環境のまとめ

 情報量と物質量の相関関係

 豊かさの指標に何をとるかは難しいが、日本人が継続して改善のために一定の努力をしたと仮定し、最近40年ほどの生産や活動を主として物質の動きで調べてみると、物質と情報の間に一定の関係があることが判る。
第二次世界大戦後、戦争で打撃を受けた日本の資源使用量は1960年から急速上昇し高度成長時代を支えた。しかし1970年代に入ると石油ショックの影響もあって停滞し、図 54に示すように2000年に至るまで鉄鋼生産量ではほとんど変化がないことが知られている 1)。鉄は社会の基幹材料であり金属材料のなかで90%以上を占めることを考えれば、日本では1970年代よりそれまでの社会構造から別種の構造へと変化したと考えられる。
社会における資源は鉄鋼、非鉄、プラスチック、無機材料、エネルギー資源、土木資源などに分かれるが、鉄鋼材料がもっとも基幹的な材料であり、資源全体を指標にするより社会の活動状況を観測する有力な手段になると考えられる。


図 54 日本の粗鋼生産量の年推移

 鉄鋼は重厚長大型の産業の基礎的資源であり、それに対してシリコンは情報を蓄積し、処理をする基本的材料と位置づけることができる。図 55にデジタル情報を生み出す基盤となる材料であるシリコン単結晶の生産量の推移を示した 2)。図からシリコン単結晶は1970年初期には生産量自体が極めて少ないこと、1970年代後半から急激に伸び2000年には5,000トンに達していることが判る。鉄鋼生産量とシリコン単結晶生産量の関係を比較すると1970年代初頭に日本の産業構造が物質から情報へと転換した可能性を示す。


図 55 シリコン単結晶生産量の年推移

 シリコン単結晶は情報を載せる材料として使用されるが、情報技術の進歩と共に情報集積密度の増大も起こっている。この情報量の二つの増加要因を考慮にいれ、社会に供給される情報量を半導体DRAMの供給bit数として整理すると図 56のようになる。


図 56 社会に供給された情報量

 2003年に社会に供給されたDRAMの情報量は1.7×1019 bitとなり、1972年と比較して250万倍の供給量である。
一方、日本の活動は総合的に国内総生産(GDP)で示すことが出来る。図 57に日本の実質GDPを比較的安定であると考えられる$で表示したものを示す 3,4)。尚、基準は前節で整理を行った物質の転換点である1972年の貨幣価値にとった。一般に人間の経済活動は必ず何らかの物質を用いて行われるため、その物質使用量とGDP等の経済活動の指標には強い相関があると考えられるが、1972年を超えても経済活動の規模の拡大は止まらず、むしろさらに加速しているように見える。これらのことから鉄という代表的な物質と情報量は人間の活動の拡大に等価の関係を持つ可能性があり、もしこのような考え方が正しければ物質を情報に置き換えることによって物質使用量を減少させることが可能となる。


図 57 日本の実質GDPの年推移

引用文献など
--------------------------

1) (社)日本鉄鋼連盟鉄鋼統計専門委員会:鉄鋼統計要覧, (社)日本鉄鋼連盟, (1967-2000)
2) 新金属協会ホームページ:http://www.jsnm.or.jp
3) 総務省統計局ホームページ 日本の長期統計系列 第3章 国民経済計算:http://www.stat.go.jp/data/chouki/03.htm
4) 総務省統計局ホームページ 日本の長期統計系列 第18章 貿易・国際収支・国際協力:http://www.stat.go.jp/data/chouki/18.htm

 

第十二回 終わり

名古屋大学 武田邦彦