則」とか「物質不滅の法則」などと言う。
ただ、人間の目には見えないものと見えるものがあるから、見えないものから見えるものが出来たり、見えるものが見えないものになることはある。それは人間の目で見えるものに限界があるからで、突然、何もないところから生まれたのではない。
樹木がそうだね。空気中の二酸化炭素は人間の目では見えない。だから何もないところから樹木が出来たような気がするだろうが、空気中の二酸化炭素から出来たのだ。
それと同じで、樹木が死んで微生物が分解すると跡形も無くなるけれど、また最初の二酸化炭素になったということだ。
この「質量保存則」を知っておくと便利だよ。
たとえば、「いつ、木は二酸化炭素を吸収するの?」と聞かれたら「大きくなる時」と答えられるし、「木はどのぐらいの二酸化炭素を吸収するの?」と聞かれたら「木の大きさの分だけ」と答えれば正しいのだね。
学問を知っておくと、原理原則で考えられるからずいぶん楽になるよ。
(つづく)