2 燃焼状態の測定
2.2 UL試験方法と関連測定
燃焼試験はUL(Underwriter Laboratories Inc.)耐炎性試験規格UL-94が最も標準的なものである。図 1.2 1に垂直燃焼試験に於ける試料、ガスバーナー、炎の規格の外観を示す。試験片形状は、図 1.2 2に示すように幅12.7mm (0.5inch) 、長さ127mm (5inch) 、厚さ3.18mm (0.125inch) 、の短冊試験片で行う。
図 1.2 1 UL規格実験装置
図 1.2 2 UL-94短冊試験片
垂直燃焼試験は、クランプのあるリングスタンド、工業用グレードのメタンガス、ストップウォッチを用意し、通風のないチェンバ内で行い、ガスバーナーは試験片から離して添加し、黄色のチップのない青色炎の高さを19.5mm (3/4inch)に調整する。試験炎を試験片の下端の中央に5秒間当てて取り去り、152.4mm (6inch) 以上離し、試験片の第一接炎時のflaming時間を記録する。試験片のflaming時間がやんだらすぐに試験炎を5秒間当てて取り去り、第二接炎時のflaming時間を記録する。試験片に接炎中に溶けて滴下し、または炎のある滴下をするものは、バーナチューブに滴下物が入るのを防ぐためにバーナを45度まで傾け、または試験片の12.7mm (1/2inch) の面から少しずらせる 。垂直燃焼試験は普通5つの試料を用意し、第一接炎時、第二接炎時のflaming時間それぞれの最大値と最小値を除いた3つのflaming時間の平均を試料のflaming時間とするのが普通である。UL試験は直接試料を燃焼させるし、燃焼時間もあまり一定の結果を得られない。そのため比較的実学的な方法と考えられている。勿論、燃焼秒数は難燃性を決定する上で大変役に立つし、その上燃焼の状態をつぶさに観測することも出来る。燃焼中の材料表面温度、材料表面の様子、炭化層の形成過程、そして途中で燃焼を止めればその時の試料の構造も測定可能である。この様にUL試験は次に述べる酸素指数より多くの情報を与えてくれる。
2.3 酸素指数測定
1966年Fenimore と Martin は新しい難燃材料の評価方法を考え出した。それまでは「燃える、燃えない」という定性的な評価をしていたのでどうしてもデータの整理に不便であった。そこでFenimoreらは酸素の濃度を変化させたセルの中で材料を燃焼させ、燃焼が持続する最低の酸素濃度を測定し、その酸素濃度をその材料の「酸素指数」とした。予想されたようにポリオキシメチレン、アクリル樹脂、ポリプロピレン等は燃え易く、17%以下の酸素濃度で燃焼している。これに対して、ポリカーボネイトやポリフェニレンエーテルは27-29%の酸素濃度にならないと燃えない。それまでの定性的な燃焼のデータとも良くあっている。この測定の中でそれまでにあまり注目されていなかったデーターがあった。それが表の下から2番目の "Carbon" である。日常的に経験するように炭素というのは燃料の代表的なものであり、燃えやすいものとして考えられている。しかし酸素指数では65%と求められた。Carbonは燃え難いのである。この研究結果が新しい難燃材料の研究のきっかけになり、有機材料表面に「炭素の層(チャー)」を形成させる方法が生まれた。酸素指数という難燃の評価方法の研究が新しい難燃剤の領域を開いたように、今後も新規な測定方法や解析方法が難燃材料の研究に寄与すると考えられる。酸素指数の測定方法の改良も活発である。
2.4 コーンカロリメータ
2.4.1 歴史と原理
Thorntonの発見が燃焼装置に応用されるには,発見から65年を要した。その間,燃焼時に発生する熱を正確に測定しようとする試みは数多く行われたが,そのいずれも良い結果をもたらさなかった。アメリカのNational Bureau of Standard(アメリカ内務省の標準局)で,物理定数の測定や基準の作成に世界的に貢献したHuggettとParkerはThorntonの実験を詳細に確認し,ほとんどの有機材料の燃焼において,Thornton数は,13.1kJ/gであり,その誤差は5%に過ぎないことを明らかにした。1982年にBabrauskasがHuggettとParkerの研究を応用し,燃焼時の熱量測定装置を開発し,コーンカロリメータをして完成した。その後,様々な改良が施され,現在の完成されたコーンカロリメータとして一般的に用いられるようになった。
2.4.2 装置の概要
コーンカロリメータは熱速度測定する装置である。コーンカロリメータ(ATLAS社製CONE2)の外観図を図 1.4 1に示した。
図 1.4 1 コーンカロリメータ (Atlas Cone2, 東洋精機提供)
図 1.4 2 コーンカロリメータのセル
図 1.4 3 コーンカロリメータの概要
コーンカロリメータは試料を均一に加熱するために円錐型のヒータを使用し、試料は試験中その質量を常時測定するロードセル上に置かれ、高電圧を使って点火される。点火後燃焼ガスは密閉システム内をある特定速度で流れ、分析の為に収集される。煙道内で、レーザー測定器を使い煙り濃度を測定する。試験中得られた各パラメーター用データはコンピューターによって処理される。材料の安全性の予測は酸素消費量測定法を使って行われる。酸素消費量測定法とは物が燃焼するとき消費する酸素1kg当たり13.1MJのエネルギー放出によっている。コーンカロリメータでは燃焼ガスの酸素濃度と流速を高精度に測定し、酸素消費量から熱放出量を算出する。
2.4.3 典型的な測定結果
表 1.4 1 コーンカロリメータのパラメータ単位と略字
コーンカロリメータでの最も基本的なグラフは,ヒートフラックスとRHR曲線である。同じ有機材料を用いてヒートフラックスを変化させると図 1.4 4に示したようにヒートフラックスが大きい程速く着火して,RHR曲線の極大値(PkRHR)は大きくなる。
図 1.4 4 PVC の発熱量(輻射熱 20kW/m2(+),
30kW/m2(■)、40kW/m2(○)、50kW/m2(△))
図 1.4 5 PANホモポリマーの発熱速度50kW/m2での各厚さの影響
サンプルの形状と燃焼という観点からは、規格を作るときに研究されているが、難燃性という化学的見地からはまだあまり研究されていないのが現状である。図 1.4 5はサンプルの厚みとRHRを示したグラフであるが、サンプルの厚みが厚くなると燃焼の速度が低下し、より長く燃焼していることが判る。この様なデーターは今後薄いフィルムで行うことにより、表面状態を観測することができるであろう。
2.4.4 従来の難燃指標との関係
理論のところに従来の難燃指標との関係についての理論計算の結果を示した。理論的にある程度の相関性が認められるのは当然である。コーンカロリメーターは特定の条件下での燃焼発熱を測定するものであり,雰囲気ガスと燃焼速度には明らかな関係があるからである。
図 1.4 6 酸素指数に対する発熱ピークの関係
2.5 熱分解カロリメータ
燃焼反応が熱分解と気相における燃焼が直列的に起こるなら、熱分解炉と燃焼炉を直列にした装置も有効である。これが熱分解カロリメータである。
図 1.5 1 熱分解―燃焼タイプのカロリメータ
図 1.5 2 熱分解―燃焼装置の接続図
この装置での測定ではコーンカロリメーターと同様に発熱量HRRが良好に観測できる。
図 1.5 3 熱分解―燃焼装置で測定した発熱量
この装置が実際の難燃性測定に役立つかどうかは、コーンカロリメーターの測定値とどのような関係になるかということであるが、第一章に示したように良い相関が見られる。
2.6 ホットサーモカップル法によるin vivo燃焼観測
燃焼現象は表面状態を含めて複雑な反応なので酸素指数などの測定では結果は分かるが、それからの発展性に乏しい。どうしても実際にどういう過程を経て燃焼しているのかを観測することが大切である。その一つが材料表面の温度の測定であり、別の方法としてin vivoの燃焼観測の方法を紹介する。
本装置は、無機、有機材料を問わず燃焼や溶融挙動を直接観察できるものである。原理は、交流電流の半波をリレーでカットし、熱伝対(Pt-Pt・Rh13%)に流し、熱伝対をヒーターとして使用するものである。本実験では、0.3mm径の熱伝対、もしくは白金円盤の下部に同上の熱伝対を溶接したものを用いた。概略図を図 1.6 1に示す。試料重量は数mgである。今回の実験では手動制御で150C/minで昇温した。昇温時の様子は、高感度CCDカメラを通し録画を行った。熱伝対部分は石英セルでカバーされているので、雰囲気の調整も可能で、今回は大気中と純酸素雰囲気中で流量を10cc/minとした。本装置は、簡便でプラスチックの燃焼・溶融挙動を直接観察できる。定性的ではあるが、難燃メカニズムの推定に有効であり、他の装置と併用することで難燃の研究に非常に効果であると考えられる。ただ、熱容量が小さいために試料の真の温度を正確に知るのは困難であり、定量的な実験には不向きある。
図 1.6 1 サーモカップルの概略
ホットサーモカップル法では直接的に高分子の分解過程と表面の膜形成の状態が判る。火源を用いて燃焼させることもできるが、今回は着火させずに加温して分解状況を確認した。PSは90℃程度から軟化が観測され、450℃付近で完全に消失した。
図 1.6 2 サーモカップル法によるPPEの燃焼挙動
PPEは表面に堅い膜を形成し、800℃まで昇温しても残査が残った。しかし溶融後400℃以上でも樹脂全体はかなりしっかりした構造をとっており、これがPPEの燃焼過程で安定した発熱速度を有している原因と推定される。
図 1.6 3 サーモカップル法によるPCの燃焼挙動
これに対して、PCでは残査の量や分解温度はPPEと基本的には変化がないものの、分解時に表面に形成される膜は柔軟で収縮性に富む。高温でできる膜の柔軟性があることから、架橋をともなう高分子反応ではないことが推定される。PPEとPCの熱分解時の状況を図 1.6 2,図 1.6 3に示した。
2.7 熱重量減少による難燃性測定(燃焼基礎実験の1)
難燃研究において相変わらず熱重量分析の重要性は代わらない。熱重量分析が重要であるのは、
1) 難燃性自体が高分子の熱分解で決まる要素が強い。
2) 使用する難燃剤の熱分解の温度が成形性、難燃性に大きな影響を与える
からである。熱重量分析は最もよく使用される機器なのであえて示す必要も無いかもしれないが、標準的な機器を下に示す。熱重量分析を酸素中で行うと、ほとんどの高分子は500℃以下で分解し、残査も認められない。燃焼は酸素下で進むことから難燃の研究でも酸素中での熱分解のデータが出ることもあるが、特殊な場合を除いて、燃焼は不活性ガス中での熱分解である。
図 1.7 1 PSの熱重量分析結果(昇温40℃/min,N2 50ml/min)
従って燃焼反応の解析にはむしろ不活性ガス中での分解反応を観測するべきであり、窒素中でのポリスチレンとポリフェニレンエーテルの熱分解反応を比較すると、ポリスチレンでは窒素中でも完全に分解するに対して、ポリフェニレンエーテルでは30%程度の炭化物残査を生じる。実際にサンプルを燃焼させてもポリフェニレンエーテルの場合には炭化物残査が30%程度になる。
図 1.7 2 PPEの熱重量分析(昇温40℃/min,N2 50ml/min)
2.8 熱分解物の測定による難燃性の実験
更に熱分解の研究を進めるということになると、様々な熱分解方法によって高分子を分解させ、それをガスクロマトグラフィーや質量分析計で測定することになる。一般的な分解装置はメーカーのカタログなどを参照して頂くにして、ここでは特徴ある熱分解方法としてキュリーポイント・パイロライザーを挙げる。この方法は磁気の性質を利用して一気に高温を出す方法で、昇温速度は次の図に示すように普通の熱分解炉に対して圧倒的に大きい。一般的な機器なのでここでは挙げないが、熱分解―ガスマスが良い解析方法の一つであろう。既に熱分解と燃焼の関係が明らかで、酸素消費量との関係が明白であるから分解生成物の全体を解析できれば全ての熱は計算ででると考えられるからである。
2.8.1 発煙性の実験装置
着火性、燃焼継続性と並んで発煙性も重要な測定項目であるが、日本ではまだ測定例も少ない。
図 1.8 1 アメリカNBSの標準的方法
図 1.8 1はアメリカNBSの標準的発煙測定方法である。チャンバーの中でサンプルに伝熱の輻射熱を当て、6本のチューブバーナーで着火し、サンプルを燃焼させ、部屋の中の光路が光で遮られるのを観測してそれを記録する方式である。
図 1.8 2 Arapahoe Smoke Tester
この様な光をどの程度遮るか、と言う方法の他に、サンプルを燃焼させ、その煙を直接観測する方法も採られる。
参考文献
1) 西沢仁 : ポリマーの難燃化 , 大成社 , pp.28-29 , (1992)
2) Bates,S.C. and Solomon,P.R., J.Fire Science, Vol.11, May, pp.271-284 (1993)
3) Redfern,J.P., Int.J.Materials and Product Technology, Vol.5, No.4, pp.349-366 (1990)
4) Goff,L.J., Polymer Engineering Science, Vol.33, No.8, pp.497-500 (1993)
5) Bourbigot,S., LeBras,M. and Delobel,R., J.Fire Sciences, Vol.13, Jan., pp.3-22 (1995)
6) Zhang,J., Silcock,W.H. and Shields,T.J., J.Fire Sciences, Vol.13, Mar., pp.141-161 (1995)
7) Leslie J.Goff:Polymer Engineering Science Vol.33 , No.8,(1993),497-500
8) J.S.Pisipati and W.J.Eicher :Joural of Reinforced Plastics and Composites, Vol13, (1994)
9) J. Zhang , G. W. H. Silcock : Joural of Fire Sciences, Vol, 13 ,(1995)141-161
10) S. Bourbigot, M, Le Bras and R. Delobel : Joural of Fire Sciences, Vol, 13 ,(1995)3-22
11) M. Robert Christy, Ronald V. Petrella , and John J. Penkala : Fire and Polymers Chapter 31(1995)498-517
12) M. I. Nelson, J. Brindley and A. Mcintosh : Combust. Sci. and Tech, Vol. 104(1995)33-54
13) J. S. Pisipati and W. J. Eicher : Journal of Reinforced Plastics and Composites , Vol. 13 (1994)1071-1099
14) John P. Redfern : Int. J. of Materials and Product Technology , Vol. 5, no. 4 ,(1990)349-366
15) Takashi kashwagi, Atsumi Omori and Thomas G. Cleary : Flame Retardancy Polym. Mater , Vol. 3(1992)30-52
16)Hugget, C., "Estimation of the rate of heat release by means of oxygen consumption", Journal of Fire and Flammability, Vol.12, (1980)
17) Parker, W.J., "Calculation of the heat release rate by oxygen consumption for various applications", Journal of Fire Sciences., Vol.2, pp.380-395 (1984)
18) Babrauskas, V., "Development of the Cone Calorimeter-A bench-scale rate of heat release apparatus based on oxygen consumption", NBS-IR, 82-2611 (1982)
2.2 UL試験方法と関連測定
燃焼試験はUL(Underwriter Laboratories Inc.)耐炎性試験規格UL-94が最も標準的なものである。図 1.2 1に垂直燃焼試験に於ける試料、ガスバーナー、炎の規格の外観を示す。試験片形状は、図 1.2 2に示すように幅12.7mm (0.5inch) 、長さ127mm (5inch) 、厚さ3.18mm (0.125inch) 、の短冊試験片で行う。


垂直燃焼試験は、クランプのあるリングスタンド、工業用グレードのメタンガス、ストップウォッチを用意し、通風のないチェンバ内で行い、ガスバーナーは試験片から離して添加し、黄色のチップのない青色炎の高さを19.5mm (3/4inch)に調整する。試験炎を試験片の下端の中央に5秒間当てて取り去り、152.4mm (6inch) 以上離し、試験片の第一接炎時のflaming時間を記録する。試験片のflaming時間がやんだらすぐに試験炎を5秒間当てて取り去り、第二接炎時のflaming時間を記録する。試験片に接炎中に溶けて滴下し、または炎のある滴下をするものは、バーナチューブに滴下物が入るのを防ぐためにバーナを45度まで傾け、または試験片の12.7mm (1/2inch) の面から少しずらせる 。垂直燃焼試験は普通5つの試料を用意し、第一接炎時、第二接炎時のflaming時間それぞれの最大値と最小値を除いた3つのflaming時間の平均を試料のflaming時間とするのが普通である。UL試験は直接試料を燃焼させるし、燃焼時間もあまり一定の結果を得られない。そのため比較的実学的な方法と考えられている。勿論、燃焼秒数は難燃性を決定する上で大変役に立つし、その上燃焼の状態をつぶさに観測することも出来る。燃焼中の材料表面温度、材料表面の様子、炭化層の形成過程、そして途中で燃焼を止めればその時の試料の構造も測定可能である。この様にUL試験は次に述べる酸素指数より多くの情報を与えてくれる。
2.3 酸素指数測定
1966年Fenimore と Martin は新しい難燃材料の評価方法を考え出した。それまでは「燃える、燃えない」という定性的な評価をしていたのでどうしてもデータの整理に不便であった。そこでFenimoreらは酸素の濃度を変化させたセルの中で材料を燃焼させ、燃焼が持続する最低の酸素濃度を測定し、その酸素濃度をその材料の「酸素指数」とした。予想されたようにポリオキシメチレン、アクリル樹脂、ポリプロピレン等は燃え易く、17%以下の酸素濃度で燃焼している。これに対して、ポリカーボネイトやポリフェニレンエーテルは27-29%の酸素濃度にならないと燃えない。それまでの定性的な燃焼のデータとも良くあっている。この測定の中でそれまでにあまり注目されていなかったデーターがあった。それが表の下から2番目の "Carbon" である。日常的に経験するように炭素というのは燃料の代表的なものであり、燃えやすいものとして考えられている。しかし酸素指数では65%と求められた。Carbonは燃え難いのである。この研究結果が新しい難燃材料の研究のきっかけになり、有機材料表面に「炭素の層(チャー)」を形成させる方法が生まれた。酸素指数という難燃の評価方法の研究が新しい難燃剤の領域を開いたように、今後も新規な測定方法や解析方法が難燃材料の研究に寄与すると考えられる。酸素指数の測定方法の改良も活発である。
2.4 コーンカロリメータ
2.4.1 歴史と原理
Thorntonの発見が燃焼装置に応用されるには,発見から65年を要した。その間,燃焼時に発生する熱を正確に測定しようとする試みは数多く行われたが,そのいずれも良い結果をもたらさなかった。アメリカのNational Bureau of Standard(アメリカ内務省の標準局)で,物理定数の測定や基準の作成に世界的に貢献したHuggettとParkerはThorntonの実験を詳細に確認し,ほとんどの有機材料の燃焼において,Thornton数は,13.1kJ/gであり,その誤差は5%に過ぎないことを明らかにした。1982年にBabrauskasがHuggettとParkerの研究を応用し,燃焼時の熱量測定装置を開発し,コーンカロリメータをして完成した。その後,様々な改良が施され,現在の完成されたコーンカロリメータとして一般的に用いられるようになった。
2.4.2 装置の概要
コーンカロリメータは熱速度測定する装置である。コーンカロリメータ(ATLAS社製CONE2)の外観図を図 1.4 1に示した。



コーンカロリメータは試料を均一に加熱するために円錐型のヒータを使用し、試料は試験中その質量を常時測定するロードセル上に置かれ、高電圧を使って点火される。点火後燃焼ガスは密閉システム内をある特定速度で流れ、分析の為に収集される。煙道内で、レーザー測定器を使い煙り濃度を測定する。試験中得られた各パラメーター用データはコンピューターによって処理される。材料の安全性の予測は酸素消費量測定法を使って行われる。酸素消費量測定法とは物が燃焼するとき消費する酸素1kg当たり13.1MJのエネルギー放出によっている。コーンカロリメータでは燃焼ガスの酸素濃度と流速を高精度に測定し、酸素消費量から熱放出量を算出する。
2.4.3 典型的な測定結果

コーンカロリメータでの最も基本的なグラフは,ヒートフラックスとRHR曲線である。同じ有機材料を用いてヒートフラックスを変化させると図 1.4 4に示したようにヒートフラックスが大きい程速く着火して,RHR曲線の極大値(PkRHR)は大きくなる。


サンプルの形状と燃焼という観点からは、規格を作るときに研究されているが、難燃性という化学的見地からはまだあまり研究されていないのが現状である。図 1.4 5はサンプルの厚みとRHRを示したグラフであるが、サンプルの厚みが厚くなると燃焼の速度が低下し、より長く燃焼していることが判る。この様なデーターは今後薄いフィルムで行うことにより、表面状態を観測することができるであろう。
2.4.4 従来の難燃指標との関係
理論のところに従来の難燃指標との関係についての理論計算の結果を示した。理論的にある程度の相関性が認められるのは当然である。コーンカロリメーターは特定の条件下での燃焼発熱を測定するものであり,雰囲気ガスと燃焼速度には明らかな関係があるからである。

2.5 熱分解カロリメータ
燃焼反応が熱分解と気相における燃焼が直列的に起こるなら、熱分解炉と燃焼炉を直列にした装置も有効である。これが熱分解カロリメータである。


この装置での測定ではコーンカロリメーターと同様に発熱量HRRが良好に観測できる。

この装置が実際の難燃性測定に役立つかどうかは、コーンカロリメーターの測定値とどのような関係になるかということであるが、第一章に示したように良い相関が見られる。
2.6 ホットサーモカップル法によるin vivo燃焼観測
燃焼現象は表面状態を含めて複雑な反応なので酸素指数などの測定では結果は分かるが、それからの発展性に乏しい。どうしても実際にどういう過程を経て燃焼しているのかを観測することが大切である。その一つが材料表面の温度の測定であり、別の方法としてin vivoの燃焼観測の方法を紹介する。
本装置は、無機、有機材料を問わず燃焼や溶融挙動を直接観察できるものである。原理は、交流電流の半波をリレーでカットし、熱伝対(Pt-Pt・Rh13%)に流し、熱伝対をヒーターとして使用するものである。本実験では、0.3mm径の熱伝対、もしくは白金円盤の下部に同上の熱伝対を溶接したものを用いた。概略図を図 1.6 1に示す。試料重量は数mgである。今回の実験では手動制御で150C/minで昇温した。昇温時の様子は、高感度CCDカメラを通し録画を行った。熱伝対部分は石英セルでカバーされているので、雰囲気の調整も可能で、今回は大気中と純酸素雰囲気中で流量を10cc/minとした。本装置は、簡便でプラスチックの燃焼・溶融挙動を直接観察できる。定性的ではあるが、難燃メカニズムの推定に有効であり、他の装置と併用することで難燃の研究に非常に効果であると考えられる。ただ、熱容量が小さいために試料の真の温度を正確に知るのは困難であり、定量的な実験には不向きある。

ホットサーモカップル法では直接的に高分子の分解過程と表面の膜形成の状態が判る。火源を用いて燃焼させることもできるが、今回は着火させずに加温して分解状況を確認した。PSは90℃程度から軟化が観測され、450℃付近で完全に消失した。

PPEは表面に堅い膜を形成し、800℃まで昇温しても残査が残った。しかし溶融後400℃以上でも樹脂全体はかなりしっかりした構造をとっており、これがPPEの燃焼過程で安定した発熱速度を有している原因と推定される。

これに対して、PCでは残査の量や分解温度はPPEと基本的には変化がないものの、分解時に表面に形成される膜は柔軟で収縮性に富む。高温でできる膜の柔軟性があることから、架橋をともなう高分子反応ではないことが推定される。PPEとPCの熱分解時の状況を図 1.6 2,図 1.6 3に示した。
2.7 熱重量減少による難燃性測定(燃焼基礎実験の1)
難燃研究において相変わらず熱重量分析の重要性は代わらない。熱重量分析が重要であるのは、
1) 難燃性自体が高分子の熱分解で決まる要素が強い。
2) 使用する難燃剤の熱分解の温度が成形性、難燃性に大きな影響を与える
からである。熱重量分析は最もよく使用される機器なのであえて示す必要も無いかもしれないが、標準的な機器を下に示す。熱重量分析を酸素中で行うと、ほとんどの高分子は500℃以下で分解し、残査も認められない。燃焼は酸素下で進むことから難燃の研究でも酸素中での熱分解のデータが出ることもあるが、特殊な場合を除いて、燃焼は不活性ガス中での熱分解である。

従って燃焼反応の解析にはむしろ不活性ガス中での分解反応を観測するべきであり、窒素中でのポリスチレンとポリフェニレンエーテルの熱分解反応を比較すると、ポリスチレンでは窒素中でも完全に分解するに対して、ポリフェニレンエーテルでは30%程度の炭化物残査を生じる。実際にサンプルを燃焼させてもポリフェニレンエーテルの場合には炭化物残査が30%程度になる。

2.8 熱分解物の測定による難燃性の実験
更に熱分解の研究を進めるということになると、様々な熱分解方法によって高分子を分解させ、それをガスクロマトグラフィーや質量分析計で測定することになる。一般的な分解装置はメーカーのカタログなどを参照して頂くにして、ここでは特徴ある熱分解方法としてキュリーポイント・パイロライザーを挙げる。この方法は磁気の性質を利用して一気に高温を出す方法で、昇温速度は次の図に示すように普通の熱分解炉に対して圧倒的に大きい。一般的な機器なのでここでは挙げないが、熱分解―ガスマスが良い解析方法の一つであろう。既に熱分解と燃焼の関係が明らかで、酸素消費量との関係が明白であるから分解生成物の全体を解析できれば全ての熱は計算ででると考えられるからである。
2.8.1 発煙性の実験装置
着火性、燃焼継続性と並んで発煙性も重要な測定項目であるが、日本ではまだ測定例も少ない。

図 1.8 1はアメリカNBSの標準的発煙測定方法である。チャンバーの中でサンプルに伝熱の輻射熱を当て、6本のチューブバーナーで着火し、サンプルを燃焼させ、部屋の中の光路が光で遮られるのを観測してそれを記録する方式である。

この様な光をどの程度遮るか、と言う方法の他に、サンプルを燃焼させ、その煙を直接観測する方法も採られる。
参考文献
1) 西沢仁 : ポリマーの難燃化 , 大成社 , pp.28-29 , (1992)
2) Bates,S.C. and Solomon,P.R., J.Fire Science, Vol.11, May, pp.271-284 (1993)
3) Redfern,J.P., Int.J.Materials and Product Technology, Vol.5, No.4, pp.349-366 (1990)
4) Goff,L.J., Polymer Engineering Science, Vol.33, No.8, pp.497-500 (1993)
5) Bourbigot,S., LeBras,M. and Delobel,R., J.Fire Sciences, Vol.13, Jan., pp.3-22 (1995)
6) Zhang,J., Silcock,W.H. and Shields,T.J., J.Fire Sciences, Vol.13, Mar., pp.141-161 (1995)
7) Leslie J.Goff:Polymer Engineering Science Vol.33 , No.8,(1993),497-500
8) J.S.Pisipati and W.J.Eicher :Joural of Reinforced Plastics and Composites, Vol13, (1994)
9) J. Zhang , G. W. H. Silcock : Joural of Fire Sciences, Vol, 13 ,(1995)141-161
10) S. Bourbigot, M, Le Bras and R. Delobel : Joural of Fire Sciences, Vol, 13 ,(1995)3-22
11) M. Robert Christy, Ronald V. Petrella , and John J. Penkala : Fire and Polymers Chapter 31(1995)498-517
12) M. I. Nelson, J. Brindley and A. Mcintosh : Combust. Sci. and Tech, Vol. 104(1995)33-54
13) J. S. Pisipati and W. J. Eicher : Journal of Reinforced Plastics and Composites , Vol. 13 (1994)1071-1099
14) John P. Redfern : Int. J. of Materials and Product Technology , Vol. 5, no. 4 ,(1990)349-366
15) Takashi kashwagi, Atsumi Omori and Thomas G. Cleary : Flame Retardancy Polym. Mater , Vol. 3(1992)30-52
16)Hugget, C., "Estimation of the rate of heat release by means of oxygen consumption", Journal of Fire and Flammability, Vol.12, (1980)
17) Parker, W.J., "Calculation of the heat release rate by oxygen consumption for various applications", Journal of Fire Sciences., Vol.2, pp.380-395 (1984)
18) Babrauskas, V., "Development of the Cone Calorimeter-A bench-scale rate of heat release apparatus based on oxygen consumption", NBS-IR, 82-2611 (1982)