身近な気温はどうなってるのか?
地球温暖化はペットボトルのリサイクルと違って地球規模の変化なので、視野を少し広げておく必要がある。そこで少しまどろっこしかったが、長い地球の歴史を気温と生物の絶滅に焦点を合わせて説明をしてきた。
今回から少し身近なことに注意してもう一度、気温の動きを観察してみたい。
日本の気温の変化。下の図に気象庁のデータを示すが、1900年以来、日本の気温も徐々に高くなってきている。そして特に最近の10年間は気温の上昇が顕著である。例えば、2004年の日本の年平均地上気温の平年差は+1.01℃で、1898年の統計開始以来2番目に高い値であった。
気象では平年との差を問題にすることが多いが、平年との差がプラス側に大きかった年を順番にあげると、1990年(+1.04℃)、2004年(+1.01℃)、1998年(+0.98℃)、1994年(+0.82℃)、 1999年(+0.76℃)、2002年(+0.53℃)、2000年(+0.52℃)、1979年(+0.50℃)となっている。
今から100年前の1900年もかなり暑い年で、2004年の平均より暑いのだから、あまり慌てずに慎重に考えなければいけないが、少しずつ暑くなっていることは確かだろう。
次に日本には四季があり、気温の上昇も夏と冬ではかなり違うので、それを分けて整理してみる。
まず夏の気温だが、下の図に示したように今から80年前の1920年までは寒かったが、それ以後あまり変化していない。つまり「夏が暑い」というのは最近のことではなく、かなり昔からだ。このことについては都市のヒートアイランド現象との関係があり、少し解説が必要だが、まず「日本全体の夏の気温はあまり変わっていない」と言うことを知っておくのは役に立つ。
それに対して日本の冬はこの100年間で二段階かけて暑くなっている。まず第一の変化は太平洋戦争が終わった後の1945年から1950年にかけて急激に気温が高くなったことで、この時の気温差はわずか3年程度で1.5℃ですから相当なものだ。また第二回目は1985年から1990年にかけて気温が上がり、このときもわずか4年程度で2℃近く上昇した。
確かに少し前の日本の冬は、周期的に大豪雪があり、冬の朝にはガラスにびっしりと氷の結晶が見られ、外に出ると霜柱を踏んだものだった。それから考えるとかなり最近では暖かい感じがする。そんな体感としての気温に加えて、このグラフには興味ある事実が見られる。
まず第一に、なぜ1950年頃と、1990年頃に急に変化したかということだす。もし温暖化が二酸化炭素などの温暖化ガスの量によるのなら、そんなに急激に増加しないはずで、急激に気温が上昇した後は徐々に気温が低下していることも気になる。このように地球全体の気温が二酸化炭素の影響としても個別の変化は必ずしも同じではないこと、私たちの感覚はさらに部分的であることがわかる。
第二に一回目の変化では1.5℃、二回目では2℃も変化しているが、その期間も5年以下である。これに対して恐れられている21世紀の地球温暖化では、100年間に3℃から8℃と予想されている。地球全体の気温だからその影響は大きいのだが、それが個人に与える影響としては日本の冬の気温変化の方である。
これらをまとめると、下の表にあるように平均的にはこの100年に1℃程度気温が上昇していること、主として冬の気温が上がっていることが判る。
ところで、先回、「地球温暖化にも少しは良いことが無いのか?」ということで気温が高くなると虚血性心疾患が減少することを示した。でも、暖かくなって良くなるのはそれだけではないので、少しここでも「地球温暖化になると良いこと」を追加しておきたい。
一つは農作物だ。農作物で一番、怖いのは「冷害」で、ほとんどは冷夏が原因しており、豊作の年は夏が暑いのが特徴である。そこで農作物の収量と気温の関係を示したグラフを稲作について整理したものを次のグラフに示した。
また、農作物も生物なら、魚も生物だからやはり気温や水温が高いほど魚の捕れる量も増える。下の図は太平洋で捕れるカタクチイワシの漁獲量を示したものだが、鰯の漁獲量は周期的に変化する。太平洋の水温を横軸にとり漁獲高を縦軸に取ると、周期的に見える鰯の漁獲高も、水温が高くなると鰯が良く捕れるというようにも見える。つまり、1910年から1940年まで鰯の漁獲高が増えたのは太平洋の海水温があがったからとも言える。
そして1940年から1970年にかけて太平洋の水温が低下するとイワシも捕れなくなった。しかし、この頃、盛んに「乱獲によってイワシが捕れなくなり、イワシも高級魚になった」と言われたものだ。この30年間は地表の気温も下降気味だったので冷害による農作物の被害も見られた。1980年代よりまた太平洋の気温が高くなるとイワシの漁獲量が増大し始め、最近ではまた多くのイワシが捕れるようになっている。
温度と生産量の関係を整理するには、横軸に太平洋の水温の逆数、縦軸に漁獲高の対数を採るのが普通で、こうして描いたグラフが直線に乗っていると、「温度によって反応速度が変わった」と判断する。実際にプロットすると、次の図のように見事な直線になる。このプロットはアレニウス・プロットといって科学の世界では多用されるもので、温暖化になると食料が多くなって、餓死寸前の人に取っては助かるだろう。
また北海道やシベリアなど今まで気温が低く冷害に苦しんできたところはどうだろうか?100年後には全国のほとんどの場所で稲作が可能になるとされているし、積雪もかなり少なくなるとも予想されている。雪も必要、寒さも必要ではあるが、やはり寒いより暖かい方が人間は住みやすい。だから、地球温暖化が悪いことだけという言い方も少し修正した方がよいだろう。何でも「変化は良くない」という気持ちもわかるが行き過ぎてないだろうか?
(つづく)