愛用品の五原則
それでも私は次のことを提唱している。一つは愛用品の五原則が成立するような工業製品を作り出すこと、第二に江戸時代の日本人が持っていた節約の心を思い出すことである。巻末に、愛用品の五原則(武田邦彦執筆。高等学校新編現代国語(第一学習社))、江戸時代の日本人(渡辺京二、「逝きし日の面影」)、新聞記事から収録した。
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わたしたちが長く親しんできた「ものの時代」に別れを告げ、いよいよ本当に心の満足を得るための「こころの時代」を築くために、実際の生活に立ち戻って、「愛用品の原理」を示します。
実在感ある優れた環境、体の機能を適切に使った満足感、そして、自制と感動を呼ぶゆったりとした時間は、獲得しなければなりませんが、それと同様に、生活それ自体も、わたしたち自身が獲得するものであり、そのための第一条件が、愛用品を使うことだからです。
ものに幸福を求め始めると、ある特徴が現れます。それを、インド独立の父、マハトマ・ガンジーが巧みに表現しています。
「こころというのは落ち着きのない鳥のようなものであるとわたしたちはわきまえています。物が手に入れば入るほど、わたしたちの心はもっと多くを欲するのです。そして、いくら手に入っても満足することがありません。欲望のおもむくままに身を任せるほど、情欲は抑えが利かなくなります。」
「もの」はこころが求めるものですが、こころは落ち着きのない鳥のようなものなので、ものが手に入り出すと、こころはものの方に移り、最初になにを目的としてものが欲しいと思ったのかを忘れてしまうのです。そして、現代の社会は、こころが本来の目的を忘れるようにし向けますので、余計にやっかいなことになります。
「愛用品」が中心となる時代には、「もの」は三つに分かれるでしょう。
まず、「愛用品」です。愛用品とは次の五原則をもったものと著者は考えます。
一、 持っているものの数がもともと少ないこと
二、 長く使えること
三、 手をやかせること
四、 故障しても悪戦苦闘すれば自分で修理できること
五、 磨くと光ること、または磨き甲斐があること
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図 58 製作後、20-30年後に最盛期を迎える製品(油団)
「持続性」ということを考えるときに単に現在の近代社会から考えるのではなく、歴史的に長く持続性を保ってきた社会の仕組み、技術を学ぶことも有意義と考えられる。たとえばアイヌの文化は定住狩猟文化として完全な持続性を有していた。
図 59 アイヌのチセ(家)
第十三回 終わり