軍人になった限りは戦争したい
私は科学者で、専攻は材料工学だ。
材料工学の主たる役割はより良い材料を社会に提供することだから、本当は社会に役立つことであるし、これまでは確かにそうだった。でも現在、私が研究している材料も、また他の方が研究している材料も、性能がよいものを作れば作るほどみんなが使うので、結果的に資源の枯渇を早める。
便利になるのは良いけれど、多くの場合は行き過ぎて社会に不必要な量の「もの」を提供することになっていると感じる。それでも、私は職業が工学なので、工学の必要性が薄れてきたと感じても、工学を生業にしなければならない。
それはちょうど、祖国防衛の熱意に燃えて防衛軍に入った将校が、侵略戦争の前線にいるのと同じようなものだろう。最初は祖国の国境で防衛のために必死に戦っていたけれど、すでに敵地の億に入り、戦争の意義は認められない。そうは言っても軍人は政府の決定に従って行動しなければならないから、また明日も無意味な殺戮を繰り返すことになる。
その将校は悩んだあげく、次の戦いに突撃して自ら死地をえようとする。
そんな良心的な軍人もいるし、また
「私は軍人となった、だから一生に一度は戦争をしたい」ということで戦争をする軍人もいるだろう。でも、本人はそれで良いだろうが、戦争で死ぬ多くの人は無念の思いの内にその人生を終わる。
私は工学を専攻した限りは、資源を枯渇させ、環境を悪化させることが判っていても新しい材料を開発するようなことはしたくない。