― 光劣化防止の全体像 ―

 植物も動物も太陽から照射される紫外線には誕生以来苦労してきた。植物はフラボノイド、動物はメラニンで葉や皮膚を防御している。メラニンは2種類有り、フラボノイドに至ってはその数が多い。


(メラニンの合成経路)


 上図で示したように、メラニンはチロシンを原料として、ドーパキノンを経てユーメラニンとフェオメラニンになり、これが紫外線防御に使用される。動物は、この2種類のメラニンを用いて受動的に皮膚を防御している。そして、これに加えてチミンダイマーの修復などの能動防御機構を備えている。

 植物の受動防御は、動物の受動防御と比べて非常に複雑だが、丹念に次の図を見るしかない。


(フラボノイドの合成経路)

 さらに、フラボノイド以外にも、さまざまな紫外線吸収剤を有しており、シナピン酸、サリチル酸、クロロゲン酸、そしてマイコスポリン様アミノ酸などが使用される。実に膨大な防御戦線である。またこれに加えて、動物の能動防御に類する防御系も有している。


(非フラボノイド系の紫外線防御剤)

 それに対して人工材料の紫外線吸収剤はどのような構造なのだろうか? 典型的な紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、サリシレート系、シアノアクリレート系、そしてニッケル錯塩系などが使用されている。各々の構造は下図の通りである。


(人工高分子材料に使用する代表的な紫外線吸収剤)

 何故、植物と動物、そして人工物の紫外線吸収剤は、太陽から照射される紫外線を防ぐことが目的であり、且つ防御する対象は高分子であるのに、全く異なる化合物なのであろうか。化合物が違うばかりではなく、防御するシステム全体が異なるような気もする。ここまでに示したものは、紫外線防御系の中で、受動防御に類するものだけであるが、これに能動防御や馴化などの複雑な防御系も加わる。そこで、この3つの防御系の比較表を作成し、整理を行った。

(植物、動物、人工物の防御系の比較)

 植物、動物、人工物の紫外線防御法は、非常に複雑であり、一言で、「植物は・・・、動物は・・・、人工材料は・・・という方針で材料を紫外線から守っている」と言えないほどである。それでは、「伝統に学ぶ」の方はどうだろうか? 伝統的な製品で高分子材料を堅固に守るというと、例えば漆が挙げられる。しかし、多くのものは「虫」から防御するものが多く、紫外線などの光はそれほど気にされていなかった。「伝統に学ぶ」に話が及ぶとさらに複雑になるので、ここでは割愛せざるを得ない。

 いや、それにしても難しい。でも「自然に学ぶ」、「伝統に学ぶ」ということは、こういうことだろうと観念してコツコツやるしかないのだろう。

おわり