(地球温暖化の一回目。我々は故意に夏は暑く、冬は寒いデザインをしていることを書いた。)
1.1.1. 地球温暖化
地球は温暖化しつつあり、その影響で気温が上がると北極や南極の氷が溶けて海水面が上がり、我々は沈没する・・・と言われている。全部、科学的な根拠のない作り話である。いわば、中世のヨーロッパで流行した「魔女狩り」と同質だ。
かつてヨーロッパ中世では何か社会に不都合なことがあると、その腹いせに「スケープゴート」を作って滅ぼし、それで気を晴らすという風習があった。その一つが「魔女狩り」である。疫病がはやったり天候が不順になったりというようなことがあると、「これは魔女の陰謀だ!」という事になり、そこら辺にいるおばさんを捕まえて、たとえば湖に連れて行って投げ込む。普通の人間なら沈むはずだが、たまたまその女性が泳げる場合には浮いてくる。「やっぱりあれは魔女だ」ということになって街頭で縛り首にするという訳である。
実に滑稽なことだが、これと同じことが現代の日本で起こるのだから人間社会とは面白いものである。
最近、大都会でほとんど土を見ることはできず、すべての土は舗装されている。また家々も庭が無くなり、コンクリートで作られたビルが林立する。このような環境では「潜熱が出入りしない」ことによって気温の上がり下がりが大きくなる。「潜熱が出入りしない」というのは難しい表現だが、簡単に言うと「水を吸収したり、蒸発したりしない住空間」ということになる。
それでは、そのような住空間が「水を吸収したり、蒸発したりする住空間」とどの程度違うのか、計算をしてみよう。建築やインテリア、エクステリアをデザインする上で、「潜熱」はとても重要なことなので、しっかり頭に入れておいて欲しい。
まず、計算に使う数値だが、次の2つを使う。
1キログラムのコンクリートを1℃温度を上げるのに、2キロジュールの熱が必要。
1キログラムの水を30℃付近で蒸発させるのに、2200キロジュールの熱が必要
デザインに興味のある学生は物理や数学が不得意な人が多いが、計算は普段の買い物ぐらいに簡単だから、覚えよう。一生使える。
夏の暑い日、コンクリートに焼け付くような太陽が照りつけて、コンクリートの温度が30℃から40℃に上がったとしよう。コンクリートは1キログラムあたり、1℃上がるのに2キロジュールの熱が必要だから、10℃上がったと言うことは、コンクリート1キログラムあたり20キロジュールの太陽の熱がやってきたことになる。これを「顕熱」という。熱がかかると実際に温度が上がるからよくわかる。これを「顕れる(あらわれる)熱」という意味で顕熱という。
そのコンクリートの横に、散水をしたので水をタップリ含んだ土があったとする。その土は70%ぐらいの水分を含んでいて、それが太陽の熱で蒸発したとする。この水を含んだ土、1キログラムはどのぐらい温度が上がるだろうか?
水1キログラムを蒸発させるのに、2200キロジュールが必要だから、コンクリートを30℃から40℃に上げるのに必要な20キロジュールと同じ熱では土から9グラムほどの水が蒸発する。それで終わり。つまり、濡れた土1キログラムには700グラムの水が含まれているから、そのおよそ1.3%が蒸発するだけで、温度は上がらない。
コンクリートが30℃から40℃へ、10℃も上がるような灼熱の太陽の中で、水を含んだ土ならその土に含まれる水分の1.3%が蒸発するだけで温度が上がらないというのだから「潜熱」とはたいしたものである。実際には、水が蒸発する時に少しは土の温度も上がるのだが、そんな細かいことより本質的な数字を掴んでおく方がデザインには役に立つ。
かつて、人間が住んでいる回りには、土、樹木、川、田んぼのように「水を含んだ環境」が拡がっていた。そのような環境では外部から熱がかかっても水が蒸発し、冷えてくれば氷ができて、そのたびに「潜熱」で調整される。だから快適だった。それに比べて現代の住環境は酷いものである。
【データ:1キログラムあたり】
潜熱・・・水が蒸発する時 2200キロジュール
水が凍る時 320キロジュール
顕熱・・・およそ 2キロジュール
一旦、住環境が酷くなると、その酷い状態を認めて「少しはまし」という方向に進む。それが「コンクリートは熱容量が大きいので快適です」という言い方である。間違ってはいない。木材を使用した住宅に比較するとコンクリートは熱容量が大きい。特にコンクリートは重く、木材は軽いので、「キログラムあたり」という言い方をするとさらにコンクリートの有利さを強調することができる。
本来、住宅は「住む人のもの」だから、木材を使うかコンクリートにするかをお客さんが迷っていたら、「コンクリートはキログラムあたりの熱容量は大きいのですが、重たいから体積あたりにすると変わりません」ぐらいのことは優しく解説するのが良いが、実際には「売りたい」というのが先行してあまり正直には言っていないようだ。
でも木材とコンクリートを比較するぐらいなら、水の潜熱を利用する住宅を造ったら感謝される。温度の上がり下がりが大きそうな木材で立てられているのに、なぜか夏は涼しく、冬は暖かい。その秘密は住宅のあちこちに配置されている「水」だ。温度が上がったら水が蒸発して熱を奪ってくれる。そして寒い冬の朝には手水に氷が張り、土に霜柱が立って寒気を和らげる。
そんな配慮のある家に住みたいものである。
つづく