4. 三菱自動車クレーム隠し
4.1. 事件の概要
2000年6月20日、熊本県熊本市内の国道3号線を走行していた三菱パジェロが交差点で信号待ちしていた車に追突、追突された側の2人が首などに軽いケガを負った事故が起こった。事故を起こした主婦は「ブレーキが利かなかった」と話していたが、主婦がブレーキをしっかり踏まなかったと思われていた。
図 7 三菱自動車のパジェロ
2000年6月中旬、運輸省自動車交通局のユーザー業務室に一本の匿名電話が入り、「三菱自動車では運輸省の検査の際に見せていない書類がある。本社のロッカー室を探してみればいい」という。ユーザー業務室はこの情報を信憑性の高い内部告発だと判断し、7月5日東京都港区の三菱自動車本社などに対して立ち入り検査をおこなった。通報通り、クレーム処理を担当する「品質保証部」がある8階のロッカー室で定例検査では報告がなかったクレーム報告書が見つかり、三菱自動車側はクレーム書類隠しの事実を認めた。
7月18日には「三菱自動車に何十件にも及ぶクレーム隠しが行われた疑いがある」との報道が行われたが、河添克彦社長は7月の記者会見で開口一番「人身事故に至ったケースはない」と発言した。実際には、クレーム隠しが行われたのは14件69万台であった。その中で、熊本で事故を起したパジェロもブレーキホース液漏れのおそれがあったのも一例で、多くの人身事故があり、また大形トラックにも多くの欠陥があり、3万8856台が電気配線の被膜損傷によるエンジン停止が起こる可能性があった。
4.2. 事件後の経過
4.2.1. 司法
運輸省(当時)は乗用車「デボネア」などのリコール(回収、無償修理)隠しについて、行政処分として過料を求める通知をし、それに基づき東京地裁(針塚 遵裁判長)は道路運送車両法違反(改善措置の届け出義務)で三菱自動車工業同社に過料400万円を支払うよう命じた。また本山彦一(64)、遠山智(62)両元副社長らと法人としての同社を道路運送車両法違反(虚偽報告)容疑で警視庁に刑事告発した。さらに、熊本市内で起きた「パジェロ」の人身事故に関しては、熊本地検がブレーキに欠陥があることを知りながらリコールを怠ったのが事故の原因として、業務上過失傷害罪で村川洋・同社品質技術本部市場品質部長(当時)ら3人を略式起訴し、熊本簡裁は幹部3人に罰金各50万円の略式命令を出した。
事故から約1年経った、2001年3月23日、熊本市の女性(37)が欠陥ブレーキのクレーム隠しが原因で同社の4輪駆動車「パジェロ」を運転中に事故を起こして精神的苦痛を受けたとして、慰謝料など計約680万円の損害賠償を求める訴えを熊本地裁に起こした。女性は事故後、ショックから不眠などを訴え、現在も運転の際に恐怖心を感じるなどショックが完全には消えていないと言っている。また、一連のリコール隠しが発覚し、事故を起こした車もリコール対象車であったことが分かった昨年8月、三菱自工から2人が夫婦宅を訪れ、謝罪した。同社は補償に応じるとしたが12月まで連絡がなく、弁護士を頼んで交渉を始めたが返答が延ばされ続けたため提訴に踏み切った。女性は「夫に謝罪はあったが私にはなかった。裁判で真実が判ることを期待している」と話した。
4.2.2. 自動車工業界の行動
トヨタ自動車会長の奥田碩・日本自動車工業会会長は、三菱自動車工業のクレーム情報隠し事件について、「自工会としても対応しなければならない」とのべ、自工会会長として各社に点検を指示するとともに、運輸省、通産省とリコール制度について協議したい意向を表明した。また、自工会会長として「各社にルール見直しと総点検を指示する」方針を示した。
4.2.3. 国際的な動きとの関係
日本では三菱自動車工業のリコール隠しが引き金になり、2002年7月に「道路運送車両法の一部を改正する法律(改正道路運送車両法)」が成立した。米国ではBridgestone/Firestone社のタイヤトレッドの剥離問題があり、Firestone社のタイヤを装着した米Ford社のSUV「Explorer」が、海外でリコールされたが、米国内での報告義務がなかったことから、リコールが遅れ被害が拡大した。このことから、米国では2000年11月にリコールの報告義務の拡大、怠ったときの罰則強化、タイヤの表示項目の充実、タイヤ空気圧警報装置の義務付け、子供の拘束装置の改善など、自動車の安全のアウトラインを定めた法律「TREAD法(Transportation Recall Enhancement、Accountability and Document Act)」が成立し、さらに、個々の規制については米高速道路交通安全局(NHTSA:National Highway Traffic Safety Administration)を中心に検討されている。
4.3. この事件の一般的な解釈
チャレンジャー号の場合と同様に、この事件でもまず「社会の一般的な反応」について整理をしてみる。
4.3.1. 企業の倫理の崩壊?(マスコミの論調を中心として)
三菱自動車では1969年のリコール制度発足当時から、クレーム報告書を隠す体質があり、1977年以降は「秘匿」や「保留」を意味する「H」マークを付けた二重処理が行われていた。また、次のような報道もされ一流企業としてはかなり悪質であるとも感じられる。
【クレーム隠しの三菱自工、書類隠しの模擬訓練(読売オンライン 2001年2月2日)】
三菱自動車工業(本社・東京都港区)のクレーム情報隠ぺい事件で、直接の担当部署である同社品質保証部が、運輸省(当時)の抜き打ちの立ち入り検査に備え、時間稼ぎや書類隠しの模擬訓練を行っていたことが一日、警視庁交通捜査課などの捜査本部の調べでわかった。担当役員もこれらの事実を認めている。道路運送車両法違反(虚偽報告)容疑で前副社長ら幹部9人を書類送検した同本部では、会社ぐるみの隠ぺいを裏付ける重大な決め手になったとしている。
これまでの調べでは、同部では検査に備え、クレーム情報隠ぺいのための「監査対応マニュアル」を準備。このマニュアルに従って、各部員が、検査官や担当者に役を割り振り、検査時の対応を確認する模擬訓練を行っていた。マニュアルは更新が重ねられ、最新版では、抜き打ちで訪れた検査官に「まずお茶などを出して接待し、時間を稼ぐ」という趣旨の対策を明記。この間に、関係書類を隠す担当者や場所を定めていたほか、報告する情報と、隠ぺいする情報を二重管理していたコンピューターを操作する担当者など細かな人員配置まで決めていた。調べに対し、同部の元担当者は「リコールになれば販売への影響が大きく、営業部門からの圧力もあった」「長年の隠ぺいが発覚したら大変な騒ぎになると思った」などと話す反面、「悩んだ時期もあったが、長く会社にいるうちに虚偽報告に慣れてしまった」と話す部員もいたという。
4.3.2. 自動車産業の全体の倫理と行政の怠慢?(評論家などの考え方)
自動車メーカーは激しい競争によりコスト削減を第一とし、また新車の開発期間を短くする傾向にある。新車の設計段階で安全性や耐久性のテストが不充分である場合が多いとも言われる。また、リコール隠しに対する法律的な制裁は最大100万円の過料しか課せられない。日本は法治国家だから法律的な制裁が第一である。その制裁が少ないということは日本社会がリコールを重大な犯罪とは見ていないことを示している。またコストを削減するのは消費者が少しでも安い車を買いたいという要求に合わせている面もある。
しかし、法律的な制裁が軽く、消費者が安い車を欲しがり、自動車会社は販売量を増やしたいという理由で、欠陥のある車を承知で販売したり、その証拠を隠して良いということにはならない。
一方、国土交通省(当時の運輸省)は、担当者を本省で新たに3人、地方運輸局に12人増員し、専用ホームページやフリーダイヤルを通して寄せられる欠陥情報を独自に分析し、メーカー側を監視するようにした。また、日本自動車連盟(JAF)のロードサービスを通して得られる「路上故障車」の情報をデータベース化し、特定の車種で特定の同じ故障ばかりが起きる傾向がないかなども、把握していくことも決めた。
罰則面では、国に不具合情報を報告しない「クレーム隠し」(罰金20万円以下)や無届けで無償修理を行う「リコール隠し」(過料100万円以下)などを行った法人への罰則を、罰金2億円以下にまで大幅に引き上げ、個人についても懲役刑を導入、懲役1年以下、罰金300万円以下までとした。
4.4. より深く考える
4.4.1. 罰則が厳しいと倫理を守るのか?
この事件をキッカケに100万円の過料から2億円の罰金に変更になった。罰則の強化が事故を防ぐ手段として有効な場合が多い。たとえば、飲酒運転は交通三悪と呼ばれ、お酒を飲んで運転することは道徳的に許されないと長い間、繰返し言われていたが、飲酒運転は後を絶たなかった。ところが、「飲酒30万円」ということになり、飲酒運転で捕まると大きな出費になることで飲酒運転は格段に減少した。もともと飲酒運転が問題なのは他の人を傷つけるからであるが、その理由では違反は止らなかった。人間は「自分が辛ければ判る」というところがあり、「罰則が軽ければ倫理は無視する」という倫理観しか持っていないのが普通である。また、三菱自動車の例は日本を代表する大企業と言えども平均的な個人とおなじ倫理感覚であることを示している。技術者や大企業は「力」を持っている。本来は自分が持つ「力」に応じて厳しい倫理観も求められる。
4.4.2. 刑が軽いと言うことは倫理的にも重要ではない?
さまざまな社会的事情があったかも知れないが、「クレーム隠し」というものの最高刑は100万円の過料である。現代社会において大企業が100万円を支払うのはそれほど打撃ではないことを考えると、社会はクレーム隠しを重大ではないと考えてていたことを示している。それを「目立つから」「あの企業だから」とマスコミと一緒になって過度に三菱自動車を罰したとも言える。もしそうであれば、この事件は「倫理」という名の下に実質的には「リンチ」である。三菱自動車は100万円の過料を支払い、それに見合った謝罪をすればよい。政府や社会は「クレーム隠し」のような誠意に悖る行為に対して、法律をそのままにしておいたことに対して、自分たち自身が甘かったことを深く反省する必要がある。
「犠牲者がでないと法律は改正されない」とよく言われる。それが常識として認められているのは、この事件のように私的に罰することを続けているからであり、技術者が法律のもとで堂々と業務をしているというプライドに不足するからである。
4.4.3. 自動車と交通事故死
交通事故死は現代社会の最大の災害である。このような大きな災害が毎年続いているにもかかわらず、メーカーは車を運転している人の安全もそれほど重視していないし、歩行者など被害を受ける側の安全性に対してほとんど行動をしていない。だから、自動車会社そのものを厳しく考えると、社会的には倫理に悖る存在である。日本だけでも一年で8,000人もの犠牲者を出すが、もし、これが化学会社の薬品などで1万人に近い被害者を出したら、その企業は潰れるだろう。なぜ、自動車だけが犠牲者を出しても許される商品なのだろうか?それが三菱自動車の事件を誘発したのではないか?このことは東京電力の事件と共に考えることとする。
4.1. 事件の概要
2000年6月20日、熊本県熊本市内の国道3号線を走行していた三菱パジェロが交差点で信号待ちしていた車に追突、追突された側の2人が首などに軽いケガを負った事故が起こった。事故を起こした主婦は「ブレーキが利かなかった」と話していたが、主婦がブレーキをしっかり踏まなかったと思われていた。

2000年6月中旬、運輸省自動車交通局のユーザー業務室に一本の匿名電話が入り、「三菱自動車では運輸省の検査の際に見せていない書類がある。本社のロッカー室を探してみればいい」という。ユーザー業務室はこの情報を信憑性の高い内部告発だと判断し、7月5日東京都港区の三菱自動車本社などに対して立ち入り検査をおこなった。通報通り、クレーム処理を担当する「品質保証部」がある8階のロッカー室で定例検査では報告がなかったクレーム報告書が見つかり、三菱自動車側はクレーム書類隠しの事実を認めた。
7月18日には「三菱自動車に何十件にも及ぶクレーム隠しが行われた疑いがある」との報道が行われたが、河添克彦社長は7月の記者会見で開口一番「人身事故に至ったケースはない」と発言した。実際には、クレーム隠しが行われたのは14件69万台であった。その中で、熊本で事故を起したパジェロもブレーキホース液漏れのおそれがあったのも一例で、多くの人身事故があり、また大形トラックにも多くの欠陥があり、3万8856台が電気配線の被膜損傷によるエンジン停止が起こる可能性があった。
4.2. 事件後の経過
4.2.1. 司法
運輸省(当時)は乗用車「デボネア」などのリコール(回収、無償修理)隠しについて、行政処分として過料を求める通知をし、それに基づき東京地裁(針塚 遵裁判長)は道路運送車両法違反(改善措置の届け出義務)で三菱自動車工業同社に過料400万円を支払うよう命じた。また本山彦一(64)、遠山智(62)両元副社長らと法人としての同社を道路運送車両法違反(虚偽報告)容疑で警視庁に刑事告発した。さらに、熊本市内で起きた「パジェロ」の人身事故に関しては、熊本地検がブレーキに欠陥があることを知りながらリコールを怠ったのが事故の原因として、業務上過失傷害罪で村川洋・同社品質技術本部市場品質部長(当時)ら3人を略式起訴し、熊本簡裁は幹部3人に罰金各50万円の略式命令を出した。
事故から約1年経った、2001年3月23日、熊本市の女性(37)が欠陥ブレーキのクレーム隠しが原因で同社の4輪駆動車「パジェロ」を運転中に事故を起こして精神的苦痛を受けたとして、慰謝料など計約680万円の損害賠償を求める訴えを熊本地裁に起こした。女性は事故後、ショックから不眠などを訴え、現在も運転の際に恐怖心を感じるなどショックが完全には消えていないと言っている。また、一連のリコール隠しが発覚し、事故を起こした車もリコール対象車であったことが分かった昨年8月、三菱自工から2人が夫婦宅を訪れ、謝罪した。同社は補償に応じるとしたが12月まで連絡がなく、弁護士を頼んで交渉を始めたが返答が延ばされ続けたため提訴に踏み切った。女性は「夫に謝罪はあったが私にはなかった。裁判で真実が判ることを期待している」と話した。
4.2.2. 自動車工業界の行動
トヨタ自動車会長の奥田碩・日本自動車工業会会長は、三菱自動車工業のクレーム情報隠し事件について、「自工会としても対応しなければならない」とのべ、自工会会長として各社に点検を指示するとともに、運輸省、通産省とリコール制度について協議したい意向を表明した。また、自工会会長として「各社にルール見直しと総点検を指示する」方針を示した。
4.2.3. 国際的な動きとの関係
日本では三菱自動車工業のリコール隠しが引き金になり、2002年7月に「道路運送車両法の一部を改正する法律(改正道路運送車両法)」が成立した。米国ではBridgestone/Firestone社のタイヤトレッドの剥離問題があり、Firestone社のタイヤを装着した米Ford社のSUV「Explorer」が、海外でリコールされたが、米国内での報告義務がなかったことから、リコールが遅れ被害が拡大した。このことから、米国では2000年11月にリコールの報告義務の拡大、怠ったときの罰則強化、タイヤの表示項目の充実、タイヤ空気圧警報装置の義務付け、子供の拘束装置の改善など、自動車の安全のアウトラインを定めた法律「TREAD法(Transportation Recall Enhancement、Accountability and Document Act)」が成立し、さらに、個々の規制については米高速道路交通安全局(NHTSA:National Highway Traffic Safety Administration)を中心に検討されている。
4.3. この事件の一般的な解釈
チャレンジャー号の場合と同様に、この事件でもまず「社会の一般的な反応」について整理をしてみる。
4.3.1. 企業の倫理の崩壊?(マスコミの論調を中心として)
三菱自動車では1969年のリコール制度発足当時から、クレーム報告書を隠す体質があり、1977年以降は「秘匿」や「保留」を意味する「H」マークを付けた二重処理が行われていた。また、次のような報道もされ一流企業としてはかなり悪質であるとも感じられる。
【クレーム隠しの三菱自工、書類隠しの模擬訓練(読売オンライン 2001年2月2日)】
三菱自動車工業(本社・東京都港区)のクレーム情報隠ぺい事件で、直接の担当部署である同社品質保証部が、運輸省(当時)の抜き打ちの立ち入り検査に備え、時間稼ぎや書類隠しの模擬訓練を行っていたことが一日、警視庁交通捜査課などの捜査本部の調べでわかった。担当役員もこれらの事実を認めている。道路運送車両法違反(虚偽報告)容疑で前副社長ら幹部9人を書類送検した同本部では、会社ぐるみの隠ぺいを裏付ける重大な決め手になったとしている。
これまでの調べでは、同部では検査に備え、クレーム情報隠ぺいのための「監査対応マニュアル」を準備。このマニュアルに従って、各部員が、検査官や担当者に役を割り振り、検査時の対応を確認する模擬訓練を行っていた。マニュアルは更新が重ねられ、最新版では、抜き打ちで訪れた検査官に「まずお茶などを出して接待し、時間を稼ぐ」という趣旨の対策を明記。この間に、関係書類を隠す担当者や場所を定めていたほか、報告する情報と、隠ぺいする情報を二重管理していたコンピューターを操作する担当者など細かな人員配置まで決めていた。調べに対し、同部の元担当者は「リコールになれば販売への影響が大きく、営業部門からの圧力もあった」「長年の隠ぺいが発覚したら大変な騒ぎになると思った」などと話す反面、「悩んだ時期もあったが、長く会社にいるうちに虚偽報告に慣れてしまった」と話す部員もいたという。
4.3.2. 自動車産業の全体の倫理と行政の怠慢?(評論家などの考え方)
自動車メーカーは激しい競争によりコスト削減を第一とし、また新車の開発期間を短くする傾向にある。新車の設計段階で安全性や耐久性のテストが不充分である場合が多いとも言われる。また、リコール隠しに対する法律的な制裁は最大100万円の過料しか課せられない。日本は法治国家だから法律的な制裁が第一である。その制裁が少ないということは日本社会がリコールを重大な犯罪とは見ていないことを示している。またコストを削減するのは消費者が少しでも安い車を買いたいという要求に合わせている面もある。
しかし、法律的な制裁が軽く、消費者が安い車を欲しがり、自動車会社は販売量を増やしたいという理由で、欠陥のある車を承知で販売したり、その証拠を隠して良いということにはならない。
一方、国土交通省(当時の運輸省)は、担当者を本省で新たに3人、地方運輸局に12人増員し、専用ホームページやフリーダイヤルを通して寄せられる欠陥情報を独自に分析し、メーカー側を監視するようにした。また、日本自動車連盟(JAF)のロードサービスを通して得られる「路上故障車」の情報をデータベース化し、特定の車種で特定の同じ故障ばかりが起きる傾向がないかなども、把握していくことも決めた。
罰則面では、国に不具合情報を報告しない「クレーム隠し」(罰金20万円以下)や無届けで無償修理を行う「リコール隠し」(過料100万円以下)などを行った法人への罰則を、罰金2億円以下にまで大幅に引き上げ、個人についても懲役刑を導入、懲役1年以下、罰金300万円以下までとした。
4.4. より深く考える
4.4.1. 罰則が厳しいと倫理を守るのか?
この事件をキッカケに100万円の過料から2億円の罰金に変更になった。罰則の強化が事故を防ぐ手段として有効な場合が多い。たとえば、飲酒運転は交通三悪と呼ばれ、お酒を飲んで運転することは道徳的に許されないと長い間、繰返し言われていたが、飲酒運転は後を絶たなかった。ところが、「飲酒30万円」ということになり、飲酒運転で捕まると大きな出費になることで飲酒運転は格段に減少した。もともと飲酒運転が問題なのは他の人を傷つけるからであるが、その理由では違反は止らなかった。人間は「自分が辛ければ判る」というところがあり、「罰則が軽ければ倫理は無視する」という倫理観しか持っていないのが普通である。また、三菱自動車の例は日本を代表する大企業と言えども平均的な個人とおなじ倫理感覚であることを示している。技術者や大企業は「力」を持っている。本来は自分が持つ「力」に応じて厳しい倫理観も求められる。
4.4.2. 刑が軽いと言うことは倫理的にも重要ではない?
さまざまな社会的事情があったかも知れないが、「クレーム隠し」というものの最高刑は100万円の過料である。現代社会において大企業が100万円を支払うのはそれほど打撃ではないことを考えると、社会はクレーム隠しを重大ではないと考えてていたことを示している。それを「目立つから」「あの企業だから」とマスコミと一緒になって過度に三菱自動車を罰したとも言える。もしそうであれば、この事件は「倫理」という名の下に実質的には「リンチ」である。三菱自動車は100万円の過料を支払い、それに見合った謝罪をすればよい。政府や社会は「クレーム隠し」のような誠意に悖る行為に対して、法律をそのままにしておいたことに対して、自分たち自身が甘かったことを深く反省する必要がある。
「犠牲者がでないと法律は改正されない」とよく言われる。それが常識として認められているのは、この事件のように私的に罰することを続けているからであり、技術者が法律のもとで堂々と業務をしているというプライドに不足するからである。
4.4.3. 自動車と交通事故死
交通事故死は現代社会の最大の災害である。このような大きな災害が毎年続いているにもかかわらず、メーカーは車を運転している人の安全もそれほど重視していないし、歩行者など被害を受ける側の安全性に対してほとんど行動をしていない。だから、自動車会社そのものを厳しく考えると、社会的には倫理に悖る存在である。日本だけでも一年で8,000人もの犠牲者を出すが、もし、これが化学会社の薬品などで1万人に近い被害者を出したら、その企業は潰れるだろう。なぜ、自動車だけが犠牲者を出しても許される商品なのだろうか?それが三菱自動車の事件を誘発したのではないか?このことは東京電力の事件と共に考えることとする。