9 Sn-Pb共晶はんだ以外のミクロ構造
9.1 Sn-Pb非共晶はんだのミクロ構造
共晶組成と異なるSn-Pbを溶融状態からゆっくりと冷却していくと、α-Lの領域に入り、ゆっくりと共晶組成の固相を析出しながら固まる。そのため、非共晶組成のはんだでは、「共晶組成と同様の組織」と「SnかPbの単独の相」の二つに分かれる。
Figure 91 単純化したSn-Pbの相図
はんだの状態図の詳しい図は基礎のところで掲載したが、それを簡単に書けばFigure 3-1のようになっている。
Photo 91は50Sn-50Pbのはんだの組織写真であり、共晶組成になっている部分はFigure 91と同様の構造をしており、その中に過剰のPbの相がまとまって浮いている。
R 91 Summers, T.S.E., Ph.D. Thesis, University of Califormia at Berkeley, May, (1991)
Photo 92ではSn=50%の組成のはんだを冷却したときの組織を示したが小さなPbの粒状物が共晶組成のはんだの組織の中に分散したものが得られる。
Photo 92 Sn=50%の組成のはんだ組織
Photo 92ではSn-40%になるとPbの粒状物はその数を増やし合一して大きな粒も見られるようになるのが観測される。
Photo 93 Sn=40%のはんだ組織
さらにPbの割合が増大してSn=20%になるとPhoto 93の様に共晶構造はわずかにPbの粒子の周りに存在するに過ぎなくなる。
Photo 94 Sn=20%の組織図
9.2 第三成分を添加したときのSn-37Pb系の構造
Sn/Pb系に第三成分を溶解して組織を変化させる研究もなされている。58%Sn-40%Pbに2%のSb, Bi, In, Cdを添加したときの構造をPhoto 95以下に示す。
Photo 95 58%Sn-40%Pb-2%Sb
Sn-Pbに2%のSbを添加したものであるが、不均一な組織になっている。
Photo 96 58%Sn-40%Pb-2%Bi
Sn-Pbに2%のBiを添加したものであるが、これも不均一な組織である。
Photo 97 58%Sn-40%Pb-2%In
Sn-PbにCdを2%添加した組織をPhoto 98に示す。
Photo 98 58%Sn-40%Pb-2%Cd
Sn-37Pbに第三成分を添加した場合、この三枚の写真より組織が均一なものも得られる。主に融点を変化させる目的で使用される。
9.3 実装状態でのSn-37Pbはんだの構造
実装状態では Cuやその他の金属が周辺にあり、冷却状態も様々である。そのため実装状態でのはんだの構造はモデル的に研究したときの構造とはかなり異なる。そのためはんだの構造をいったんは基礎的に研究して組成や冷却速度との関係を取り、その後基礎的な構造の判っているはんだを実装状態で接合しその部分を切り取って構造を調べる。そうすると全く別の構造にぶつかるのである。
その1つの例が前に上げた小さなスポットのはんだの構造であるが、それが共晶組成のはんだをゆっくり冷却したものと似ても似つかぬものであることには驚かされる。ここではまずCu板の間の共晶組成のSn-37Pbはんだの構造をPhoto 99に示した。
Photo 99 Cu板の間のSn-37Pbはんだの構造
共晶組成にも拘わらずPhoto 99では黒い斑点状のPbの島が観測され、組織も均一ではない。この写真はそれでもモデル的に Cu板の間に挟んで冷却したものであるが、実際のはんだ付けした後の構造をPhoto 910に示す。
Photo 910 実際のCuの間のはんだの構造
CuとSn系のはんだの界面ではCu3SbやCu6Sn5などの金属間化合物が生成することが知られており、更に合金構造は複雑になる。
R 92 Frear, D., D. Grivas, J.W. Morris, Jr., J. Elect. Mat., Vol.17, p.171 (1988)
R 93 Frear, D. D., et. al., J. Met. Vol.40, p.18 (1988)
金属間化合物のうちCu6Sn5を拡大してみると、Photo 912を得る。
Photo 912 Cu6Sn5の拡大写真
R 94 Tribula, D., D. Grivas, D., Frear, and J.W. Morris,Jr., Weld. J.Res. Supp., Vol.68, p.404s (1989)
Photo 912の中央が金属間化合物で白く見えるところがPbリッチ相、白いところがSnリッチ相である。力学的な測定をするとFrearらの測定したCuとの界面に見られる柱状の金属間化合物の界面で破壊が見られる。そうなるとはんだの強度は冷却速度、粒子の大きさ、界面の形状、金属間化合物の発達などに強く依存することになる。それはいわば当然のことであり、更に経時的にその構造が変化して粗大化しあるいは界面での化合物の成長が見られ、そこからクリープあるいは疲労破断という問題が起こる。
その時に元々のはんだの構造、即ちSn-37Pbにおいては慎重に共晶組成の合金を調整し、それを溶融してゆっくりと冷却して材料は何を意味しているのであろうか。あまりそればかりを議論すると実装を行っている実務家の技術者は架空の議論に聞こえるであろう。
しかし一方ではそれでも理想的なはんだの構造が最終的な実装時の性能を決めることも確かである。実装性能をその構造ではほど遠い理想的条件で作成されたはんだの構造から議論しなければならないところに堂々巡りをする可能性が含まれている。
無鉛はんだはSn-37Pbはんだより数も多いし研究例も少ない。したがって数種の無鉛はんだを比較するときとかくその理想的な条件、即ち大量のはんだ材料を慎重に調整し、それをゆっくりと冷却した材料の構造を観測することになる。一つ一つの無鉛はんだをSn-37Pbほどのデーターを取ることにはならないからである。その点を十分に考えながら次の節を見る必要があろう。
(キーワード: Sn-Pb、共晶、ミクロ構造、名古屋大学 武田邦彦)
9.1 Sn-Pb非共晶はんだのミクロ構造
共晶組成と異なるSn-Pbを溶融状態からゆっくりと冷却していくと、α-Lの領域に入り、ゆっくりと共晶組成の固相を析出しながら固まる。そのため、非共晶組成のはんだでは、「共晶組成と同様の組織」と「SnかPbの単独の相」の二つに分かれる。

はんだの状態図の詳しい図は基礎のところで掲載したが、それを簡単に書けばFigure 3-1のようになっている。
Photo 91は50Sn-50Pbのはんだの組織写真であり、共晶組成になっている部分はFigure 91と同様の構造をしており、その中に過剰のPbの相がまとまって浮いている。

Photo 91 非共晶はんだの光学顕微鏡写真
Photo 92ではSn=50%の組成のはんだを冷却したときの組織を示したが小さなPbの粒状物が共晶組成のはんだの組織の中に分散したものが得られる。

Photo 92ではSn-40%になるとPbの粒状物はその数を増やし合一して大きな粒も見られるようになるのが観測される。

さらにPbの割合が増大してSn=20%になるとPhoto 93の様に共晶構造はわずかにPbの粒子の周りに存在するに過ぎなくなる。

9.2 第三成分を添加したときのSn-37Pb系の構造
Sn/Pb系に第三成分を溶解して組織を変化させる研究もなされている。58%Sn-40%Pbに2%のSb, Bi, In, Cdを添加したときの構造をPhoto 95以下に示す。

Sn-Pbに2%のSbを添加したものであるが、不均一な組織になっている。

Sn-Pbに2%のBiを添加したものであるが、これも不均一な組織である。

Sn-PbにCdを2%添加した組織をPhoto 98に示す。

Sn-37Pbに第三成分を添加した場合、この三枚の写真より組織が均一なものも得られる。主に融点を変化させる目的で使用される。
9.3 実装状態でのSn-37Pbはんだの構造
実装状態では Cuやその他の金属が周辺にあり、冷却状態も様々である。そのため実装状態でのはんだの構造はモデル的に研究したときの構造とはかなり異なる。そのためはんだの構造をいったんは基礎的に研究して組成や冷却速度との関係を取り、その後基礎的な構造の判っているはんだを実装状態で接合しその部分を切り取って構造を調べる。そうすると全く別の構造にぶつかるのである。
その1つの例が前に上げた小さなスポットのはんだの構造であるが、それが共晶組成のはんだをゆっくり冷却したものと似ても似つかぬものであることには驚かされる。ここではまずCu板の間の共晶組成のSn-37Pbはんだの構造をPhoto 99に示した。

共晶組成にも拘わらずPhoto 99では黒い斑点状のPbの島が観測され、組織も均一ではない。この写真はそれでもモデル的に Cu板の間に挟んで冷却したものであるが、実際のはんだ付けした後の構造をPhoto 910に示す。

CuとSn系のはんだの界面ではCu3SbやCu6Sn5などの金属間化合物が生成することが知られており、更に合金構造は複雑になる。

Photo 911 Cuとの界面の構造
R 92 Frear, D., D. Grivas, J.W. Morris, Jr., J. Elect. Mat., Vol.17, p.171 (1988)
R 93 Frear, D. D., et. al., J. Met. Vol.40, p.18 (1988)
金属間化合物のうちCu6Sn5を拡大してみると、Photo 912を得る。

R 94 Tribula, D., D. Grivas, D., Frear, and J.W. Morris,Jr., Weld. J.Res. Supp., Vol.68, p.404s (1989)
Photo 912の中央が金属間化合物で白く見えるところがPbリッチ相、白いところがSnリッチ相である。力学的な測定をするとFrearらの測定したCuとの界面に見られる柱状の金属間化合物の界面で破壊が見られる。そうなるとはんだの強度は冷却速度、粒子の大きさ、界面の形状、金属間化合物の発達などに強く依存することになる。それはいわば当然のことであり、更に経時的にその構造が変化して粗大化しあるいは界面での化合物の成長が見られ、そこからクリープあるいは疲労破断という問題が起こる。
その時に元々のはんだの構造、即ちSn-37Pbにおいては慎重に共晶組成の合金を調整し、それを溶融してゆっくりと冷却して材料は何を意味しているのであろうか。あまりそればかりを議論すると実装を行っている実務家の技術者は架空の議論に聞こえるであろう。
しかし一方ではそれでも理想的なはんだの構造が最終的な実装時の性能を決めることも確かである。実装性能をその構造ではほど遠い理想的条件で作成されたはんだの構造から議論しなければならないところに堂々巡りをする可能性が含まれている。
無鉛はんだはSn-37Pbはんだより数も多いし研究例も少ない。したがって数種の無鉛はんだを比較するときとかくその理想的な条件、即ち大量のはんだ材料を慎重に調整し、それをゆっくりと冷却した材料の構造を観測することになる。一つ一つの無鉛はんだをSn-37Pbほどのデーターを取ることにはならないからである。その点を十分に考えながら次の節を見る必要があろう。
(キーワード: Sn-Pb、共晶、ミクロ構造、名古屋大学 武田邦彦)
10に続く