ダイオキシンの第二の疑問に進みます。
それは「ダイオキシンの毒性実験ではどういうデータが出ているか?」ということです。まず、全体的に次のような状況でした。
ダイオキシンが人工的に合成できるようになったのが1872年でしたが、奇しくもそのちょうど100年目の年、1972年、モルモットに対する強い毒性が観測されました。普通、毒性というのはそれを投与した動物の半数が死ぬ濃度で示すのですが(LD50)、その値がモルモットでは体重1キログラムあたりダイオキシン1マイクログラムという結果でした。
猛毒です。そこで「ダイオキシンは猛毒だ」と報告されました。この報告は間違ってはおりませんでした。合成されてから100年間、毒性が知られていなかった珍しい化合物、ダイオキシンの毒性が知られてから、膨大な動物実験が行われました。
その結果、次のような結論が得られたのです。
1) 急性では死なないが、数週間以内に体力を消耗して死に至る傾向がある。
2) 毒性は生物の種類によって大きく違う。
3) 免疫系、生殖系、胃腸系、皮膚、肝臓、腎臓に影響がある。
4) 特定の蛋白の合成が早まったり、皮膚の細胞の増殖などが見られる。
5) 発ガン性は直接的ではなく、何か別の要因で発ガンしそうな時にそれを加速する。
6) 体内に「レセプター(受容体)」があり、これと結合する。
実験に使われた動物は、モルモット、ラット、マウスなどを中心に他の動物も実験されています。全体像を示してから個別の例を少し紹介します。まず、最初のきっかけになったのはモルモットで、モルモットに関してはダイオキシンが青酸ナトリウムの6万4000倍の毒性を持つという実験値が得られています。
でも動物の種類によって毒性がかなり違い、ハムスターではモルモットの5000分の1の毒性を示しました。このように動物の種類によって毒性が大きく異なることが混乱に拍車を掛けたこと、それに加えて青酸カリウムや青酸ナトリウムのように呼吸が止まるというような症状ではなく、全身が衰弱して行くという症状であることも判断を難しくしたようです。
一般的には「毒」というと十把一絡げですが、専門的には毒性のタイプごとに調べていきます。ダイオキシンの免疫毒性では「胸腺の萎縮」が問題になりますが、モルモット、ラット、マウスでそれぞれ毒性が認められています。直接的には、体重1キログラムあたり0.1マイクログラムを投与したマウスをインフルエンザにかけると致命率(インフルエンザで死ぬ率)が2倍に増えるというデータがあります。
生殖毒性ではマウス、ラットの他にウサギやアカゲザルで実験されていますが、ウサギでは流産や胎児死が増加し、アカゲザルでは投与量によりますが生殖能力の低下が観測されています。
発ガン性は一般に言われているのとは大きく違い、最初に観測されたのは1997年のvan Millerが最初でオスのラットに95週間(約2年)の間、体重1kgに2マイクログラムを与えると肝臓、胆嚢、肺などに腫瘍が認められています。
マスコミでは1997年以前に「ダイオキシンは発ガン性があり、子孫に影響を与える」と報道されていましたが、それはデータに基づくものではありませんでした。
総じて、まとめると、
「ダイオキシンは一部の動物に毒物として作用する」
ということができます。このことを直ちに「人間は注意するべきか」ということに結びつけるのは危険です。
ある動物に強い毒性を示すが人間には無害であるというものも多いですし、反対に、サリドマイドのように動物で無害だから人間も同じと考えて大きな間違いを起こした例も有ります。動物は動物、人間は人間と考えなければなりません。
ダイオキシンの毒性についてまとめるだけで大変なのですが、少し脱線したくなりました。
原子力関係で放射線の影響を見るために「メガマウス計画」というのがありました。強い放射線で人体や生物に影響があることは判っているのですが、弱い放射線が生物にどのような影響があるかを明らかにするのはなかなか難しく、その限界などを決めるのが困難でした。
そこで、弱い放射線が生物に与える影響を調べるために、100万匹のマウスを使った実験が計画されたのです。それをメガマウス計画と言いました。
動物実験とは実に悲惨なものです。たとえば、この場合は弱い放射線を死ぬまで当てて、ゆっくり死んでいくのを観察するということになるのです。「マウスの命など関係ない。人間様が大切だ」という意見に押されて、このような動物実験が多く行われます。
実に、マウス100万匹の殺戮!なのです。
それで得られた結論はたった一本のグラフの線でした。もともと強い放射線が人体にどのような影響を及ぼすのかが判っているのですから、それを弱い放射線まで引いて「不完全ですが、動物を100万匹も殺すよりこれで我慢してください」と言えばよいと私は思います。
可愛そうに・・・マウス・・・
つづく