12 SnとCuの界面概論
Fentonによると「はんだ」は330℃(800F)以下の温度で2種の金属を接合すると定義される。そしてはんだで2種の金属を接合する具体的な手順は、① はんだの成分が金属の上に広がり、金属表面を「濡らす」状態にする。 ② 引き続きはんだが2種の金属表面の接合面全体に広がる。 ③ 金属とはんだが組織的な結合を行う。 の3つの段階にThwaitesが整理している。
はんだの問題はCuなどの基体との間にできる接合面であるが、それは接合面の形状、組成、金属化合物の生成などによって様々であり、どのような接合面ができるかではんだの性能の多くが決定される。 また最近では集積回路などの微細加工を要するはんだ付けが必要となってきたが、そのような場合には従来の基体金属との間の界面の他に、周辺の絶縁材料との相互作用も問題である。特に絶縁材料が有機材料の時にははんだに用いる元素が有機材料中に拡散し、その影響で有機材料が著しく劣化し絶縁破壊を起こす可能性もある。
R 121 Fenton, E.A., “Soldering Manual”, American Welding Society, Chapter 1 , New York, (1959))
R 122 Thwaites, C. J. “Soft-Soldering Manual”, International Tin Research Institute, Middle-sex, UK (1982)
はんだと基体金属の2つの金属材料が接触すると、接合した瞬間には全く異なる組成の2つの材料が接合面で接触する。この状態は熱力学的に不安定であり、2つの金属は互いに拡散して界面での組成が連続するように働く。その結果、相互の金属元素が混合し新たな金属化合物を形成する。
Photo 12-1 Sn-PbはんだとCuの界面の状態
Sn-37PbのはんだとCuが基体金属材料の場合、Snの組成でははんだ側がSn=100であるのに対してCu側は最初はSn=0である。Snは接合と共にCu側に拡散し、はんだ側ではCu6Sn5(η-phase;原子の比でSn=0.45)の組成の金属化合物が生成し、Cu側ではCu3Sn(ε-phase;原子の比でSn=0.25)の組成の金属化合物が生成する。
R 123 Manko,1979; Davis,1982, Woodgate,1983
Figure 12-1 Sn-Cu状態図
R 124 Frear, D., Morgan, H., Burchett, S., and Lau, J.,Edi., “The Mechnics of Solder Alloy; Interconnects”, Van Nostrand Reinhold, New York (1994)
次にSn-37PbはんだとCuの界面にCu6Sn5、Cu3Snが成長していく写真をPhoto 12-2に示す。界面に層状に成長する化合物の色の薄い方がCu6Sn5であり、少し濃く見える方がCu3Snである。
Photo 12-2 Sn-37PbはんだとCuの界面にCu6Sn5、Cu3Snが成長していく写真
R 125 Tribula, D., and Morris, J. W., ASME Journal of Electronic Packaging, 112-87 (1990)
Cu6Sn5の化合物が界面で成長していく様子をより詳細に撮った写真を示した。接合直後の1日目には界面にははんだとCuが直接接している。一日目には既に写真では白い界面相が見られ、それが徐々にはんだ側に増加しているのが観測される。
4日目には界面のCu側に僅かではあるが灰色の界面相が見える。この界面相はその後徐々に増大して16日目にははっきりとした界面を形成する。はじめに生成した白い界面も二次的に生成した灰色の界面も共に徐々に厚くなっていく。54日目にはそれぞれの層は相当の厚みとなる。
これがはんだと導電体の間にできる界面であり、金属間化合物からなる。この性質が優れていれば界面の成長は問題にならないが力学的及び電気的に不足していれば問題になろう。そして54日という日にちは信頼性という意味では大変短いと言うことも併せて認識する必要があろう。
接合面を更に拡大して観測すると、界面から柱状の化合物がはんだの相に向かって成長することが判る。下の写真はその様子を綺麗に撮影している。
Photo 12-3Cu界面からのCu6Sn5の成長
Cu3Snの方は少し珍しいはんだ組成であるが、95Pb-5Sn見やすい写真があるのでそれをPhoto 12-4に示した。顕微鏡写真ではやや灰色に見える化合物が第2段階でできるCu3Snでありいかにも力学的特性が悪そうな界面が撮影されている。
R 126 Grivas, D., Frear, D. R., Quan, I., and Morris, J. W. Jr., J. Electronic Mater. Vol.15, p.355 (1986)
Photo 12-4 Cu3Sn(95Pb-5Sn界面)
接合面での金属間化合物の成長はCuがはんだの中に拡散していき、そこでCu6Sn5を形成していく。その様子をPhoto 12-5に示す。はんだの内部に侵入したCuはスズと金属間化合物を生成し、その結晶は徐々に大きくなる。
Photo 12-5 Cu6Sn5
R 127 Mei, A., Sunwoo, A. J., and Morris, J. W.,Jr., Metall. Trans. A. Vol 23A, p.857 (1992)
界面の分析による定量的な観察が行われている。界面の元素分析ではに示すようにCu3Sn,Cu6Sn5が観測される。
Figure 12-2 Cu-Sn界面の定量的観測( TMSB588)
この化合物の拡散速度は比較的小さく、400日で100℃の時4μmにしかならない。
Figure 12-3 Cu6Sn5の成長速度(TMSB589)
二つの金属間化合物の中でCu3Snのみに注目して見るとその成長は当然の事ながら2層を観察したときよりも小さい。
Figure 12-4 Cu3Snの成長速度(TMSB590)
界面化合物の見かけの活性化エネルギーは全体で、66kJ/mol. Cu3Snで43kJ/molである。Cu-Sn間の化合物の生成がPbの存在やその他の元素の存在に依存しなければはんだの界面の問題はCu-Sn, Cu-Ni, Cu-Auなどの基体金属とSnとの単独の問題になり簡単であるが、必ずしもそうではない。
例えばCu3Snの場合、Sn単独のものの場合には400日間,170℃の場合15μm成長するが、Figure 12-5のようにSn-37PbはんだとCuの場合の成長では170℃でわずか4日で成長が止まり、その厚みは30ミクロンと極めて速い。
Figure 12-5 Cu3Snの成長飽和 (TMSB591)
見かけの活性化エネルギーも界面全体で45kJ/mol. Cu3Snだけでは21kJ/mol. となりSn単独の時より小さな値を示している。これはCu-Snの化合物の生成にPbが関与していることを表している。以上の結果をまとめたものをTable 12-1に示す。
Table 12-1 見かけの活性化エネルギ (TMSB594)
(キーワード: Sn、Cu、界面、名古屋大学 武田邦彦)
Fentonによると「はんだ」は330℃(800F)以下の温度で2種の金属を接合すると定義される。そしてはんだで2種の金属を接合する具体的な手順は、① はんだの成分が金属の上に広がり、金属表面を「濡らす」状態にする。 ② 引き続きはんだが2種の金属表面の接合面全体に広がる。 ③ 金属とはんだが組織的な結合を行う。 の3つの段階にThwaitesが整理している。
はんだの問題はCuなどの基体との間にできる接合面であるが、それは接合面の形状、組成、金属化合物の生成などによって様々であり、どのような接合面ができるかではんだの性能の多くが決定される。 また最近では集積回路などの微細加工を要するはんだ付けが必要となってきたが、そのような場合には従来の基体金属との間の界面の他に、周辺の絶縁材料との相互作用も問題である。特に絶縁材料が有機材料の時にははんだに用いる元素が有機材料中に拡散し、その影響で有機材料が著しく劣化し絶縁破壊を起こす可能性もある。
R 121 Fenton, E.A., “Soldering Manual”, American Welding Society, Chapter 1 , New York, (1959))
R 122 Thwaites, C. J. “Soft-Soldering Manual”, International Tin Research Institute, Middle-sex, UK (1982)
はんだと基体金属の2つの金属材料が接触すると、接合した瞬間には全く異なる組成の2つの材料が接合面で接触する。この状態は熱力学的に不安定であり、2つの金属は互いに拡散して界面での組成が連続するように働く。その結果、相互の金属元素が混合し新たな金属化合物を形成する。

Sn-37PbのはんだとCuが基体金属材料の場合、Snの組成でははんだ側がSn=100であるのに対してCu側は最初はSn=0である。Snは接合と共にCu側に拡散し、はんだ側ではCu6Sn5(η-phase;原子の比でSn=0.45)の組成の金属化合物が生成し、Cu側ではCu3Sn(ε-phase;原子の比でSn=0.25)の組成の金属化合物が生成する。
R 123 Manko,1979; Davis,1982, Woodgate,1983

R 124 Frear, D., Morgan, H., Burchett, S., and Lau, J.,Edi., “The Mechnics of Solder Alloy; Interconnects”, Van Nostrand Reinhold, New York (1994)
次にSn-37PbはんだとCuの界面にCu6Sn5、Cu3Snが成長していく写真をPhoto 12-2に示す。界面に層状に成長する化合物の色の薄い方がCu6Sn5であり、少し濃く見える方がCu3Snである。

R 125 Tribula, D., and Morris, J. W., ASME Journal of Electronic Packaging, 112-87 (1990)
Cu6Sn5の化合物が界面で成長していく様子をより詳細に撮った写真を示した。接合直後の1日目には界面にははんだとCuが直接接している。一日目には既に写真では白い界面相が見られ、それが徐々にはんだ側に増加しているのが観測される。
4日目には界面のCu側に僅かではあるが灰色の界面相が見える。この界面相はその後徐々に増大して16日目にははっきりとした界面を形成する。はじめに生成した白い界面も二次的に生成した灰色の界面も共に徐々に厚くなっていく。54日目にはそれぞれの層は相当の厚みとなる。
これがはんだと導電体の間にできる界面であり、金属間化合物からなる。この性質が優れていれば界面の成長は問題にならないが力学的及び電気的に不足していれば問題になろう。そして54日という日にちは信頼性という意味では大変短いと言うことも併せて認識する必要があろう。
接合面を更に拡大して観測すると、界面から柱状の化合物がはんだの相に向かって成長することが判る。下の写真はその様子を綺麗に撮影している。

Cu3Snの方は少し珍しいはんだ組成であるが、95Pb-5Sn見やすい写真があるのでそれをPhoto 12-4に示した。顕微鏡写真ではやや灰色に見える化合物が第2段階でできるCu3Snでありいかにも力学的特性が悪そうな界面が撮影されている。
R 126 Grivas, D., Frear, D. R., Quan, I., and Morris, J. W. Jr., J. Electronic Mater. Vol.15, p.355 (1986)

接合面での金属間化合物の成長はCuがはんだの中に拡散していき、そこでCu6Sn5を形成していく。その様子をPhoto 12-5に示す。はんだの内部に侵入したCuはスズと金属間化合物を生成し、その結晶は徐々に大きくなる。

R 127 Mei, A., Sunwoo, A. J., and Morris, J. W.,Jr., Metall. Trans. A. Vol 23A, p.857 (1992)
界面の分析による定量的な観察が行われている。界面の元素分析ではに示すようにCu3Sn,Cu6Sn5が観測される。

この化合物の拡散速度は比較的小さく、400日で100℃の時4μmにしかならない。

二つの金属間化合物の中でCu3Snのみに注目して見るとその成長は当然の事ながら2層を観察したときよりも小さい。

界面化合物の見かけの活性化エネルギーは全体で、66kJ/mol. Cu3Snで43kJ/molである。Cu-Sn間の化合物の生成がPbの存在やその他の元素の存在に依存しなければはんだの界面の問題はCu-Sn, Cu-Ni, Cu-Auなどの基体金属とSnとの単独の問題になり簡単であるが、必ずしもそうではない。
例えばCu3Snの場合、Sn単独のものの場合には400日間,170℃の場合15μm成長するが、Figure 12-5のようにSn-37PbはんだとCuの場合の成長では170℃でわずか4日で成長が止まり、その厚みは30ミクロンと極めて速い。

見かけの活性化エネルギーも界面全体で45kJ/mol. Cu3Snだけでは21kJ/mol. となりSn単独の時より小さな値を示している。これはCu-Snの化合物の生成にPbが関与していることを表している。以上の結果をまとめたものをTable 12-1に示す。

(キーワード: Sn、Cu、界面、名古屋大学 武田邦彦)
13へつづく