はじめに
無機微粒子をプラスチック中に分散する手段として、最初に「強度の弱い」無機多孔体を作り、それを溶融高分子中で破砕しながら分散する方法を研究した。有機無機ナノコンポジットを調整する方法としてはやや強引な方法ではあるが、製造方法が単純であること、使用する薬品類などがほぼ全量回収可能なことなど利点もある。本章では微小粒子の凝集、凝集過程の研究、無機多孔体の強度の制御、そしてプラスチックへの分散研究に分けて解説を行なった。
1. 無機微小粒子凝集の基礎
シリカゲルなどの無機微粒子をプラスチックなどの有機材料中に均一に分散させることによって材料の特性改善を行う例は古くから行われており、例えばプラスチック中に炭酸カルシウムやガラス繊維などを含浸させた樹脂、カーボンブラックを混練したゴムなどがその典型的な例である。これらのものはあるいは剛性や寸法制度の改善、時には工業的に重要な要素、すなわち「材料の価格を低減させる」有力な手段として行われてきた[1]。
このような有機・無機ハイブリッド材料はプラスチックが鉄鋼のような基幹材料ではなく、使い捨て、あるいは補助的材料として使用されていた時には特に有効であり、もちろん現在でも産業上、極めて大切な材料である。しかし、工業社会が成熟し、特に電子機器関係を中心として寸法の小さな材料、より均質で特殊な性能を要求する材料に注目が集まり、それらの要求を満たすためにより小さな粒径を有する無機フィラーを分散させる試みが行われてきた[2]。その主要な部分は本冊子の特集号に整理されている。ミクロンオーダーの粒子に代わって、ナノオーダーの粒子を用いる場合、1)微粒子の凝集力 2)粒子を粉砕する時のエネルギー消費 が最初に問題になる。材料表面は、表面の内部との結合と表面から外部への力のバランスで性質が決定されるので、表面の凹凸が激しくなったり、粒形が小さくなると内部の結合力が小さくなり、表面が活性になる。
金属水銀は蒸気圧が高い(25℃で1.84×10-3mmHg)が、同時に表面張力も大きく(25℃で水が7.26×10-2 N・m-1に対して水銀は4.84×10-1 N・m-1)、水銀粒子は高い表面積のために小さな粒子になって飛散する。外部と内部への力のバランスが崩れ、蒸気圧は粒径に依存するようになる。水銀の場合、完全に均質で単一の元素であるので、このような理論計算は可能である。シリカゲルなどは表面が水銀粒子ほど滑らかではないが、金属粒子も無機粒子もこの原理は同様であり、粒径が小さくなると表面の原子は動きやすくなり、蒸気圧の上昇、融点の低下などが観測される。
本章で解説する擬分相による無機多孔体はこのような原理を応用した材料であるが、粒子同士の接近によって原子の移動が起こり粒子同士が一体となるのは一般的には不都合である。凝集力は粒径が小さくなるほど大きくなり、一度分散した粒子も再び凝集してより大きな粒子に生長するためで、仮に凝集力が外部から加えられる力に対して小さければ容易に砕くことができるが、十分に大きいと凝集粒子はあたかも破砕前の粒子と同様に容易には小さくならない。図 1にシリカゲルの粒径と凝集力の関係と通常の処理で粒子に加わる力を示した。粒径が1ミクロン以下になると凝集力は極めて大きくなり、通常の処理(特殊な破砕機を用いないという意味)では粒子を再び破砕することができなくなる。

これを解消するために様々な方法が考案されている。凝集力はファンデルワールス力、静電気によるもの、そして表面の濡れなどの親和性によるものがあり、それぞれ表 1に示す方法が知られている。

また、SunらはCo粒子を対象として凝集を防止する為に不活性ガス中において金属塩還元法を利用し、粒子にトリアルキルホスフィンおよびオレフィン酸により有機膜コーティングすることにより粒径が2~11nmのCo粒子を製造していて高度な設計が為される場合もある[4]。
第二の技術上のポイントは破砕のエネルギーである。シリカゲルなどの無機材料はシリコンと酸素の間の強い結合からなっており、粒径を小さくすることはその結合を切ることでもある。仮に粒径が100μmミクロンの比較的小さな均一なシリカゲル粒子を平均20nmの粒子に破砕する場合のエネルギーは、破砕によって新しくできる界面の面積に相当する結合エネルギーに相当する。
本章で解説する無機材料は小さな粒子を取り扱う時のこの2つの欠点を回避することを目的とした物である。凝集力は物理的な原理で決定されるので、図 1に示したように粒子の粒径と一定の関係を持たざるを得ない。この凝集力を制御するには、粒子同士が接近しても凝集しないような工夫をすることである。また、いったん凝集して相対的に大きな粒子になったものを破砕するエネルギーもほぼ原理的に決っているが、立体的な配置によって化学的な凝集力を制御することができる。その意味で本章で紹介する無機材料は、「立体障害を利用した特徴を持つナノ粒子」と言うことができる。
2. 高分子材料の微細構造とナノスケール粒子のディメンジョン
金属材料、無機材料、そして有機材料はそれぞれ「材料」として使用されるための分子や原子の集合状態が異なる。金属材料は、陽電荷を持ちやすい中心原子の周りを自由電子が高速で動いて結合を保つ。無機ガラスは、シリコンと酸素が強く共有結合して材料を形作る。従って、ガラスは脆く硬い。これに対して有機材料の内でも高分子材料は高分子の鎖自身は炭素同士の共有結合でできているが、1本の鎖だけでは「材料」としての集合体にはならない。鎖が数本絡みあって初めて材料としてのまとまりを得ることになる。高分子材料力学では絡み合い点数と材料強度の関係が研究されており、1本の高分子鎖当たり平均7ヶ程度の絡み合いが必要とされている。
ポリエチレンという高分子があるが、その構造は長鎖アルカンとも呼ぶことができる物で、ヘキサンやデカンなどと化学的構造は同一である。つまりポリエチレンもデカンも図 2の左のような全く同一の構造式で表現でき、図 2の右に示したように単に構造式のnの量が異なるだけである。


図 2は固体の高分子材料はそれを形作る化合物同士の結合力では固体にならず、液体状態であり、高分子鎖が絡み合うことによって立体障害が生じ、その結果として固体状態を保っていることを示している。立体障害によって分子運動が妨げられるためにはある程度の空間が必要となる。この直接的な検証を試みているが未だ成功していない。著者らの間接的な研究によると、5-10nmの空間では液状である可能性が高い。
このことと無機フィラーのディメンジョンについて考えてみると、無機フィラーがミクロンオーダーの場合は、空間的な大きさの点で「動くことができずに固体状態で存在する高分子集合体」の中に石のような無機フィラーが入り込んでいる状態を想定することができる。これに対してフィラーの寸法が小さくなりナノオーダーになるとフィラー周辺の高分子の運動はかなり盛んであると考えられる。そこではフィラーが時として高分子鎖の編み目を通過して移動することも考えられる。つまり、高分子材料中のフィラーが小さくなると言うことは単に無機フィラー側の寸法の問題を考えるだけでは十分ではないことを示している。
3. 強度の制御された無機多孔体の調整
3.1. 3種類の無機多孔体と強度の制御
無機多孔体を調整する方法は多く知られているが、この章で解説する「分相」によって多孔質材料を得る方法として、1)ホウ珪酸ガラスのように混合した原料を溶解し、温度を変化させて分相を起こし、後に一方の相を酸などで溶解する 2)リンモリブデン酸のような孔形成剤が溶解する過程の変化を利用する[5,6] 3)調整する温度領域ではシリカも孔形成剤も溶解しないが、擬分相などの特殊な効果で多孔体を形成するもの[7,8]がある。
ホウ珪酸ガラスは成分を完全に溶解して温度を変化させて分相させる方法であるから、熱力学的な平衡論で推定や説明が可能である。一般的に、ある特定の化学組成範囲のガラスを液相温度以下、転移温度以上の温度で加熱処理すると、過冷却液体が転移温度と液相温度の間で相分離する。この時、自由エネルギーと組成との局面で二次微分値がゼロになる面(∂2G0/∂c2=0)をT(温度)-C(組成)面に投影して求められる曲線からスピノーダル分相領域が求められる。∂2G0/∂x2>0の場合は時間が充分経過すれば組成の変動は起こらないが、∂2G0/∂x2<0の場合は、分相時間が短い時はいろいろな波数の組成変動が見られる。そして長い時間が経過すればスピノーダル分相により分離相の幅(ガラスの柱の太さ、あるいは孔径)が決まる。このことは本章で解説する他の擬分相の場合にも基本的概念として適応される。

SiO2-Na2O-B2O3組成からなるガラスは、分相曲線からの理論的なスピノーダル分相領域と実験値とはよく一致することで知られている。分相曲面を図 3に示したが、分相曲面の内部が分相領域であり、その内部にスピノーダル分相曲面があってその内部の組成では絡み合い構造が形成される。しかしこの方法では現在のところナノオーダーの微粒子を有機材料中に分散することに成功していない。この理由は、スピノーダル分相領域と滴状分相領域の中間領域で多孔体の強度を制御できる条件が見出されていないからであり、本質的に不適切な方法であるという事ではない。
リン酸水素ナトリウム、モリブデン酸アンモニウムを用いてリンモリブデン酸を合成しつつ孔を形成する方法では、焼成段階で新たにできる孔形成剤としての塩や酸化物の融点はシリカゲルの融点よりかなり低いので、シリカが固相、孔形成剤が液相という状態で固相が液相に解けることなく凝集し、ナノスケールの2つの相に分かれる。ホウ珪酸ガラスの分相に類似しているが、溶融体での相分離ではないので、立体的配置の生成には複雑な過程を経る。

図 4にはリン酸水素ナトリウム、モリブデン酸アンモニウムとシリカゾルを用いて孔形成剤としての塩を反応溶融させつつ分相する場合の孔形成剤の状態図を示した。100℃付近から徐々に昇温して擬分相を行う場合、孔形成剤は図 4のように複雑な過程を経るので多孔質の構造もまた多種多様になる。図 4に示したA1-E3の温度で焼成した試料の顕微鏡写真を図 5にまとめた。全体的にシリカの柱が生長しスピノーダル分相に類似の様相を呈しているが、例えばB3のように孔形成剤が反応して酸化物にはなっているが液相から離れた温度での焼成を行った場合には、シリカの凝集が十分ではなく、粒状の微小粒子が観測される。
この方法による多孔体も今後の研究によってコンポジットを作製するのに適した条件が見出されると考えられるが、現在のところ成功していない。ホウ珪酸ガラスと同様にスピノーダル分解が進むとシリカの柱が太くなり、有機材料中に分散させることが困難である。

このようなことから強度をデザインするのに最も適当な方法として、溶融せずにシリカと孔形成剤の双方をナノパーティクルの状態でメカニックに混合し表面の凝集力を制御して擬分相させる方法を開発した。実験手段は、リンモリブデン酸を孔形成剤にする場合と殆ど同じ方法であり、塩の種類としてKBrやKClなどを用いて合成する。作製した多孔体を水銀ポロシメーターで測定した孔の分布を図 6に、その顕微鏡写真を図 7に示した。シリカゾルとKBrの混合物を600-700℃に調整したものは焼成後、塩を湯洗することによって除去し、乾燥すると20-50nm程度の極めて均質な孔をもつ多孔体を得ることができる。


顕微鏡写真においても図 7の中央の写真から判るように細かい均質な孔とシリカゲルの粒が観測され、柱は生長していない。このように従来の熱力学などが取り扱う分相では均一相の溶融体が熱力学的な平衡という意味で不安定になり、その結果2つの相に分離するが、この系では2つの微粒子が溶融しない状態で分子同士のように徐々に2つの相(厳密に言うと、固体同士が分かれているのだから"相"と呼ぶのは不適切であるが)に分かれると考えられる。
3.2. 擬分相の理論と解析
ここでは、2つの化合物が固相のまま分相する状態についての理論的および基礎実験的結果を簡単に整理して述べる。半径rの固体球粒子がその粒子の融点Tにおいて周囲の液体と熱平衡状態にある時の固体球の表面がdw molだけ融解したとする。いま、Pを外圧、⊿Vを1molの固体と液体との容積差、⊿U、⊿Sをそれぞれ1mol当たりの固・液両相間の内部エネルギーおよびエントロピー差とした時、Gibbsの自由エネルギー変化⊿Gは、式(1)で与えられる。

一方、粒径が十分に大きい時の融点T0において1mol当たりの融解熱Lは、L=⊿U+P・⊿Vであり、粒径が大きい時には右辺第二項が小さいので、その時のTがT0であることから、





一方、本章で解説する無機多孔体を調整するときに使用したKClやKBrは融点が776℃、および730℃であり、分子数10万ヶ程度の場合、融点降下は22℃程度と計算される。一般的な傾向として、金属の表面張力は比較的高く、KCl、KBrなどの無機塩の表面張力が低く、融解熱が高い。これに対してシリカは無機塩の3倍の表面張力であり、融解熱が低いという特徴を有する[10]。
シリカ/KBr固体混合物を熱処理する過程において測定したX線回折(XRD)パターンを図 9に示す。JCPDSファイル (Joint Committee on Powder Diffraction Standards) を参照して、得られた回折パターンを同定した。常温から700℃までの温度領域において観測された弱い回折パターンはKBr由来のものである。更に、760℃を越える温度領域において出現する新たな弱い回折パターンは、JCPDSファイルからシリカのクリストバライト系結晶に由来すると考えられる。また720℃-740℃の温度領域においてKBrおよびシリカは共に結晶回折パターンを示さないことからシリカゾルとKBrの分相においては2つの固体の化合物がお互いに反応することなく、溶融せずに分相していることが推定される。

本章は無機多孔体の解説を行う物ではないので、詳述を避けるが「固体のまま分相する」という現象は大変、興味あるものであり、今後の研究が期待される。
4. 無機多孔体の分散
ナノオーダーの有機無機コンポジットを調整する方法の一つに、強度をデザインできる無機有機多孔体を押出機のようにシェアーのかかる装置の中で混練し、そこにおけるシェアーがあらかじめデザインされた多孔体強度より大きくすることによって分散させる方法がある[11]。典型的には、ペレット状態の樹脂と多孔体の無機粒子を押出機や混練機に投入して粒子を粉砕する。このようなナノコンポジットの調整工程を図 10に示す。無機粒子が分散媒体である有機材料に親和性が乏しい場合には、図 10に示すように混練中に無機粒子同士が凝集するであろう事は容易に想像できる。

材料にある一定の剪断力を与えた場合、その材料が座屈するか否かはその材料の剪断強度が外部からの剪断力に対する大小による。例えば、通常の押出機の中で材料が受ける剪断力は10.8×102 MPa程度であり、これに対してスギ(24.5MPa), ポリプロピレン(39.2MPa), 板ガラス(88.2×101 MPa)などはほぼ同じ値であるが、鋳鉄は54.9×106 MPaの圧縮強度を示し、従ってスギを押出機で粉砕する試みはあっても鋳鉄を押出機の中で粉砕しようとする試みはない。
前節までに解説を加えた無機多孔体は、スピノーダル分相が進まない範囲で制御できれば、10.8MPa程度の剪断強度を持つようにできるので、押出機のような仕組で粉砕することが可能である。

図 11の左下の円弧は粉砕前の無機多孔体の粒径を模した物であるが、直径が100μmあるのでこのスケールで描くと極めて大きな粒子になる。それを押出機で分散させた結果を図の中央から右に示した。十分に検討された場合、微細に粉砕された無機粒子をプラスチック中に分散させることができ、強度などを落とさずに剛性やその他の特性を上昇させることが可能である。
この方法の問題点は、1)無機多孔体側の破砕強度の分布、2)混練機側の剪断応力分布 が大きい場合、粉砕せずに混練される微小粒子を生じることである。例えば、擬分相多孔体の破砕圧縮強度試験では図 12に示すように若干の強度のバラツキが見られる

また、押出機の剪断応力の分布について二軸混練押出機のニーディングディスク、ロータセグメントおよび連続式混練機のロータの剪断応力分布を図 13に示したが、応力側にも分布が存在する[12]。

従って、樹脂と擬分相多孔体を押出機にて混練を行った場合、断面積が小さい部分を通過してきた粒子と断面積が大きい場所を通過してきた粒子によって粒子に加わる剪断応力にばらつきが生じる。
圧縮強度試験結果である図 12は、縦軸に擬分相多孔体に加えられる圧力を示し、横軸は圧子の変位を示す。グラフが水平になっている部分はその圧力で粒子が破砕されていることを示しており、グラフが垂直になっている部分は粒子が破砕されていないことを示している。このことから図 12に示す圧縮試験結果より、擬分相多孔体粒子は均一な強度で破砕されるのではなく、破壊される強度は粒子によりばらばらである。特に押出機の温度が比較的高く、シェアーの強さが不充分な場合は、はさ入れないで混練される(図 14の左)。混練温度を調整して比較的強いシェアーがかかるようにすると図 14の右に示したようにすこし改善された分散状態が観測される。


本章では凝集強度を制御した無機多孔体を機械的剪断力で有機材料中に分散する方法に絞って詳細に解説したが、表面エネルギーを低下させるため微小粒子の表面を処理して二次凝集を防ぐと共に、ポリマーとの親和性を上げて分散させる方法も有力であり、また現実的には複数の方法を組み合わせてより良い分布を得る努力がなされる。例えば、金属酸化物の微小粒子を液相フラッシング法で製造することにより、粒子表面は界面活性剤の単分子層で覆われており、そのため二次凝集を起こし難く、ポリマー中に分散しやすい状態となる[13]。この方法で製造した粒子径約10nmの微小粒子TiO2を、PPに3.5wt%の割合で溶融混練して作製したフィルムは、透明であり、機械的・熱的性質を測定した結果は元のPPに比べて曲げ弾性率約20%増、衝撃強さ約40%増、熱変形温度7℃上昇という結果が得られている[14]。また、10nm程度の微細なシリカが均一に分散されたアクリル樹脂系ハードコート剤がある。粒子径約10nmのコロイダルシリカ粒子の表面に光重合性のアクリル成分を結合させておき、光硬化性アクリル系ハードコート剤の中に分散させたものである[15]。その模式図を図 15に示す。

紫外線照射により硬化反応が起こって、樹脂と化学結合したシリカのナノスケールの粒子が均一に分散した網状架橋塗膜が形成される。更に50-110nmのシリカ微小粒子をアミノ酪酸で表面処理してからε-カプラミド中に分散させ、これを重合してPA6/シリカ・ナノコンポジットを合成した例がある[16]。
おわりに
この多孔体を使って樹脂に分散させる前に、触媒を溶解した溶液に浸し、乾燥して多孔体の表面に触媒を展着させ、それを樹脂中に分散させると樹脂に溶解しない金属や金属酸化物を樹脂中に微分散させることもできる。このようにして作成された樹脂は微量の添加量がきわめて有効に作用する(トリガー効果)場合が認められるが、本章で解説するナノコンポジットの範囲を超えるので、割愛した。このほかこのナノコンポジットの応用用途が今後開拓されていくと思う。
また、「発想の逆転」という言葉があるが、「強い無機多孔体」というのは役に立つが、「脆い無機多孔体」は役に立たないというのが常識的だろう。この研究の最初の段階での学会発表では「弱いことを特徴とする多孔体なんか研究しても無駄ではないか」と指摘を受けたことを思い出す。
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参考文献
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2-4) 田村堅志, 中沢弘基:高分子ABC研究会予稿集, p.1 (1994)
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8) 今泉公夫, 武田邦彦ら:資源と素材, Vol. 118, No.3,4, p.202-205, (2002)
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10) M.Takagi:J.Phy.Soc.Jpn.,Vol.55,p.3484(1986)
11) 武田邦彦:"ポリマー系ナノコンポジットの最新技術と応用," シーエムシー, p.159-167, (2001)
12) 船津和守:"高分子・複合材料の成形加工," 信山社, p.189-212, (1992)
13) 伊藤征司郎:表面, Vol. 25, p. 562, (1987)
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15) 宇加地孝志:機能材料, Vol. 19, No. 7, p. 34, (1999)
16) F.Wang et al:J. Apply. Poly. Sci., Vol. 69, p. 355, (1998)