― 美しい心・つけ込む心 (1) ―
NHKの番組制作での不祥事に端を発して、NHKの受信料の不払いが増えてきた。今では「本来、支払うべき者」10人の内、3人までが受信料を払っていないと言う。30%が未払いという数字は、NHKも公表し、国会での予算審議でも公的に言われているので正しい数字だろう。
驚くべき数である。実に4000万人の日本人が受信料を払っていない。なぜ、自分が払わなければならないのか!とつい叫びたくなる。本来、日本人というのは「ズルをする」「人の迷惑になる」ということを嫌い、自らが犠牲になってもみんなのためにやるという道徳を持っている。それは諸外国と違い、日本人独自の感覚であり、実に立派だった。
最近では、アメリカの倫理を学ぼうとか、ドイツの環境運動に真似ようという話も多いが、日本の犯罪率や環境の方がアメリカやドイツよりずっと優れている。「自分より悪い人を真似た方が良い」等という変な思想にはかまわないほうが良い。
そうした日本の素晴らしい慣習は、日本人の美しい心が支えている。この心こそが日本の財産であり、絶対に失ってはいけない。だから、NHKの受信料のように法律は曖昧だが、みんなで支えようという時にこそ日本人の美しい心を発揮して受信料を払おうではないか!とまずは呼びかけたい。若干、異論があるが。
ところで、なぜ世界で日本人だけが「美しい心」を持つようになったのだろう。このことを話そうとすると、まず「美しい心を持っているのは、日本人だけではない。君は国粋主義か!」という反論が予想されるので、まずそれを片付けておきたい。
「美しい心」というのはどういう心かと言うのも意見が分かれるだろうが、まずは「犯罪を犯さない」ことだろう。人を殺して「私は心が美しい」と言っても相手にされない。だからまず「犯罪率」を見てみる。下の表は人口10万人当たりの殺人発生率を整理したものである。
世界の主要国で殺人発生率が一番高いのが南アフリカで、人口10万人当たり75. 3人。それと比べると日本は殺人発生率が一番低くて0.62人だから、実に120分の1である。つまり日本で生活をしていると殺人で命を落とす危険性が120分の1になるということだから、実に素晴らしい国に生まれたものである。
タバコを吸うと肺ガンになる、だから喫煙禁止ということになって東京都のある区などは街頭でタバコを吸うと罰金という条例ができたという。タバコを吸うと確かに肺ガンになりやすいが、その危険性は数倍程度である。それから見るとこの120倍というのはすごい数字だ。
南アフリカは特別とすると、日本はアメリカの11分の1、ドイツの2分の1であり、ともかく殺人の恐怖の少ない国だ。そしてもう一つ、比較的犯罪が少ない国が表の下の方に載っていて、人口10万人当たり1. 2人を切る国はオーストリア、ドイツ、ギリシャ、フランス、オランダ、クウェート、ノルウェー、スペイン、そして日本だが、日本以外の国の殺人発生率は少しずつ小さくなっているが、日本のところだけ0.95が0.62と段違いに低い。もう少し頑張れば「世界でもっとも殺人発生率の低い国々に対して、さらに2分の1」と言えるほどである。
日本の犯罪が少ないのは現代に限ったことではない。江戸時代から日本という国は、ペストのような大規模な疫病が蔓延せず、殺人などの犯罪が特別に少なかった。私がよく引用する渡辺京二さんの本にある江戸末期もモースの感想はそれをよく示している。
「鍵を掛けぬ部屋の机の上に、私は小銭を置いたままにするのだが、日本人の子供や召使いは一日に数十回出入りをしても、触っていけないものは決して手を触れぬ。」(モース)
そしてもう一つは「現金書留」である。日本では現金書留でお金を送った場合、それが無事に相手に到着する率は99%以上と言われる。正確な数値はなかなかわかりにくいが生活実感としても「現金書留で送ったけれど届かなかった」という経験をした人は少ないだろう。
日本で生活していると「現金書留が届くのが当たり前」と思ってしまうが、ある外国などは到着率30%のところもあり、「3回送って、1回届けばいいや」という感じになる。でも、日本人の金銭的感覚が潔癖なのは、モースや現金書留の例ばかりではない。
1) 日本の街路においてある「自動販売機」から現金やジュース類などが盗まれることはほとんどない。
2) 海外事務所で日本人がその事務所の責任者でいる場合、売掛金の回収ができないことは希だが、日本人以外では回収不能に陥ることが多い。
3) 日本で「担保を取らない金貸し業」がうまくいくのは、日本人は「借りたものは返さなければならない」と思っているからで、外国では「借りたものは踏み倒して良い」と考えている人が多いことと対照的である。
私はこのような日本独特の文化がどのようにして作り上げられてきたかを長年、調べ、考えてきたが、今、次のように結論している。
「日本人は相手が「美しい心」を持っているときそれに「つけ込む心」は使わない。」
相手が「美しい心」で行動してくるということは多くの場合「無防備」であることを意味している。ここで示した例で言えば、現金書留も「ここにお金があります」と宣言しながら動くのだから無防備であり、「取ろうと思えば取れる」。自動販売機もジュースを入れたカバーは弱いプラスチックで出来ているから「破ろうと思えば破れる。」
でも日本の文化は「してはいけないことは、しない」ということであり、だから無防備なのである。でも、その無防備の弱みをついてそれに「つけ込む人」がいると全体が崩れる。
ずいぶん長くなったが、NHKの受信料についてこれから話を始めたいと思う。受信料の未払い運動はさらに拡大しており、これが続くとNHKは存在できなくなる。そうなると「強制的に受信料を取る」「裁判に訴える」「受信料を税金にする」という方向に行くだろうし、それは「美しい日本文化」をまた一つ捨てることになる。
つづく