ペットボトルのリサイクルは国民をあげての運動だったから、私が「実際は、ペットボトルはリサイクルされていない。リサイクルされている事になっているだけだから、いわばママゴト状態である。」と言ってもなかなか納得が得られないのも頷ける。

 

 日本人は人を信用し、あまり詮索しない。かつて「税金を払ってもその使い道には関心がない」と言われたが、それは日本人への賛辞と思う。為政者が民衆を騙すことが少なかったからだ。

 

 だから、ペットボトルのリサイクルも「きっと、しっかりやってくれているはずだ」と信じて疑わない。第一、リサイクルのために忙しい毎日を分別したり、洗ったりしている人たちですら、国が「リサイクル率」や「何に使われているか」を一度も公表していないとはまったく思っていなかったのである。

 

 実に、ほぼ10年間!

 

 でも、この日本の素晴らしい文化を守っていくためには指導層が「誠」をもって行動しなければならない。仮にも指導層が日本人が信用しているのを逆手にとってはいけないのだ。

 

 ペットボトルのリサイクル率については私が「環境問題ではなぜウソがまかり通るのか」という本で、大げさに言えば「日本初」の数値を出した。それは50万トンのうち、まともにリサイクルされているペットボトルは3万トン程度だという数字である。

 

 ここでは、ペットボトルのリサイクルにどの程度の「資源」「お金」が使われているかについて少し整理をしてみたい。

 

 まず、理論的計算は3つあって、リサイクルをする前の工業的視点からの計算を佐伯康治さんが、資源理論から武田が、そしてリサイクルが始まって数年後に西ヶ谷信雄さんが実績をベースに計算している。それを次の表に示した。

 

リサイクル計算表small.jpg

 

 

 佐伯さんは現場の経験の長い人で、西ヶ谷さんもこの道の専門家だから計算は確実である。私は資源理論だから家庭で分別する労力も含まれていることと、製品になるまでの歩留まりの計算を入れているので、少し倍数が高くなるのも納得できる。

 

 少なくとも、この表だけでも「ペットボトルをリサイクルするとよけいに資源を使う。つまりペットボトルのリサイクルは資源の無駄使いになることははっきりしているから、できるだけ早く止めた方が良いことが判ると思う。

 

 でも世の中は複雑で、「ペットボトルを回収する場合は、運んできたトラックが帰りに運ぶから労力が要らない」という前提で計算している例もあり、そんな計算をすると「資源が節約できる」ということにもなる。御用計算があるから議論がややこしくなる。

 

 そこで、上の表のような細かい議論をした後、大枠でチェックしてみる。このように細かい計算をして、その後に大枠で押さえるのは科学の普通の方法である。自分のやり方が間違っているかも知れないので、それをチェックする。

 

 大枠を押さえるデータの出所は平成173月、国の第27回中央環境審議会の部会である。

 

 それによると、分別収集・選別保管に要した費用がペットボトルのリサイクルでは一年間に440億円、管理部門費を含めた場合は600億円と報告されている。

 

 平成16年度、平成17年度はペットボトルを回収洗浄して細かいサイズに粉砕したものが14万トン程度とされている。これはリサイクル協会などから公表されている数字である。

 

 そこで、リサイクルに掛かった440億円や600億円をこの14万トンで割れば、リサイクルして得られたペットボトルが新品と比較してどの程度かを知ることができる。

 

 600億円を14万トンで割る。まず、数値の部分は600割る1443になる。単位がややこしいが600億円というのは「億」が108乗の桁である。

 

ペットボトルの方は、14万トンだから、まず「万」が104乗、トンとキログラムの差が103乗だからキログラムにすると合計7乗倍になる。分子が108乗で、分母が107乗だから、答えは101乗、つまり10になる。

 

つまり4310だから回収して「再商品化」したリサイクルペットボトルに掛かったコストは、430/kgである。

 

 これに対して、石油から直接、作る場合、ペットボトルの原料ならキログラム200円から300円、マットとかシートにするような安いものなら100円である。残念ながらペットボトルを回収したものはそれほど高級な用途に使えないので、100円がせいぜいである。

 

 430円かけて回収したものが100円の用途にしか使えない?!

 

 でも、それは仕方がない。「ペットボトルをリサイクルしたい」というのは人間の希望であり、「ペットボトルはリサイクルできない」というのは自然の制約である。時として人間の希望はその通りはいかない。その一例でもある。

 

ペットボトルは軽い。使うときには軽いのは便利だが、回収しようとするとトラックにあまり積むことができない。ペットボトルは柔らかく優しい。使うときには良い性質だが、使うと劣化する。また回収されたペットボトルの中に油や農薬などが入っていると、取り除くのが難しい。ペットボトルも油の一種なので分離できないのである。

 

ところでこのホームページにも数回、書いているように「リサイクルしたペットボトルはどのぐらいか?」「何に使われているのか?」は一切、発表されていない。そこで私の研究室で調べたり、計算したりしたところ3万トンぐらいは使われている。

 

600億円かけて3万トンというと、面倒な累乗は止めて直接的に計算すると、60000000000円を30000000kgで割るので、キログラムあたり、2000円になる。

 

 石油から作れば100円ですむものを、2000円で作っていることになる。だからペットボトルのリサイクルは全く無意味なのである。まず第一に100本のペットボトルを国民をあげてリサイクルしても6本分しか有効に使えないし、その6本も20倍近い資源を使うのだから、現状は「リサイクルしていない」と言ってよいだろう。

 

 さらに、ペットボトルのリサイクルは「資源の有効利用、ゴミの減量」であるとすると、20倍も高いコストがかかるものが資源の有効利用やゴミの減量になっているはずはない。

 

 「価格が高くても環境に良ければ」という意見もあるので、念のためにそれもチェックしておく。

 

 すでにペットボトルのリサイクルについてはリサイクルに要するコストの内訳も判っていて、全体を100とすると、そのうち人件費は25%である。人件費もやがて資源を使い、ゴミを出すが議論がややこしくなるので、ここではリサイクルに有利に「人件費は資源の使用にはならない」として計算する。

 

 下のグラフは西ヶ谷さんのもので、キチンと計算されており、固い数字と言う意味で信用できる。

 

ペットボトルリサイクルコスト内訳.jpg

 

 14万トンのリサイクル・ペットボトルを作るのにキログラム430円だから、その75%が資源を使う為に消費されたお金だ。計算すると322円分の資源を使ったことになる。これに対して石油から作るキログラム100円のプラスチックは人件費が10%ぐらいしか使わない。装置産業だからである。

 

 そうすると石油から使った場合の資源をお金で換算すればキログラム90円。リサイクルすると322円分の資源を使う。この2つは同じ計算をしているので直接、比較できる。つまり、ペットボトルをリサイクルすると実績では3.6倍の資源を使うことになる。

 

 おおよそ理論計算と合致する。

 

 そして、資源を使えばゴミも増える。質量保存則があるから物は消えて無くならないので、使った資源はさまざまな形でゴミになる。だからゴミも3.6倍増える。

 

 この3.6倍は14万トン全部が「リサイクルして使われた」という場合であり、事実は3万トン程度なので、キログラムあたり2000円。これに0.75をかけて1500円だから、90円で割ると、実に17倍である。

 

 実際にどの程度がリサイクルされているか不明なので困るが、3万トンから10万トンとしても17倍から6倍の資源を使っている。

 

 容器包装リサイクル法は「資源の節約」を目的としている。法律を持ち出さなくても国民がペットボトルのリサイクルをする理由もそこにある。それが6倍から17倍の資源を使うならまったく意味がない。すぐ止めよう!!

 

 ところで、最近、「燃えるゴミ」にプラスチックも紙も無いので、燃えにくい。場所によっては灯油をかけるところもあるし、また発熱量が低くて利用しにくい。もしペットボトルを燃えるゴミにそのまま混ぜると、処理費用は10分の1以下になる。

 

 市民にとってはペットボトルのリサイクルを止めることは、節税になり、節資源、省ゴミになる。お役人のメンツを立てるために、国民全部が被害を受けなければならない!

 

おわり