― 憲法九条 ―

 

 2005年の選挙で自民党が今まで一度ぐらいしかないような大きな勝ちを収め、自民党と公明党の与党連合が衆議院の議席の3分の2を占めました。それがきっかけとなって、にわかに憲法を改正しようという話が持ち上がってきています。

衆議院の議席数は480で、その3分の2というと320議席です。これに対して選挙の直後の議席配分は自民党が296, 公明党が31で、合計して327もあります。つまり衆議院ではゆうゆう、3分の2の議席を超えているのです。

 「自民党が大勝して与党で3分の2になるとすぐ憲法改正論議が出てくる。ケシカラン!」
と怒る向きもありますが、それは見当はずれと言うものです。

憲法第96条には、
「この憲法の改正は、各議院の総議員の3分の2以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行われる投票において、その過半数の賛成を必要とする。」
とあるのですから、3分の2の議席をとった政党がもし憲法を改正しようと思っていたら、発議をするのが義務のようなもので、それこそ「法に則った行動」だからです。

 もし自民党が憲法を改正すべきだと思っているのだったら、その議論を進め、国民投票をする準備をしてもらわなければなりません。最後は国民が決めるのですから、いつでもOKです。

 ところで、今の日本国憲法ですぐにでも改正しなければならないのは、第九条でしょう。なぜかと言う理由を説明するまでもないのですが、憲法九条には、
「1.日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2.前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。」
と書いてあるからです。

 いくら戦争に負けて、平和を愛するようになったと言っても、この条文はかなり乱暴です。仮にどこかの国が軍隊で攻めてきたり、特殊潜行艇を使って日本国民を拉致しても、占領されるに任せたり、拉致されるのを黙ってみている他はないというのですから、たいした覚悟と言えば覚悟と言えます。

 こんな乱暴な憲法を作ったのは、進駐軍(アメリカ軍)だったからと言うのが普通の解釈ですが、戦後60年、日本国民も「進駐軍が作ったお仕着せ憲法」と言いながら、改正するのを躊躇ってきたのも事実です。

 やはり第二次世界大戦という戦争はあまりにもむごいものでした。全世界の死者は6000万人と言われ、日本も300万人の命を失ったのです。徴兵された一兵卒は突撃の命令と共に命を失いましたが彼らにも妻子がいました。そして多くの子供達もその短い命を落としたのです。

 人間は万物の霊長と言われますが、それは人間が言っていることで、決して「他の動物が人間を尊敬して」言っている言葉ではありません。人間は科学技術で新幹線や携帯電話を作ることはできますが、ほとんどの動物がしない残酷なこと・・・自分と同じ種を殺す・・・を平気でする生き物なのです。

 人類が誕生して以来、戦争の尽きる時はありませんでした。そればかりか、アレキサンダー大王、シーザー、ナポレオン・・・歴史に名を残す「英雄」と言う人たちは戦争が得意だった・・・つまり「大量虐殺の名人」であり、その人を私たちは「英雄」を呼んできたのです。


(イッソスの戦いでペルシャ軍を攻めるアレキサンダー大王)

 日本は強制的だったかも知れませんが、「戦争をしない」ということを憲法に示し、それを60年間、守ってきました。でも日本が「戦争を放棄し、軍隊を持たず、日本国憲法を守っている」と思っているのは日本人だけで、世界の人はそうは思っていません。

 日本の自衛隊という軍隊は、兵力が約20万人、軍事費は5兆円です。この5兆円という軍事費はアメリカを別にするとイギリス、フランスなどとほぼ同じ規模ですから自衛隊は世界的には立派な「日本軍」なのです。

ですから、憲法九条が定める、
「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。」
という条文は反古にされ、我々、日本人は憲法を無視しているのです。

 こんなに明白な憲法違反はありません。それを「法律の番人」とされている最高裁判所も、弁護士会も、最高検察庁も意義を申し立てないのですから不思議です。そして、政府や最高検察庁のように厳密に憲法を守らなくてはならないところが憲法を守らずに、庶民が民法を守らないといって罰するのはどうかと思います。

 人間社会は、「偉い人」が最初に模範をしめさなければ、ダメと私は思います。学校でも先生がだらしなくて生徒にしっかりしろと言ってもなかなか無理で、やはり「見本」というのは大切なことです。

 ところで、最高検察庁が首相や防衛庁長官を「憲法違反」で起訴しないのはなぜでしょうか?おそらく「理解の限界を超える」からだと思います。すでに、防衛費に5兆円も使っているのだから、明らかな憲法違反ですし、それはとりもなおさず国民の税金のムダ使いですから、いろいろな罪状で首相や防衛庁長官を起訴できることは間違いないのです。

 起訴されれば、憲法違反は明白なので、最高裁ですぐ有罪判決を出せるでしょう。

 でも、この不思議な現象の中に「日本文化」の秘密があると私は思うのです。日本人全体が「日本国憲法を破り、そして法治国家と言っている」ところに日本の繁栄の秘密がある、それはなにかがこのシリーズのテーマです。

つづく