11 SnInAgZnのミクロ構造
11.1 Sn-52Inのミクロ構造
52In-48Snの場合は重量組成比はお互いに類似しているものの、比重を換算した容積比は となるので、Snが連続相を形成し、その中にInが分散している。しかし、Photo 111の無鉛はんだも大きくは組成が違わないので、Sn-Pbはんだと類似した構造をしている。
Photo 111 52In-48Sn
Sn-52Inは常にこのような構造をしているかというとそうでもない。Cu板やNi板の間に挟んでゆっくりと冷却していくと細かいミクロ構造が得られる。
11.2 Sn-3.5Agのミクロ構造
Agを含む無鉛はんだとして多く研究されている材料に、3.5An-Snがあるがこの場合にはSnが圧倒的に多いのでSnの相の中にAgが分散する構造になる(Photo 112)。
Photo 112 3.5Ag-Sn
無鉛はんだ組成の共晶はんだを共晶温度から徐々に冷却するとPhoto 112に見られるような組織を形成するが、この組織は必ずしも安定ではない。X線回折パターンによって基本構造に関する知見を得ることができる。
Figure 11-1 Sn-Ag合金のX線回折パターン
R 11-1 大塚正久、芝浦工業大学、used by permission of Dr. Ootsuka)
11.3 3成分系のミクロ構造
3成分系でミクロ構造を変化させ、融点の変化と併せて目的の特性を持つはんだ材料を得ようとする試みは多い。Sn-9Zn系にAg,Inを、またSn-3.5Ag系にZn,Cuを加えた系に付いての研究がされている。
異なった元素間の面積が大きく、従って経時的な構造変化を起こすのでそれを何らかの手段で制御しようとする試みがある。Sn-37Pb共晶はんだの融点は183℃であり、これに対してSn-57Bi共晶はんだの融点は139℃と大変低い。
はんだが接合に用いられ、それによって組み立てられた部品や電子機器などが使われる温度はしばしば100℃、またはそれ以上の温度になる。融点が139℃の金属が100℃でもちいられるのであるから、力学的な負荷を受けることによってSn-57Bi共晶合金のミクロ構造の変化が著しい特徴があるのは頷けることである。
ミクロ構造の変化は最初の構造からより望ましい方向に進むのはまれで、多くの場合に力学的特性を著しく悪くする方向へと変化する。このSn-57Biの場合にもミクロ構造は「粗」な方向へと変化し、特性は著しく低下する。特にSn-57Biの場合には融点と使用温度が接近しているばかりでなく、Figure 11-2の相図の点からも構造の粗大化の原因がある。
Figure 11-2 Sn-Bi相図(Smithells)
Sn-57Bi合金を共晶組成から素早く室温まで冷却したものは、大変規則的なラメラ構造が見られる。
この合金を100℃に保つと、Snの富んだ相ではβ-Sn相が大きな領域として発生し、その中にBiが溶解する。およそ10%程のBiがβ-Sn相に溶解する。この材料の顕微鏡の像をPhoto 113に示す。
Photo 113 β-SnにBiが溶解
この状態のはんだを室温まで冷却すると、β-Snのなかに溶けていたBiが析出する。この様な構造に変化したSn-57Biは力学的特性、特にクリープ特性などが著しく低下する。何故このような組織になる下というと状態図との関係での様になるからである。
Figure 11-3 Sn-Bi系での組織の粗大化と状態図の関係(TMSA736)
アメリカAT&TのS.JinらはこのSn-57Biに2.5wt%に相当するFeの微粉を混入してミクロ組織の粗大化の改良を行っている。Feの粉は平均して2ミクロンの粒径を持つ粒状の極めて小さな粒子でそれをSn-57Biに分散する。
分散の方法は単に混合したり、溶融したはんだの中に浮遊させ、周りに強力な磁石をおいてFeの微粒子を適当にはんだの中に分散させるなどの工夫を凝らしている。磁場を与えたときの溶融はんだの中のFeの微粒子の分散についてS.Jinらの図をそのままFigure 11-4に示す。
Figure 11-4 S.Jin p.737 分散の図(TMSA737A)
R 11-2 Jin, S., and McCormack, M., J. Electronic Materials, Vol.23, No.8 p.735 (1994)
溶融はんだとFeの微粒子を混ぜた直後にはFigure 11-4の左のように均一に分散しているが、重力によって直ぐ分離する。そのために混合直後に磁場を掛けてFeの微粒子を分散させる。粒子が十分に小さく、磁場が大きいときには右の図のようにFeの微粒子が分散しつつ連続的に繋がっているようなミクロ構造を有する材料を作ることができる。
このはんだについてFeとの混合直後とクリープ試験を行った後のミクロ構造を観測するとPhoto 114のようにミクロ構造の変化が見られる。
Photo 114 TMSA737B
Sn-57Biの共晶組成のミクロ構造はPhoto 114に示したように綺麗なラメラ構造が見られるが、クリープ試験後のミクロ構造はSnの大きな相が分散し、組織の粗大化が見られる。これに対して、 Sn-57Biに2.5%のFeを混合し、分散状態を磁場で制御した場合には合成直後にはFeが分散していることが判るが、クリープ試験後も比較的粗大化が抑制されることが判る。
粗大化が抑制されると言うことは多くの場合力学的特性が向上するが、S.Jinらもクリープ試験の結果著しい改良を観測している。即ち、100℃、12hr、1ksiの条件でクリープ試験を行うと少なくとも5倍は改善が認められる。
Figure 11-5 Jinらの方法で磁化鉄を分散したものの効果(TMSA738)
このFeの微粒子の混入によるミクロ構造の制御は次のようなメカニズムが考えられる。まず共晶組成でSn-57Biが冷却されるときにFeは結晶粒を作るときの種になっていること、Feが粒界に存在することによって粗大化に伴う粒界の移動を阻害すること、さらにFeが少量ではあるがSn相に溶解しその結果BiがSnに溶解する割合を減少させる可能性もある。
(キーワード: Sn-In、ミクロ構造、名古屋大学 武田邦彦)
11.1 Sn-52Inのミクロ構造
52In-48Snの場合は重量組成比はお互いに類似しているものの、比重を換算した容積比は となるので、Snが連続相を形成し、その中にInが分散している。しかし、Photo 111の無鉛はんだも大きくは組成が違わないので、Sn-Pbはんだと類似した構造をしている。

Sn-52Inは常にこのような構造をしているかというとそうでもない。Cu板やNi板の間に挟んでゆっくりと冷却していくと細かいミクロ構造が得られる。
11.2 Sn-3.5Agのミクロ構造
Agを含む無鉛はんだとして多く研究されている材料に、3.5An-Snがあるがこの場合にはSnが圧倒的に多いのでSnの相の中にAgが分散する構造になる(Photo 112)。

無鉛はんだ組成の共晶はんだを共晶温度から徐々に冷却するとPhoto 112に見られるような組織を形成するが、この組織は必ずしも安定ではない。X線回折パターンによって基本構造に関する知見を得ることができる。

R 11-1 大塚正久、芝浦工業大学、used by permission of Dr. Ootsuka)
11.3 3成分系のミクロ構造
3成分系でミクロ構造を変化させ、融点の変化と併せて目的の特性を持つはんだ材料を得ようとする試みは多い。Sn-9Zn系にAg,Inを、またSn-3.5Ag系にZn,Cuを加えた系に付いての研究がされている。
異なった元素間の面積が大きく、従って経時的な構造変化を起こすのでそれを何らかの手段で制御しようとする試みがある。Sn-37Pb共晶はんだの融点は183℃であり、これに対してSn-57Bi共晶はんだの融点は139℃と大変低い。
はんだが接合に用いられ、それによって組み立てられた部品や電子機器などが使われる温度はしばしば100℃、またはそれ以上の温度になる。融点が139℃の金属が100℃でもちいられるのであるから、力学的な負荷を受けることによってSn-57Bi共晶合金のミクロ構造の変化が著しい特徴があるのは頷けることである。
ミクロ構造の変化は最初の構造からより望ましい方向に進むのはまれで、多くの場合に力学的特性を著しく悪くする方向へと変化する。このSn-57Biの場合にもミクロ構造は「粗」な方向へと変化し、特性は著しく低下する。特にSn-57Biの場合には融点と使用温度が接近しているばかりでなく、Figure 11-2の相図の点からも構造の粗大化の原因がある。

Sn-57Bi合金を共晶組成から素早く室温まで冷却したものは、大変規則的なラメラ構造が見られる。
この合金を100℃に保つと、Snの富んだ相ではβ-Sn相が大きな領域として発生し、その中にBiが溶解する。およそ10%程のBiがβ-Sn相に溶解する。この材料の顕微鏡の像をPhoto 113に示す。

この状態のはんだを室温まで冷却すると、β-Snのなかに溶けていたBiが析出する。この様な構造に変化したSn-57Biは力学的特性、特にクリープ特性などが著しく低下する。何故このような組織になる下というと状態図との関係での様になるからである。

アメリカAT&TのS.JinらはこのSn-57Biに2.5wt%に相当するFeの微粉を混入してミクロ組織の粗大化の改良を行っている。Feの粉は平均して2ミクロンの粒径を持つ粒状の極めて小さな粒子でそれをSn-57Biに分散する。
分散の方法は単に混合したり、溶融したはんだの中に浮遊させ、周りに強力な磁石をおいてFeの微粒子を適当にはんだの中に分散させるなどの工夫を凝らしている。磁場を与えたときの溶融はんだの中のFeの微粒子の分散についてS.Jinらの図をそのままFigure 11-4に示す。

R 11-2 Jin, S., and McCormack, M., J. Electronic Materials, Vol.23, No.8 p.735 (1994)
溶融はんだとFeの微粒子を混ぜた直後にはFigure 11-4の左のように均一に分散しているが、重力によって直ぐ分離する。そのために混合直後に磁場を掛けてFeの微粒子を分散させる。粒子が十分に小さく、磁場が大きいときには右の図のようにFeの微粒子が分散しつつ連続的に繋がっているようなミクロ構造を有する材料を作ることができる。
このはんだについてFeとの混合直後とクリープ試験を行った後のミクロ構造を観測するとPhoto 114のようにミクロ構造の変化が見られる。

Sn-57Biの共晶組成のミクロ構造はPhoto 114に示したように綺麗なラメラ構造が見られるが、クリープ試験後のミクロ構造はSnの大きな相が分散し、組織の粗大化が見られる。これに対して、 Sn-57Biに2.5%のFeを混合し、分散状態を磁場で制御した場合には合成直後にはFeが分散していることが判るが、クリープ試験後も比較的粗大化が抑制されることが判る。
粗大化が抑制されると言うことは多くの場合力学的特性が向上するが、S.Jinらもクリープ試験の結果著しい改良を観測している。即ち、100℃、12hr、1ksiの条件でクリープ試験を行うと少なくとも5倍は改善が認められる。

このFeの微粒子の混入によるミクロ構造の制御は次のようなメカニズムが考えられる。まず共晶組成でSn-57Biが冷却されるときにFeは結晶粒を作るときの種になっていること、Feが粒界に存在することによって粗大化に伴う粒界の移動を阻害すること、さらにFeが少量ではあるがSn相に溶解しその結果BiがSnに溶解する割合を減少させる可能性もある。
(キーワード: Sn-In、ミクロ構造、名古屋大学 武田邦彦)
12につづく