マボロシを捨てる時




はじめに

 現代は幻想の時代である。手でツチグモに触り、脚でセミを追えば五感で生活ができる。キーボードとエスカレータの生活は幻想を形成する。それでは、幻想は何を形成しているのだろうか?

1. ダイオキシンは毒物ではない

 ダイオキシンは毒物ではない。すでにそれは学問的に明らかである。しかし、わたし達は作られた幻想を振り払うことができないばかりか、明るい未来を暗く閉ざそうとしている。DDTが殆ど被害者を出さす、ボランティアによる人体実験においてもシロなのに、それは否定されている。

2. 地球の気温は現在が最適ではない

 地球の気温は低い。地質時代的に見ると現在は第二氷河期の間氷期であり、生物分布は著しく赤道直下に偏っている。二酸化炭素が地球温暖化の原因になるとは限らないが、地球が温暖化した方が良いのは確かである。また「森林が二酸化炭素を吸収する」「燃料電池自動車は二酸化炭素を出さない」「新幹線は航空機の10分の1の二酸化炭素排出量である」など科学的事実に反することが並ぶのは幻想の中で判断しているからに他ならない。

3. リサイクルはゴミを増やす

 材料は劣化する、エントロピーは増大する、拡散損失は回復できない・・・工学が19世紀以来、蓄積した学問をリサイクルは無視し続けている。しかし、学問的に間違っていることは社会に損害を与え、長続きしない。経済を圧迫するだけなら良いが、まじめにな工学を学んでいるの若者につまらない業務を与え、主婦は最後には焼却されるゴミを懸命に分別している。工学の革新は、技術によって人を楽にすることであり、苦しめることではない。

4. 省エネルギーはエネルギー消費量を上げる

 高度成長期、企業は必死に省エネルギーの努力をした。その結果、日本製品は競争力がつき大量生産の力を得た。現在でも、省エネルギーは同一行動での生産効率を向上させ、日本全体のエネルギー消費量を増大させる。それは家庭の省エネルギーでも同じである。

5. 大量生産は環境を改善する

 大量生産、大量消費は環境を破壊すると言われている。でもその実証はとれているのだろうか?工学は実証を求める。たとえ理論的に説明できなくても実証が優位に立たなければならない。ダイオキシンは犠牲者を出したのか? DDTは被害者を出したのか? リサイクルはゴミを減らしたのか? そして大量生産は環境を破壊するのか? すべて、検証が必要となる。少なくともわたし達は図 1を検証しなければならないだろう。



図 1 一次エネルギーの消費と環境


おわりに

 今、日本の技術の将来は暗い。景気は回復したが若者は技術の将来に明るい展望とプライドを持てないでいる。それは、技術に対する偏見、過度の心配性、社会的幻想の構築が若者の工学離れを引き起こしていて、それと共同歩調をとっているのが、他ならぬ工学であるからである。わたし達は、ダイオキシンは無毒だ、地球温暖化は歓迎、ゴミは気にしなくても大丈夫、家庭では省エネルギーなどいらない、そして、大量生産を無理にする必要もないが心配もない、と言い続けなければならない。
 それによって、日本を明るく、技術を明るくしたい。

(参考)
武田邦彦ら、高等学校教科書、「新編現代文」、第一学習社
武田邦彦、「エコロジー幻想」 青春出版
武田邦彦、「リサイクル幻想」 文春文庫